第29話 水泳の授業

 今年の夏は残暑も厳しい暑さだ。二学期はプールの授業が本格化する。男子も女子も、気になってしまうプールの授業。男女に分かれ授業が行われた。この暑さのせいで、冷たいはずの水が、ぬるま湯のようになっていた。


 男子の授業はスパルタだった。準備運動を済ませると、二十五メールのプールの十往復が始まった。とても女子を見ている余裕すら無かった。ようやく十分の休憩となった。


 男子は夢中で、女子を見ていた。松本蓮は話しかけた。

「おい、遠藤、橋本さんスタイル良いよな! 箱根旅行を思い出しちゃうよ」

「松本、実は俺も同じ事考えていた。あれはラッキーだったよな」

「ビキニの橋本さんも良かったけど、スクール水着の橋本さんも、萌え萌えして良いよな~」

「うん、うん、分かるよ、遠藤!」海斗も加わった。

「俺も、あの時は感動したよ。あんな奇跡が起こるなんてさあ、水面から出てきたらぷるんぷるんが、ボインボイン、だったよな! なあ蓮」

「海斗、良い表現するじゃん! は、は」遠藤駿は続きた。

「そうだな、男子なら口に出したくなるフレーズだよな」

 松本蓮が歌い出した。

「ぷるんぷるんが、ボインボイン」

 続けて海斗が三度高い音で同じフレーズを重ねた

「ぷるんぷるんが、ボインボイン」

 更に遠藤駿が二度高い音でフレーズを重ねた。

「ぷるんぷるんが、ボインボイン、ぷるんぷるんが、ボインボイン」

 言葉が、繰り返す事でリズムになり、三人が重なった事でメジャーコードとなった。更に三人は両手を胸の前に並べ、上下に揺らし振りまで付けた。繰り替えされる事で、記憶が呼び戻された。京野颯太は三人が奏でる曲に広がりを感じ、臨場感に飲み込まれた。


 京野颯太は手を挙げた。

「先生! 済みません。鼻血が出ました!」

「もー、女子でも見ていたんだろ! 今日に限って保健委員が休みか。ちょっと保健室に京野を連れて行くから、男子はもう少し休憩だ。いいか、事故になると大変だから、プールには勝手に入らないようにな!」


 男子生徒は清々と女子鑑賞時間を手に入れた。松本蓮は遠藤駿を見た。

「京野が、珍しく良い事をしたな」

「ホントだね、これで思う存分、女子を見る事が出来るよ。箱根旅行の時にも思ったけど、小野さんって肌が白くて金髪で、いかにもハーフ美少女だよね。……ところで、伏見は小野さんと付き合っているのか?」

「えー! そんな事ないよ」

「だって、仲が良いじゃん!」

「小野さんは小学校低学年の幼馴染なんだよ。親父同士が友達で、遊んだんだ」

「へ~、そうなんだ、それで仲が良いのか~、知らなかったよ。小野さんも可愛いよね。今年のミスグランプリを狙えそうだよ」松本蓮も続いた。

「来月は文化祭で、ミスグランプリが選ばれるんだよね。そうなったら、クラスに二人もミスグランプリが居る事になるよな、大丈夫か海斗?」

「いや~、確かに小野さんは可愛いけど、橋本さんみたいに色気が無いんだよね~」

遠藤駿は照れながら答えた。

「そうだろ、だからグランプリは橋本七海だな! は、は、は」

 海斗は笑った

「ハハ、結局そこに落ちるのか、遠藤にはかなわないな!」

皆で笑った。


 先生が戻って来た。

「残り十分だから、自由時間だ。いいか、泳げない者はちゃんと練習をするんだぞ」


 男子は自由時間に入り、続けて女子も自由時間となった。海斗達の周りに仲間が集まった。小野梨沙は声を掛けた

「海斗、遊ぼ!」

 小野梨沙は海斗の背中に飛び付いて沈めた。水中の中で抱き着いた。海斗は息が続かず、慌てて飛び跳ねた。

「小野さん、死んじゃうよ。せめて息をしてからにしてよ」

 続けて海斗の背後から、中山美咲と林莉子が飛び付いて沈めた。

二人は楽しそうに笑い、悪い事をした。海斗はもがいて水面に顔を出した。

「もー、中山さんも、林さんも酷いよー」

 更に松本蓮と鎌倉美月か背後に回った。

「いっせいのーせ!」

飛び付き沈めた。海斗の仲間は笑顔の悪魔達だ。海斗は慌てて飛び跳ねた。

「もー、もー、もー! 寄って集って、俺を殺す気か! ……でも楽しいよ!」

 皆は笑った。林莉子は微笑んだ

「そうよね〜、プールで遊ぶなんて、箱根旅行を思い出すよね~」


 小野梨沙、中山美咲、林莉子は、海斗のポロリを思い出した。彼女たちは鼻の下を伸ばし真っ赤になった。海斗は思った?

「何で、そんな顔をするんだよ~! ……あっ、あの時、見た表情だ! もしかして俺のポロリ思い出しているんじゃないの!?」


 海斗まで赤くなった。松本蓮と鎌倉美咲はその様子を見て笑った。

「なあ観月、海斗の体、少しだけ体重が戻った感じがしないか?」

「そうね、戻って来ているね。安心するよね」

「海斗が言っていたけど、葵ちゃんとは時間を決めて遊ぶようにしたんだって」

「それでなのね、海斗も反省して考えているのね」

皆は残りの数分、まだまだ海斗と一緒に楽しんだ。

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