第71話 葵の勘繰り

 林莉子は考えた。

「そうね、男子がいるなら、行って見ようかな、ねえ美咲」

「うん、海斗、行ってみるわ」

「じゃあ、来週の火曜日の放課後ね。今年は三の酉まで有るから、雨だったら次の二の酉か三の酉に行こうか!」小野梨沙は海斗を見た。

「お祭りなのに何回も、有るの?」

「そうだよ、いつもは二の酉までで、三の酉が有る年は火事が多いって、言われているんだ」

「へー、お祭りが3回も有る年が有るのね」

海斗達は一の酉に行く事を決めた。


 (海斗の自宅にて)

 この日も正太郎の帰りは遅く、海斗は明子と葵と三人で夕食を食べた。

「ねえ、お母さん、酉の市に行った事はありますか?」

「ええ、船橋にも船橋大神宮で、酉の市が行われているわ。若い頃に行った事があるわよ」

「大神宮で行うなんて、珍しいね。大鷲おおとり神社じゃ無いんだ?」

「そうね、鷲神社を参考にした祭りなのかもね、一カ月遅い十二月に行うのよ」

「へー、そうなんだ。横浜にある酉の市とは違うんだね」

「ねえ、お兄ちゃん、横浜でも、やっているの?」

「やっているよ、葵も知っている伊勢佐木商街の隣りの街で、やっているよ」

「それで、お兄ちゃんはいつ行くの?」

「えっ、未だ行くって言って無いのに……葵は鋭いな!」

「そりゃあ、そうだよ! お兄ちゃんが、こう言う話をする時は予定している時よ」

「お見通しなんだね。来週火曜日の放課後にクラスの友達と行く事にしたよ」

「私も行く! ねえ、良いでしょ。ねえ、お兄ちゃん」


 葵は駄々をこねた。そして海斗は明子の顔を見た。やはり困った顔をしていた。

「それじゃあ、一緒に行こうか。放課後だから正門で、待ち合わせをしようね」

「うん、久しぶりだな、お兄ちゃん達と出掛けるの。楽しみにしているね」

「海斗さん、いつも葵の我がままに突き合わせて、悪いわね」

「ううん、いいんだよ。お母さん」


 (酉の市 当日)

 休み時間の教室で、海斗は皆に言った。

「ねえ、皆、この間ね。夕食の時に酉の市の話をしたら、葵に勘ぐられちゃって連れて行く事になったんだ」鎌倉美月は海斗を見た

「それで葵ちゃんは、どうやって合流するの?」

「放課後に正門で待ち合わせなんだ」

 小野梨沙も海斗を見た。

「葵ちゃんに会うのは、久しぶりだね」

 中山美咲は焼き餅を焼いた。

「ホント、葵ちゃんは海斗が好きなのね」

 林莉子は引いた。

「やめてよー! 兄妹でしょ。ブラコンなのかしら?!」

皆は苦笑いをした。林莉子だけ苦笑の意味が分からなかった。


 海斗達は授業が終わり正門に向かった。すると葵が手を振って待っていた。

「お兄ちゃん、待っていたよ! 皆さん、こんにちは」

 皆は葵と挨拶を交わした。海斗は皆に言った。

「葵と合流出来たし、じゃあ、行こうか! 」

「ちょっと、待って、お兄ちゃん!」

 葵は海斗の足を止めた。すると、もう一人走ってきた。

「お姉ちゃん、待って-! 葵ちゃんお待たせー!」

 中山美咲はうなだれた。妹の中山陽菜が現れたのだ。彼女は葵から酉の市の連絡を受けていた。海斗は葵を見ると葵はとぼけた顔をした。

 陽菜は中山美咲に話しかけた。

「お姉ちゃん、出かける時はちゃんと言ってよ! それと伏見め! お姉ちゃんは

渡さないからな!」

 中山美咲は海斗に頭を下げた。

「ごめん、海斗、相変わらず痛くて。陽菜もいい子にしているのよ」

「お、お姉ちゃん、今、伏見の事を下の名前で呼んだの?!」

 中山陽菜は膝を付き、頭を抱えた。

「にっくき伏見、さては姉上と接吻をしたな!?……くっそー!」

中山美咲は陽菜の頭に拳骨をした。「ゴツン!」

「もー、陽菜、お姉ちゃんに恥をかかせないで! 九月から友達は下の名前で呼び合うようになったのよ。あっ、この事、葵ちゃんは知っていたかしら?」

「はい、お兄ちゃんから聞きました。陽菜ちゃん、心配しなくて良いんだよ」

陽菜は立ち直り、皆は笑った。海斗は皆を引き連れた。

「さあ、行こうか!」

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