第5話 この子は誰だ?

中はいたって普通のログハウスで、落ち着ける空間となっていた。

 鹿の頭っぽいオブジェだったり、騎士の鎧が飾ってあったりもしない、アキヒサにも落ち着ける空間だ。

 台所トイレ洗面所風呂場があり、家具付きであるという至れり尽くせりぶり。

 これがテントだなんて、一緒にされたテントが泣くに違いない。

 それはともかくとして。

 安全が確保されてようやく落ち着けたところで、改めて気になるのがあの幼児だ。

 ちゃんと一緒に屋内に連れてきている。

 まずは幼児をすっぽんぽんのままにさせておくのは幼児虐待な気がして、荷物一覧から「子ども服」をポチる。

 バサッ!

 すると目の前に子ども服が落ちてきたので、早速服を着せていくのだが、ちなみにこの子は男の子だ。

 服はアキヒサと同じく生成りのシャツとズボンの上下で、靴もちゃんとある。

 先程巨大トカゲをワンパンで飛ばしてしまった、肌が白くて髪も白く、まるで人形のように綺麗なこの子どもは一体なんなのだろう?


 ――気になることは、鑑定だ!


~~~

名 前 無し

性 別 男性

年 齢 3歳(精神年齢0歳)

職 業 生体兵器No.03(保護者:戸次明久)

レベル 1

スキル 鬼神レベル100(最大値) 気配察知レベル100(最大値)

※ 昔、ヤンチャが過ぎたので初期化の上、機能停止させられていた個体。愛情を注いで育てて上げれば、優しい子に育つでしょう。

~~~


なんだかぶっ飛んだ結果が出た。

 まず、アキヒサが保護者になっているのは、あのコンピューターの仕業だろうか?

 いや、それよりなにより。


 ――ちょっとちょっと、「生体兵器」ってナニさ?


 この疑問にすかさず「鑑定」が反応したらしく、パネルに答えが出される。


~~~

生体兵器


世界の中心の塔にて造られた、九体の兵器の総称。それぞれの作成者が拘り過ぎた挙句、手の付けられない性格に育ったモノあり。

 なお、破壊処分にされたNo.01以外は、現在でも残存している。

~~~


九体あってNo.01だけが破壊とは、一体なにをしてしまったんだろうNo.01は?

 それにこの子もヤンチャが過ぎたので初期化の上、機能停止したみたいだけれども、どんなふうにヤンチャだったのか?

 盗んだバイクで走り出しちゃう系だったりするのか?

 しかも巨大トカゲをワンパンで伸してしまうあの圧倒的な強さ。

 アキヒサが育った施設にも、ケンカっ早い子どもも不良になった子どももいたが、あれは段違いでヤバい、色々と振り切れ過ぎている。


 ――無理ってことで、お返しすることはできないのか?


 アキヒサは一瞬そう考えたものの、すぐにブルりと頭を振る。

 返すってことは、この子どもを捨てるということで。

 その行為は、施設育ちとしてはなんだか心の中がモやとなった。

 愛情を注げば優しい子に育つとあるし、こんな子どもの内から先入観を持つのはよくないのかもしれない。

 そういえば幼児があのトカゲを伸した時に「≪保護者の危険≫」うんたらと言っていた気がする。

 もしアキヒサの危険を察知して目を覚ましたのだとしたら、子どもは命の恩人だ。

 しかし一方で、子育てとは、施設育ちの自分には荷が重いのではないだろうか?

 なにせ父親と母親が揃っていたり、そうでなくても幸せな家庭像というものがアキヒサの中にはない。

 結婚はいつかしたいと思ってはいたが、まだその結婚に至るような相手と出会ったことがない。

 年齢イコール恋人がいない歴であるというのに。

 アキヒサが迷いつつ、それについてなにかヒントがないかと荷物一覧を眺めていると。


「あ? 育児書っていうのがあるぞ?」


ちょうどいいものを見つけたので、早速取り出してみる。

 やはりというか、一メートル上から落ちてきた。

 その本には「育児書」とタイトルがあったが、ごくごく薄い本であった。

 というか、文字が日本語ではない。

 けれど読める。

 謎現象にビビっていると、やがて「これが言語調整ってヤツか」と思い至る。


「どれどれ、とにかく読んでみるか」


アキヒサは早速その薄い育児書とやらを開くと、そこにはこう書いてあった。


~~~

≪正しい生体兵器の育て方≫

1 一昼夜抱っこし続けると、保護者のエナジーチャージが完了して起動します。

2 起動したら、名前をつけてあげましょう。

3 美味しいご飯を食べさせましょう。

4 適度な運動を促しましょう。

5 夜は添い寝をしてあげましょう。

6 ペットの存在は情操教育に最適です。

~~~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る