第二章 発展編

第27話 二学期の始まり

 史上最高気温を記録した夏休みが終わり始業式を迎えた。海斗の仲間は、みんな元気に登校して来た。先月下旬に体調を崩した海斗に、気遣う仲間達はとても優しかった。


 担任の長谷川先生が教室に入って来た。生徒の顔を見回してた。

「皆、おはよう! 全員揃っているねー! この夏休みに色々な思い出を作った。生徒もいたでしょう。また何事も無く過ごした生徒もいたかな」


 長谷川先生は、突然、海斗と松本蓮に一人ずつ声を掛けた。

「伏見、それと松本は、どんな夏休みだった?」

 二人はきょとんとした顔から、笑顔になり顔を見合わせ先生に言った。

「はい、楽しかったです!」

「うんうん、充実した夏休みの様だったみたいだね。先生はこうして元気な皆と会えて嬉しいです。一学期は友達作りの時間でした。二学期は是非、その友達と友情を育んで下さい。それでは全校朝礼に向かいます。体育館に順番に入場するから廊下に並んで下さい」


 生徒達は廊下に並んだ。小野梨紗は首を傾げた。

「ねえ海斗、何でさっき、二人だけが聞かれたんだろう?」

「知らないよ。何でかな、蓮わかる?」

「いや、俺も分からない」林莉子は答えた

「どうせ、二人ともボケッとしていたんでしょ」

鎌倉美月、小野梨紗、中山美咲は笑った。


 (全校朝礼、体育館にて)

 生徒達が揃うと生徒会が仕切り朝礼が始まった。吹奏楽部が伴奏し生徒達は校歌を斉唱した。次に偉い方々の挨拶が続いた。


 ムンムンと熱い中、退屈な朝礼が進行し黒岩校長先生の挨拶となった。

「皆、元気そうだね。また来賓の方々、本日はお暑い中、来校頂き誠に有り難う御座います。色々と挨拶が続き生徒諸君も飽きてきただろうから、私は手短にします。今日は生徒達の中から、誇らし行いをして表彰される者がいます。心辺りのある生徒はいるかな?」


 生徒達からどよめきが起こり、顔を見合わせた。

「このどよめきは何かな? 皆、良い行いをしているから、自分の事かなって思って顔を見合わせているのかな?」

生徒の中から笑いが起こった。


「普通課二年B組の伏見海斗君、松本蓮君、上がって来なさい」

 生徒の視線が海斗達に向かった。海斗も松本蓮も驚いた。そして海斗の仲間も驚いた。動揺している二人に長谷川先生は指示を出した。

「ほら、そこの二人! ボーとしないで早く行きなさい!」


 海斗達は舞台に上がった。黒岩校長先生は嬉しそうだった。

「伏見君、松本君、上がって来てくれて有り難う。君たちに山手警察署から二件のクレーム犯罪を防いだとして、感謝状が用意されているんだよ。驚いたかい? それでは山手警察署の横川栄治署長様より表彰して頂くから、そこに並ぶように」


 海斗達は驚いた。二件目の話が伝わっているとは思ってもいなかった。二人を知る斉藤教頭先生も嬉しそうな顔をして海斗達を誘導し小声で話しかけた

「伏見君、松本君、私は誇らしいよ。ほらっ、胸を張って!」

二人の背中をポンと叩くと、海斗達は姿勢を正した。


 横川署長は感謝状を読み上げ海斗と松本蓮が表彰されると、黒岩校長先生は嬉しそうに拍手をした。生徒達からも大きな拍手が起こった。海斗達は深々とお辞儀をした。

 斉藤教頭先生は横川所長にお辞儀をして、マイクを持った。

「それでは、代表して伏見君に挨拶をして貰います。急だけど出来るかな?」


 海斗の頭は真っ白になった。タダでさえ緊張しているのに、全校生徒の前で喋る事になり困った。全校生徒も先生も海斗に注目をした。すると港湾課の三年生の列からが声が上げた。森幸乃だった。

