第28話 ラブレター

 海斗も松本蓮も立ち尽くしていた。次に来た田中拓海に救われた。田中拓海は様子のおかしい二人に声をかけ、教室に連れて来たのだ。


 教室では中山美咲と鎌倉美月から、マイナスのオーラが発生していた。席の周りはヘンな空気になっていた。小野梨紗が声を掛けた。

「おはよう! 海斗とも蓮も、何を持っているの?」

 林莉子は気が付いた

「ちょっと、アンタ達、あ~、それで……」

 海斗は主張した

「俺だって、ビックリしたんだよ! 別に悪い事はしてないし、まさか、下駄箱の床に置き去りにする訳にはいかないでしょ!」

 松本蓮も続いた

「俺だって、そうだよ! こんなの貰い事故みたいなものだろ。それで美月が怒るのが可笑しいんだよ」遠藤駿は茶化した。

「全校朝礼で持ち上げられると、こうなるんだね。あ~あ、羨ましい! 俺もラブレター欲しいな~」


 小野梨紗は割り切った

「まあ、しょうが無いよ。人気者になったんだからね、ねえ海斗」

「有り難う小野さん、小野さんは優しいね!」

 中山美咲は、ハッとした。確かに一方的すぎたかな、伏見君を取られちゃう。


 海斗は席に着き手紙を置いた。小野梨紗は後ろを向いて、海斗の机を見た。

「ちょっと見せて! あ~、何でハートが書いてあるのよ! あっ、これも」

小野梨紗は、だんだんイライラしてきた。赤鬼のような表情の後、冷めた表情に

なった。

「ハイ、処分、決定!」


 皆は小野梨紗の言葉に驚いた。すると手紙をびりびりと破き始めた。

「えっ、うそ! えー! 折角、貰ったのに、未だ読んでもいないのに、酷いよ!」

破いた手紙からは、更にハートのマークが幾つも現れた。

「じゃあ、海斗、貴方が好きですって書いて有ったら、どうするの?」

「そりゃあ、会ってみないと、なんとも……」

 中山美咲も同調した

「伏見君は、私達の伏見君なんだから、いいのよ、コレで!」

中山美咲も参加して破り始めた。


 海斗の後ろに座る松本蓮の机の手紙も、隣に座る鎌倉美月が破り始めた。

「えー! そりゃないよ、美月、せめて読ませてよ」

 海斗と松本蓮は顔を見合わせた。破り終わると女子はスッキリした顔を見せた。そして林莉子はさっさと片付け、ゴミ箱に捨てた。


 小野梨紗はスッキリした表情になった。

「良かったね、海斗。ヘンな火種を残さなくてね。ねえ中山さん」

「そうよ、鎌倉さんだって、すっきりしたよねー」

 鎌倉美月は釘を打った

「うん、こう言うのは最初が肝心だからね。見せしめにしないと続くんだよ女は。メラメラと家事になったら大変だからね、ま・つ・も・と・君!」

 鎌倉美月は、悪びれた顔をして松本蓮を睨んだ。

「蓮、今度は私が毎回下駄箱をチェックしてあげるね、いいよね」

鎌倉美月に合わせるように、小野梨紗と中山美咲は悪びれた顔をして海斗を睨んだ。


 周りの生徒は、見てはいけないものを見た気がして目を逸らした。京野颯太も中山美咲の嫉妬振りに恐怖を覚えた。これで確かに火種は消えた。女と言うものは怖い生き物である。


 すると鎌倉美月は松本蓮の腕を引っ張り手相を見た。松本蓮はドキっとした。

「美月、もしかして、有るの?」

「あー、キケンだよ! ちょっと短いのが有るよ! 海斗の貰っちゃったんじゃないの! 蓮も気を付けるんだよ」

松本蓮は鼻の下を伸ばすと、鎌倉美月は手の甲を思いっきりつねった。

「痛いよ、美月! 気を付けるよ」


 その日は女子の機嫌が一日中悪かった。他の教室から海斗と松本蓮を見に来る女子が休み時間ごとに来るのだ。席も近い事から海斗の周辺だけが、ヘンな空気になった。その日の放課後、海斗と松本蓮は二人だけで喫茶「純」は向かった。


 (喫茶「純」にて)

「今日はマスター!」

マスターはいつもの様に声をかけた。

「やあ伏見君、松本君。感謝状の話を聞いたよ。おめでとう。まあ、好きな席に

座ってね」


 海斗と松本蓮はカウンターに座り、アイスコーヒーを注文した。

「おや、おや、珍しいね。今日はどんな相談かな」

海斗は下駄箱の手紙の相談した。

「ハ、ハ、ハ、それは大変だったね、凄い焼き餅だ! 君もだね松本君」

「はい、せめて読みたかったよ。もう、こんな事一生無いかも知れないのに、なあ海斗」

「そうなんだよ、昨日までは皆、自分の事の様に祝ってくれたのにね。感謝状を貰っても、これじゃあ素直に喜べないよ!」

 マスターは悩ましい表情をした

「あ~、それで今日は鎌倉さんが居ないんだね、困ったね~」


 すると奥の席に座って居た女子高生が、震えながら歩み寄った。

「あ、あのー、クレーマー事件の時、私もこのお店に居たんです。犯人に立ち向かう行動に私はとっても勇気を貰いました。申し遅れました。私は協立学園一年の三浦つばさと申します。その後も、いつかお会い出来た時に渡そうと思い、鞄の中に入れておきました。良かったら、この手紙を受け取って下さい」


