第30話 名前で呼ぼうよ

 海斗は友情を深める二学期だからこそ、新しいスタイルを考えていた。席替えにより仲間の席が近くなったので皆に提案をした。昼休みを告げるチャイムが鳴ると、海斗は仲間に話しかけた。

「ねえ相談があるんだ、皆聞いてよ。折角、席替えで近くに集まったから、お昼は机を並べて食べてみようよ?!」

海斗グループの仲間は顔を見合わせて、照れくさい顔をした。

 小野梨紗は一番最初に答えた

「いいねー! 私、皆と顔を合わせて食べたかったんだ!」

 松本蓮は嬉しそうに答えた。

「良いこと言うじゃん! 俺も皆と顔を合わせて食べてみたい!」

鎌倉美月は松本蓮と一緒に食べられることが嬉しくて賛成をした。

 林莉子は照れた。

「やだー! 小学生みたいよ。今更恥ずかしいわ。ねえ美咲はどう思うの?」

「そーねー、私も皆と話をして食事をしたいわ。だってその方が楽しいでしょ」

 海斗は仕切った。

「それじゃあ、明日からね」

 小野梨紗は海斗を否定した。

「そんなのダメだよ。楽しい提案なんだから、今からよ!」

皆は驚いた「えー! 今から!」


 皆は照れくさい顔をして机を並べた。まるで小学校の給食の風景様になったのだ。最初はこんな感じで始まった昼食の時間だったが、数日経つと恥ずかしさが消え、むしろ皆で取る食事が楽しイベントとなった。


 海斗は更なる提案を考えた。海斗は常々、名前の呼び方に疑問を持っていた。松本連と鎌倉観月はファーストネームで呼び、小野梨沙、中山美咲、林莉子には名字で呼んだ。更に小野梨沙と二人だけの時にはファーストネームで呼ぶのだ。


 昼食が食べ終わる頃に、残りの時間で海斗は提案をした。

「ねえ、皆、相談が有るんだけど、聞いてくれるかな」

 仲間は注目をした。

「折角、仲良くなれたから、呼び名をファーストネームで呼び合うのはどうかな? 幼馴染みだけが、ファーストネームを呼ぶのは、差が付いているみたいでさ……」

 海斗は皆の顔を見回した。皆はきょとんとしていた。鎌倉美月は微笑んだ。

「良いよ、海斗! 私はそれ程、変わらないしね。それに林さんと小野さんの間はファーストネームで呼び合う仲だしね」

 小野梨紗は嬉しかった

「私も良いよ! だって私、梨紗って呼んで欲しかったんだもん」

 松本蓮も前から不自然だと感じをしていたのだ。

「俺も、前から思っていたんだ。さん付けの名字とファーストネームが、混在するのは可笑しいよね。だから賛成だよ」

 海斗は二人を心配した

「一番、抵抗が有るのは、中山さんと林さんだね、俺達を呼んで貰えるかな?」

 林莉子は両手を胸の前で組み、空を仰いだ

「なんか、男の子の名前を呼び捨てにするなんて! 青春しているみたいで良いわ! ……でも、私、言えるかしら」

 中山美咲は否定的だった

「私は、抵抗があるかな、名字の呼び捨てすら出来なのに、下の名前を呼び捨てにするなんて」小野梨紗は中山美咲を見た

「そう考えるから、ダメなんだよ。中山さんが莉子って呼ぶ時は、呼び捨てのつもりは無いでしょ。むしろ親しいから出来る呼び方なんだよ。試しに梨紗って言ってみてよ」


 中山美咲は小さい声で言った

」小野梨紗は大きな声で返した。

「うん! いいよ、アメリカに居た時の頃を思い出すよ」

 海斗は気遣った

「中山さんは、無理しなくてもいいよ。強引にはしたくないんだ」

 小野梨紗はファーストネームで呼び合いたかったのだ。

「じゃあ、中山さんだけ、名字だね、ね、海斗」

「そうだね梨紗」林莉子は思った

「えー、伏見君自然! なんで? あっそうか、幼馴染だもんね」

「海斗、皆の前で梨紗って言ってくれて、嬉しいよ!」


 中山美咲は思った。ここで私だけが名字だと壁を作っているように思えるし、伏見君を海斗って呼べるチャンスでもあるし変えてみようかな。中山美咲は決断した。

「私も変えるわ! 皆、美咲って呼んでね」

 小野梨紗は笑った

「じゃあ、莉子も、美咲も、決定だね! 今からだよ」

中山美咲と林莉子も赤い顔をした。


 海斗の提案は、皆に受け入れられた。松本は蓮焦った仕草をした

「あっ、ヤベー! 次の英語の宿題をやっていなかった!

お、り……! 見せて」

 小野梨紗は微笑んだ

「蓮! いいよ! なんか私も幼馴染みみたい」

 松本蓮は嬉しかった。すると鎌倉美月は頬杖を付いた。

「……微妙、蓮さあ、名前を呼ぶだけじゃ無くて、感情が入っていなかった?」

「やだな~、美月、そんな事はないよ」

 海斗は時計を見た

「じゃあ、そろそろ机を戻そうか、これから宜しくね、莉子、美咲」

 林莉子は答えた

「わかったよ、、……キャー、恥ずかしい!」

林莉子は手で顔を覆った。

 中山美咲も答えた

「わかったわ、か、か、! ……君」

 中山美咲も赤くなった。そして言い出した海斗も赤くなって机を戻した。

やはり下の名前の方が、心の距離が近くなった事を実感させるのだ。

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