上巻:彼女の追憶

R-1 転生

 誰かが私を呼んでいる声がする。

 ものすごく遠くから、必死な声で。まるで呼び戻すみたいに。


 ええと、何があったんだっけ。

 あんまり覚えてないけど、確か私は……、どうしたんだっけ?

 なんか、体のあちこちが痛い。動けないし、目も開けられない。寒いし息ができない。


 声がだんだん大きくなってくる。

 そうだ、思い出してきた。私は……私は呼ばれたくなんかない。

 やめてよ。私はもう生きていたくないんだから。


「ローゼリア!!」


 その声で、私の意識は完全に覚醒した。

 それと同時に、完全にパニックになっていた。

 ローゼリア?


 


「ああ、ああ、ローゼリア。良かった」


 目の前には、見たこともない女の人がいた。

 呼んでいるのは私の名前じゃなかった。なんだ、私じゃないなら起きなければ良かった。でも、その目はしっかりと私を見ている。


「わかる、ローゼリア。私よ。あなたのママ」

「だ……だれ……」


 私のママはこんなに綺麗な人じゃなかった。

 あれっ、私ってこんな声だったっけ?

 こんなに幼い声じゃなかった気がするけど。それにしても体のあちこちが痛いし、どうなってるのよ。私、ビルの屋上からふらっと飛び降りたんだけど。

 女の人は苦い顔をして私を抱きしめた。体がぎしりと痛む。


「ああ、ああ。ローゼリア。可哀想に……大丈夫だからね。もうすぐ助けが来るはずだから」


 雨からかばうように、女の人が私を抱きしめてくれる。

 私のママはこんなに優しくなかった。たぶん。


 ローゼリア。うーん、どこかで聞いた名前だ。

 どこだっけ。どこだっけ。つい最近までその名前に親しみを持っていた気がする。その名前で呼ばれていたような気もする。何度も何度も。別の声で。推しの声で。


 あ、そうだ。思い出した。


 ローゼリア・フォン・フェルディだ。

 最新にして最愛の推し乙女ゲームの「ヴァイセローゼ ~白薔薇の君に捧ぐ~」の主人公。それがローゼリアだ。あだ名はローズ。

 そういえば、オープニングもこんな感じだった。


 十歳のローゼリアが馬車で事故に遭って、それから、この女の人そっくりのお母さんが……。


 ……えっ。

 どういうこと?

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