 彼女は真っ赤な顔をして、手紙を松本蓮に向けた。

「えー! 海斗じゃなくて殴られた、俺れなの?!」

「ええ、最初に犯人に向かって行った所が、カッコ良かったのです。私、あなたの事が心配だったんですよ」

松本蓮は赤くなり手を伸ばした。


 すると、森幸乃が帰って来た。

「お父さんただいま! 伏見君と松本君が来ていたのね、いらっしゃい!」

森幸乃は、そのまま階段を上がって行った。

 森幸乃は思った。今、見た映像は女の子が松本君に、手紙を渡そうとしている場面に違いない。ピンときた森幸乃は、すぐに階段を下りて来たのだ。


 マスターはバツの悪い顔をした。森幸乃はカウンターに駆け寄った。

「えー! 松本君、良いの? それ貰ったら、鎌倉さんに言いつけちゃうよ!」

 松本蓮はマスターを見つめ、救いを求めた。

「ああ、このお嬢さんの友達から私が預かって、松本君を経由して渡した所だったんだ」

「ふ~ん、それで、そのポーズなの?」


 マスターは荷担してしまった以上は、貫くしか無かった。

「お嬢さんが丁寧だから両手で受け取ったんだよね。ね、確かに渡したよ、お嬢さん!」

彼女はマスターに愛想笑いをして、席に戻った。

「そうか、そうだよね。松本君がそんな事をする訳ないよね」


 森幸乃は話題を変えた。

「海斗君達、昨日は感謝状もらって凄かったね」

「そうなんだよ森さん、まさかね貰えるなんて思ってもいなかったよ」

「私ね、昨日の放課後にお店に来ると思っていたのよ。感謝状見たかったな~」

「そうそう、全校朝礼の時に、森さんの応援してくれる声が聞こえたよ」

「ホント、聞こえたの? 伏見君、スピーチ上手だったよ」

「有り難う、森さん」

 森幸乃は暫く海斗達のそばを離れなかった。すると三浦つばさとお友達は席を立った。森幸乃は彼女達が退店してから二階に上がった。


 マスターは胸をなで下ろし言った

「ハ~、何か危ない所だった。内の娘にまで、ハラハラさせられるなんて。でも分かったよ、やっぱり貰っちゃダメだな。二人も見ていて分かったと思うけど、信頼関係が崩れるよ」海斗は続いた

「確かに、俺もそう思った。本人じゃ分からないけど、今のを見ると良く分かるね」


 松本蓮は、自分の手相を見てぞっとした。

「海斗、この手相怖いな、少しだけ海斗の気持ちが分かった気がするよ」

「蓮、まさか、あの相が出たの?」

「今朝の騒ぎの時、美月が見て短いのが有るから、気を付けるんだよって言ったんだよ」

二人とも、自分の肩を抱いて震えた。

「海斗、今頃になって思うよ。この手相を羨んじゃいけないね。自分を保つのが難しくなるね」

「それもそうだけど、明日の朝はどうする?」

「俺もそれが心配なんだよ。明日も今日みたいな空気になったら嫌だよな」

マスターは海斗達に助言をした。早速、海斗達は行動に移した。


(翌日の学校、校門にて)

いつもの様に海斗は葵と登校をして、校門で別れた。海斗の先に中山美咲が歩いていた。海斗は駆け寄った。

「中山さーん、おはよう!」

 中山美咲は振り向いた。

「伏見くん お、お、は、よう」

中山美咲は下を向いた。また、手紙を拾う海斗を見ると思い気が重かった。

「今日は大丈夫だよ中山さん。手紙が無かったら動物園行ってくれる?」

「……無い訳、無いよ。伏見君」


 そして二人は下駄箱に着いた。中山美咲は海斗の下駄箱を見た。海斗のロッカーには南京錠がかかっていたのだ。

「伏見君、いつの間にやったの。私、嬉しい」

「だって、こうしないと動物園に行けなくなっちゃうじゃん。昨日の夕方、喫茶「純」のマスターから電動ドリルを借りて、南京錠が掛かるように、蓮と一緒に穴を開けたんだよ」

「伏見君、これで仲直りだね。私ね、伏見君のこう言う気配りが好きよ」

中山美咲は赤くなり、海斗に微笑んだ。二人は一緒に廊下を歩いた。


 教室に入ると、鎌倉美月と松本蓮も仲良くしていた。海斗は自分の席の前に立った。

小野梨紗は海斗の手を見てた。

「あれ? 海斗も今日は手紙を持っていないの? 折角、良く切れるハサミを持って来たのに」

「考えて対策をしたからね、なあ蓮!」

「そうだよな海斗! 俺達は考えて、対策したよな」


 海斗は席に座ろうとして椅子を引いた。

「バサ、バサ、バサ、バサ……!」

机の中から手紙が落ちた。そして海斗は言った

「もうー、勘弁してよー!」

周りの仲間は困った顔をした。

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