第5話 コスモワールド(2)

 皆が次に向かったアトラクションは「恐怖の館」定番のお化け屋敷だ。

海斗は林莉子に話しかけた。

「今まで居た、体格の良いスタッフジャンパーを着た人達が居なくなったね」

「そう言えば居なくなったね、もうすぐお昼だから交代したんだよ」

海斗は林莉子の言葉に首を傾げた。続けて中山美咲に見付け話しかけた。

「中山さん、楽しんでいる?」

「ええ、こう言う所は、あまり来ないから楽しいわ。伏見君も楽しそうね、小野さんと一緒で!」

 海斗は驚いた。中山美咲の後ろには目が付いているのかと思った。海斗は嫉妬から口が滑ってしまった。

「中山さんこそ、京野と一緒で楽しそうだね!」

中山美咲はホッペを膨らますと、林莉子が間に入った。

「まあ、まあ、お二人さん。似たもの同士なんだから……楽しくやろうよ!」


 海斗は素に戻った。

「ごめん中山さん、京野が居なくなったし、楽しくなるよ、きっと」

「そうね、強引な人がいなくなったから、楽しめるよね伏見君」


 お化け屋敷は二グループに別れて進むと事になった。一つ目のグループは、伏見海斗、中山美咲、林莉子。二つ目のグループは、松本蓮、鎌倉美月、小野梨沙となった。海斗と中山美咲をくっつけたのは、林莉子が仕組んだ、くじ引きだった。


 一つ目のグループが出発をした。海斗は所詮、子供騙しと高を括っていたため驚かなかった。しかし女子は違った。中山美咲と林莉子は、恐がり海斗の腕に抱き付いた。海斗はまさに両手に華なのだ。しかし幸せな時間は長くは続かなかった。

 海斗達の後方から悲鳴が聞こえた。「ギャー」それも聞き覚えの有る男女混合だ。更に足音と声が大きくなった。

 後発の松本蓮のグループだった。松本蓮は同じく両手に華にも関わらず、お化けが苦手だった。他の二人も作られた恐怖に耐えきれなかったのだ。一人一人の恐怖が共鳴して、集団パニックに陥ったのだ。せっかくのおばけトラップも体験せずに走り逃げた。そして暴走した二つ目のグループは、一つ目のグループに接触して追い抜いた。


 海斗は第一走者の松本蓮に接触後転倒、仰向けに倒れた。第二走者の小野梨沙は林莉子に接触、前倒しに転倒した。第三走者の鎌倉美月が中山美咲を跳ね飛ばした。飛ばされた中山美咲は、お尻から床に落とされが、その床には、既に林莉子が倒れていたので慌ててかわしたが、そこには海斗の顔が有った。


 海斗は自分の顔に、中山美咲のお尻が迫って来のが分かった。一コマ、一コマ、スロー再生のように、その瞬間が見えた。中山美咲が転倒しスカートが勢いよく舞い上がった。舞い上がったスカートからは、純白の下着が見えた。お宝ショットを脳裏に焼き付けたが、次のコマでお尻が迫ってきたのだ。喜びも儚く危機感を覚えた瞬間に顔面に強い衝撃受けたのだ。憧れの女の子のお尻が、純白の布一枚で接触していると言うのに、ときめくどころか頭が割れる程に痛く気絶した。


 海斗はお化け屋敷外のベンチで横になっていた。松本蓮がお化け屋敷から運んだのだ。中山美咲は泣いていた。

「伏見君ごめんね。重かったよね。痛かったよね」

ポタン、ポタン、中山美咲の頬から涙が流れ、海斗の顔に落ちた。


 海斗は気が付いた。温かいな~、何でココにいるんだろう。俺、何をしていたんだっけ? うっすら目を開けた。

 あれ、中山さんの顔が正面に見える。顔と体がこんなに近くに見える? もしかして膝枕? もうちょっと、こうしていいたいな。再び目を閉じた。ポタン、ポタン、中山さんが泣いている? 何で泣いているんだろう。飛ばされた時に中山さんの下着を見ちゃったから怒っているのかな。起きなくちゃ、イテテテ! あれ? 体が動かない。