「伏見君! 頑張ってー」

続いて海斗達のクラスから声が上がった。遠藤駿は応援をした。

「頑張れよ!海斗」

海斗のクラスと写真部の仲間が応援を送った。

「がんばってー!」


 海斗は演台に立ち、少し考えてから話し始めた。

「皆さん、お早う御座います。まさかこんな事に成るとは、大変緊張をしています。たまたま、喫茶店でクレーマー犯罪に遭遇し、私たちが協力して犯人は逮捕されました。しかし、その単純な行動はリスクの大きいやり方でした。

 その後、校長先生と話す機会が有り、犯人の拳がナイフだったら、どうなりましたかと言われ、はっとしましました。トラブルに対処する事も大切ですが、トラブルに会わないようにする事を教えられ、私達は反省して学びました。

 二回目にクレーマー犯罪に遭遇した時は、犯人に動画で撮影している旨を伝え、経営者のオヤジさんには判断が促せるようにメモを渡しました。結果、暴力も無く犯人は逃げだしました。皆さんも、もしもの事が有ったら参考にして下さい。今日は有難う御座いました」

 海斗は頭を下げると、生徒も先生も大きな拍手が起きた。全校朝礼が終わり海斗達はクラスに戻った。


 (二年B組の教室にて)

 海斗の席には、仲間が集まった。小野梨紗が手を伸ばした。

「海斗、凄いね! 見せて、見せて!」

 海斗は感謝状を広げて見せた。

「凄っい! これが表彰状なのね」

 松本蓮はも驚いた

「いやー、ビックリしたよ~、まさか貰えるとはね、なあ蓮!」

「俺もビックリした! 何でこんなに大げさな事になったのかな~」

 林莉子は手を叩き思い返した

「だから朝一で、長谷川先生が二人に声をかけたのよ。伏見君、スピーチ上手だったよ」

 中山美咲は誇りに思った、

「私ね、自分の事のように嬉しかったよ、伏見君」

 小野梨紗は鎌倉美月に気遣った

「でもさあ、一回目は鎌倉さんが居たんでしょ。それじゃあ、鎌倉さんも欲しいよね?」

 鎌倉美月は、スッキリとした表情をして言った。

「まあ、私はいいわ、二回も怖い思いはしたく無いよ! 蓮が褒められている所を見て、自分の事のように嬉しかったから、それで十分だよ」

「そっかー、言われて見ればそうだよね。二回も怖い思いしているんだもんね」

褒められる事に慣れてない海斗も松本蓮も、おだてられてフワフワしていた。


 すると教室のドアが開いた。長谷川先生は大きな箱を持って入って来たのだ。

「おい、伏見、松本、よく頑張ったな。皆から、もう一度拍手をしてやってくれ」

生徒も長谷川先生も拍手をして讃えた。

「さあ、ホームルームを始めるぞ、まずは皆が楽しみにしている席替えを行う」

 長谷川先生は机の配置に番号が書かかれたプリントを黒板に貼った。箱の中には、番号の書かれたメモが有り、黒板のプリントと照合して席が決定するのだ。


 小野梨紗は譲れなかった

「えー!! 席替えするの! ヤダよ、この席が好きだったのに!」

「そっかー、梨紗は知らなかったんだね。学期ごとに席替えをするんだよ」

 小野梨紗は肩を落とした。

「梨紗、ほら、番号を引きに行くよ」


 生徒立ちは、キャッキャ言いながら席替えを終わらせた。

 小野梨紗は笑った

「やっぱり海斗は、私と離れられないんだね」

小野梨紗は海斗の前席になった。海斗のそばには、海斗の仲間は集まった。


 海斗の右横に中山美咲が座った。今まで席の遠かった中山美咲は喜んだのだが、中山美咲の右横には京野颯太が座った。

 海斗は思った

「京野は、また中山さんのそばか! まったく不自然だな」

 京野颯太はとぼけた

「伏見君、たまたまだよ」

 中山美咲は苦笑した。


 長谷川先生は仕切り直して生徒に伝えた。

「さあ、今日からこの席順だから、明日から間違え無いようにね」

 海斗の新学期は、こうして始まった。山の様な宿題を提出して、帰宅する予定だったが、長谷川先生から呼び止められた。海斗と松本蓮は校長室で二件目の報告をして帰宅する事になった。黒岩校長先生も斉藤教頭先生もご機嫌だった。一回目の時の説教が二回目で反映され、成功した事が嬉しかったのだ。



