第4話 ……テント?

アキヒサは「とにかく早く安全な場所に身を置きたい」と考えた。


「安全、安全を確保できるモノ!

 家とかないか!?」


アキヒサはパニック気味に叫びながら、あのコンピューターから貰った鞄を拾いに行って中を覗く。

 鞄に家とか入るわけがない、とか、そもそもあのトカゲが小さな家ごときで防げるのか、ということはこの時思い浮かばない。

 しかしアキヒサはすぐにその動きを止める。


「……あれ?」


なんと、鞄の中は真っ暗闇だった。

 というか、鞄の中が異次元空間なのだが、鞄の底はどこへ行ったのだろう?


 ――もしやこれは、四次元ポケットとか、ゲームで言うインベントリ的なヤツなのか?


 でもどこになにが入っているんだかがさっぱりわからない。そんな疑問を抱くと、ピロン♪ と目の前に突然あの透明パネルが現れた。


「うわっ、ビビったぁ!」


というかこのパネル、出したり消えたりできるらしい。

 どうやらなにか知りたいと念じたら出現するようだ。

 そしてパネルには「荷物一覧」という文字が表示されている。

 その中には「食料品(一か月分)」や「テント(防御結界付き)」、「子ども服」というのを発見した。


「あるじゃん!」


防御結界という言葉の頼もしさに、アキヒサはすぐにもこのテントを使おうとするが。


「でも、どうやって出すんだこれ?」


アキヒサは首を捻りながら、なんとなくその「テント(防御結界付き)」という文字に触れてみる。


 ポスン!


 するとなにかが宙から落ちてきた。

 アキヒサがここへ出た時もそうだったが、出現ポイントが地面から一メートルほど上なのは仕様なのか?

 これは気をつけないと、割れモノとかだったら出した途端に壊れることになりそうである。

 いや、そんなことよりもだ。

 落ちているのはテントというか、おもちゃの人形を遊ばせるようなミニチュアハウスだった。


「え、なにコレ?」


アキヒサが戸惑って弄っていると、やがてその小さな家から「ビーッ!」と警報音のような音が鳴り響く。

 かと思ったら。


 グィン!


 その小さな家が突然膨らんだ。


「うぎゃっ!」


アキヒサはその家に押しつぶされないように、ヒイヒイ言いながら懸命に走る。

 家が膨らむのが止まったら、振り返ったそこには一軒家が立っていた。


「は? テントじゃないのかよ……」


アキヒサは呆然とその建物を見つめる。外装はログハウス風で、二階建てである。

 家の周囲には柵もあって、玄関ポーチとテーブルセットのある庭付きという立派さだ。


 ――周りの木はどこにいった?


 謎現象すぎて、頭がついて行かないアキヒサであった。

 とにかくこれはなんなのか? 首を捻るも。


「あ、そうか。こんな時こそ『鑑定』の出番だ」


というわけで、この家を「鑑定」してみた。


~~~

圧縮住宅

テントの最終形態。家を縮めて持ち運べるようにした便利グッズ。

結界付きで敷地内には魔物も寄せ付けない優れもの。

~~~


まず一軒家とテントは別物だろうとか、縮めるってなんだとか、色々ツッコミたいが。

 それと同じく気になったのは。


「やっぱり、魔物がいるのか?」


確かにあのトカゲはまさに魔物っぽかった。

 ファンタジー小説なんかでは定番の存在ともいえる魔物だが、そんな定番なんてアキヒサには要らないのだが。

 むしろ危険のないほのぼの世界を要求したい。

 というわけで、アキヒサは家の怪しさはまるっと無視して、速やかにテント住宅へと入った。

 魔物の怖さの前では、怪しいとか不安だとかは吹き飛ぶものなのだ。

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