 中山美咲は言った

「ねえ伏見君、起きて、伏見くーん」

 海斗はゆっくり目を開けた。中山美咲に小さな声で話しかけた。

「もう少しだけ、こうしていてもいいかな? とっても居心地が良いんだ~」

「良かった目が覚めて。いいよ伏見君、特別だよ。ごめんね、重かったでしょ」

 暖かくて柔らかい彼女の膝枕は、女の子の良い香りがした。中山美咲は涙を拭いて微笑んだ。海斗はゆっくり体を起こしベンチに座った。


 皆は海斗の周りに集まり様子をうかがった。海斗は皆を見回した。

「あ~、腹へったー、お昼、食べに行こうよ!」

さっきまで、心配をしていた仲間は笑らった。


 皆は橋を渡り南側のエリア(ワンダーアミューズゾーン)へ移動した。昼食を取ると午後から京野颯太が合流をした。

 京野颯太は頭を掻きながら中山美咲に謝った。

「やあ~、済みません美咲さん。主役が抜けてしまい、寂しく有りませんでしたか?」

 中山美咲は苦笑で返した。中山美咲の代わりに海斗が答えた。

「寂しくなんか無いよ! さっきまでエスコートって言っていたくせに、今度は主役か!」


 再び、アトラクションに向かった。この東エリアは、ジェットコースターなど、絶叫モノアトラクションが集まっていた。海斗は再び変化に気が付いた。

「ねえ林さん、京野颯太が戻って着たら、また体格の良いスタッフジャンパー

を着たスタッフが増えたね」

「あっ、伏見君も気が付いた? お昼休みから帰って来たんじゃないの?」

 林莉子は遊園地に京野颯太と一緒に居られる事が楽しくて、スタッフの行動は気にもしていないのだ。海斗はこれだけ機会が有っても、いつも小野梨紗と乗車するのは可笑しいと思い、疑いの目を京野颯太に向けた。


 いよいよ、最後の乗り物となった。ラストにふさわしいコスモクロック大観覧車だ。この観覧車は直径が百メートルあり一五分かけて一週をするのだ。側面には七色に光る照明と、中央にデジタル時計が付いた大観覧車である。横浜港を代表する顔の一つでもあるランドマークだ。


 海斗の提案により今度は誘導されないように、あみだくじで組み合わせを決めた。

一つ目のゴンドラに松本蓮と林莉子。二つ目のゴンドラに伏見海斗、中山美咲、小野梨沙。三つ目のゴンドラに京野颯太、鎌倉美月の予定となった。海斗はようやく中山美咲と乗り物にのる事になった。


 皆は並び、乗車口に向かうと、またしても乗車間際に中山美咲は、海斗のゴンドラから京野颯太のゴンドラに強引に誘導され乗車した。

 次々とゴンドラは移動した。一つ目のゴンドラでは松本蓮がはしゃぎ、ゴンドラを揺らした。高所恐怖症の林莉子は、手すりに捕まり悲鳴を上げた。

「キャー、おいコラ! 松本、お前殺すぞ!」かなり必死である。

 二つ目のゴンドラは、海斗と小野梨沙になった。中山美咲も最後に誘導されている事に気が付いたが、乗り換える事が出来なかったのだ。またも、海斗と小野梨紗の二人でだけで乗車となった。

