第85話 ハグの力

 海斗は皆を引き連れ、小野梨紗の家に着いた。海斗はインターホンを押すると、小野梨紗は玄関ドアを開けた。

「皆、いらっしゃい! 待っていたわ」海斗は謝った。

「ちょっと、遅れちゃったね。待たしてゴメンね」

 鎌倉美月は買い物袋を持ち上げた。

「梨紗! 夏の勉強会のように、沢山買って来たわよ」

 皆も買い物袋を持ち上げて見せた。

「わー、凄い量ね、有り難う。どうぞ中に入って!」


 皆は玄関で立ち止まった。松本蓮は尋ねた

「なあ、梨紗! 靴は脱いで良いんだよね」

「ああ、靴のまま上がって……」


 皆は驚いて口を開けた。小野梨紗は、すかさず言った。

「うっそー!」

 皆は海斗を睨んだ。海斗は顔を手で覆い呟いた。

「え! なんで?」

 小野梨紗は首を傾げた。

「もしかして、このネタ、海斗がやっちゃった?! ププ、御免なさい。靴は日本の習慣の通り玄関で脱いでね」

皆はリビングに通された。


 エレンがリビングで皆を迎えた。

「まあ、皆さん、いらっしゃい。わざわざ来てくれて有り難う。さあ、入って座って下さい」


 リビングのソファーは前もって壁側に動かし、大きなラグの中心に大きめのローテーブルが置かれていた。


「まあ、海斗君、久しぶりね。元気だった? また会えて嬉しいわ」

エレンは海斗にハグをした。皆は不思議な感覚で海斗を見た。

 小野梨紗は気付いた

「ああ、ごめんね。すぐ終わるから。気にしないでね」


 ハグが終わると海斗は言った

「元気だよ、エレンおばさん。今日は皆でお部屋をお借りします。この間はクッキー作りを教えてくれて、有り難う」

エレンはニコッと笑った。


 海斗はエレンに友達の紹介をした。皆も一言ずつ挨拶を返した。小野梨紗は皆をローテーブルに着かせた。エレンを初めて見る友達は緊張をしていた。よそ行きモードのまま、皆は教科書とノートを開き自習を始め、リビングは静かになった。

 エレンはジュースを入れテーブルの中央に置いた。


 エレンは帰国後、初めて出来た梨紗の同級生を近くで見て微笑んだ。日本に同い年のお友達が、こんなに出来て嬉しいわ。皆、可愛いくて賢そうね。海斗君も凜々しいし、松本君もハンサムね。この子達がいつも話題に出てくるお友達なのね。エレンは嬉しくなった。


 自習だったが、いつの間にか皆は、英語の勉強をしていた。小野梨紗は先生役となり皆を教えた。エレンは見ているだけでは我慢が出来なくなって、松本蓮の後ろに座った。

「マツモトクン、良かったら、私にも手伝わせて」

 小野梨紗は、エレンが嬉しそうな顔をしていたので流した。海斗は話しかけた。

「蓮、エレンおばさんは若い頃に、英会話の先生をしていたんだ」

「へー、凄いね。エレンおばさん、宜しくお願いします」


 松本蓮は長文を指差し相談をした。エレンおばさんは流暢な日本語で答えた。

小野梨紗も、その様子を見て安心をした。

「じゃあ、蓮と美月はママが見てあげてね。私は美咲と莉子を見るからね。それと、海斗は出来るから、いいよね」


 エレンは五十分程、勉強を見てあげた。松本蓮はお礼を言った。

「サンキュー・ベリー・マッチ! ミセス・エレン」

「ワオ、アメージング! マーツモートクン」

 不意に出された英語は、エレンを感動させた。エレンは松本蓮にハグをした。

松本蓮はハグをされて赤くなった。


「マツモトクンは、シャイボーイね」

 松本蓮は頭を掻いた。鎌倉美月はホッペを膨らませた。エレンおばさんは松本蓮の目線の先を追った。エレンは姿勢を戻し鎌倉美月に向いた。

「貴方がマツモトクンからプロポーズをされた、カマクラサンね」


 鎌倉美月は真っ赤になった。エレンおばさんは鎌倉美月にハグをした。

「ソー、キュート!」

 鎌倉美月の目が点になった。小野梨沙は慌ててエレンの肩を叩いた。

「もー、お母さん、皆ビッグりしているわよ!」


 エレンは姿勢を戻した。

「あら、あら、ごめんなさい。可愛くて、ついつい。ねえ、カマクラサンは、マツモトクンとキスをしたの?!」


皆に衝撃が走った!

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