 三つ目のゴンドラは京野颯太、中山美咲、鎌倉美月となった。


 二つ目のゴンドラは海斗と小野梨沙は向かい合わせに座っていた。小野梨紗は偶然が続き、これは必然なんだと考え方をシフトした。

「ねえ海斗、今日は楽しかったよ。私と乗ってくれて有難う。私ね運命感じちゃった。計画もしていないのに、いつも海斗がそばにいてくれるなんて……」

 小野梨紗は観覧車のムードに高揚した。そして観覧車はゆっくり回転を続けた。一番高い所に来た時だった、他の観覧車が見えなくなり視界が開けたのだ。

「海斗、隣に座ってもいい?」

「バランスが崩れるから、そこに居なよ! お願い!」

小野梨沙は周りに視線が無い事を確認して、席を立ち海斗の隣へ歩いた。するとゴンドラは傾いた。小野梨沙が叫んだ

「キャー!」


 傾くのは当然である。傾いた弾みで小野梨沙は海斗の両肩を両手で掴み、膝を揃えて、海斗の膝に座った。

 海斗は驚いた! これは大人の女性が男性を虜にするポーズではないか?! あまい言葉をささやかれるやつだ。この状況は誰かに見られてはまずい、早く戻さなくては!


 高揚した小野梨沙は、肩を掴んだ両手を海斗の首に回し、そっと海斗の頬にキスをした。海斗は初めて女性にキスをされたのだ。すると下に居たはずのゴンドラから女の子の叫び声が聞こえた。

「キャー!」


 海斗は声の方に顔を向けると、下のゴンドラが頂上間際となり真横にいたのだ。そこには鎌倉美月と、口を覆う中山美咲の顔が有った。


 海斗は慌て事態の収拾を図った。ゴンドラの傾きを直すように、小野梨沙を対面にゆっくり座らせた。小野梨紗は高揚したまま、背中の先で起きている事態に気付かず観覧車を楽しんだ。まだ半周近く有るのに、降りてからの言い訳を探す海斗でであった。


 皆は観覧車から降りて集まった。すると京野颯太が仕切り始めた。

「今日はとても楽しかったね。僕は急用が入ったけど、御蔭でリスク回避が出来た。これも良い思い出になったよ。終わり良ければってね。それと先程、ゴンドラの中で話が決まってね。美咲さんと鎌倉さんは、最寄りの駅までリムジンで送る事になったよ。皆は電車で気を付けて帰ってくれたまえ!」

 林莉子は羨やんだ。

「えー、い~な~、京野君、私も乗りたい!」

「林さんも小野さんも、お送りしますよ。どうぞ! それで定員はいっぱいだけどね」

 小野梨紗は答えた。

「京野君ありがとう、私は海斗と帰るから遠慮するね」

「残念ですが、今度にしましょう。いろいろ有るでしょうからね、フフフ」

京野颯太は笑みを浮かべ、海斗達から三人の女子を奪い去って行った。


 海斗達は残され、松本蓮はふてくされた。

「おい、海斗、人生って不公平だよな!」

「蓮、同感だよ、所でスタッフおかしくなかったか?」

「こんなものだろう、遊園地のスタッフなんて」

 松本蓮は誘導される対象ではないのだから。不自然な事に気が付かなかった。

小野梨紗は三人の真ん中に入り腕を組んだ。

「三人で仲良く帰ろうね!」

「そうだね、仲良く帰ろうぜ、小野さん。しかし美月まで、行く事はないよな! 幼馴染みなんだからさあ、なあ海斗?」

 海斗は頭を押さえていた。

「ゴメン、今日は疲れたよ。今さら、また頭が痛くなってきた」

 松本連は海斗を見た。

「飯を食って、早く寝れば直るよ!」

三人は夕陽を浴びて、桜木町駅に向けて歩いて行った。


 海斗は一人になると、歩きながら中山美咲の事を思い出していた。お化け屋敷で頼りにされた事、楽しかったな。純白の下着が見えた事、嬉しかったな。お尻が乗った事、これはやっぱり痛かったなー。膝枕をしてくれた事、居心地が良かったな。しかし中山さんに見られた事は、まずかったなー。何て言い訳しようかな。海斗が始めて誘った遊園地は苦い思い出になった。

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