 (海斗の自宅にて)

 海斗は玄関を開けると、葵は玄関ホールに飛んで来た。

「お兄ちゃん、凄いね、表彰されたんだってね」

 葵は学校の裏サイトを海斗に見せた。海斗はそのサイトに目を通した。今度はフェイクニュースでは無く適切な記事だった。


「葵、今度はちゃんとした記事だね。しかし良く書くね、ココの管理人。将来は週刊誌の記者にでもなるのかな」

海斗は感謝状の筒を葵に渡した。葵は海斗とリビングに入った。


 リビングには明子が居た。

「海斗さん、お帰りなさい。初日は体が慣れないから疲れるわよね。どうしたの、その筒?」

 葵は海斗に確認をして、テーブルの上で広げて見せた。明子も葵も驚いた。

「わー!! 凄い、凄いわ、海斗さん」

「お兄ちゃん凄いよ! お母さん、お兄ちゃん凄いんだよ。学校で警察署長から表彰されたんだって。中等部も同じ体育館だったら見られたのにな!」

 明子は興奮をした。

「海斗さん、凄いわね。私、嬉しいやら、驚くはで、ドキドキしちゃうわ。正太郎さんに早く連絡しなくちゃね」

「お父さんは、仕事中だから連絡しなくていいよ。帰ってから知っても同じだしね」

「海斗さんが、そう言うなら連絡は止めとくわね」

「お兄ちゃん、今日は早い時間だから、ゲームしようよう!」

「じゃあ、時間を決めて遊ぼうね」


 海斗は体調を崩してから、葵と遊ぶ時間に制限を設ける事にしたのだ。部屋着に着替え、海斗の部屋でゲームを楽しんだ。この日は珍しく正太郎の帰りが早かった。

「あら、正太郎さん今晩は早かったのね」

「斉藤から連絡が入ってさあ、海斗が表彰されたんだって!

……ん? 驚かないの?」

「そこに有るわよ。海斗さんが、いつ伝えても同じだから仕事中に悪いって言ってね、連絡出来なかったのよ。ねえ貴方、男の子の母親はこんな楽しみも有るのね。折角、早く帰って来たのだから、褒めてやって下さい」


 海斗は自宅でも二件目の説明をする事になった。海斗にしてみれば、説明は体育館、教室、校長室、帰宅後、そして今と五回目になる。いささか口も重くなったが、夕食は海斗の話題で盛り上がったのだ。


 (翌日の学校、校門にて)

 海斗は、いつもの様に葵と登校をして校門で別れた。後ろから中山美咲が駆け寄って来た。

「伏見くーん! おはよう」

「やあ、中山さん、おはよう。中山さんとはこれから真横の席だね。

何か嬉しい!」


 二人は並んで歩いた。

「私ね、昨日は、嬉しかったんだよ。伏見君の友達で誇らしくなったの」

「有り難う中山さん、そんなに言うと照れるな」

「それでね、教室だと皆が近くなった事もあって、ここで話したいの。動物園の話、覚えている? 九月になったから、どうかな?」

 海斗は喜んだ。

「有り難う中山さん、覚えていてくれていたんだね。行こうよ、二人だけで!」

中山美咲は嬉しそうな顔をした。見つめ合い二人とも赤くなった。


 下駄箱に着き、海斗は下駄箱の蓋を開けると手紙が雪崩落ちた。ハートが描かれた手紙が、中山美咲の足下にも舞い落ちた。海斗は中山美咲の足下の手紙を拾って彼女の顔を見上げた。

 中山美咲はふぐの様にパンパンにホッペを膨らましていた。

「何でハートの着いた手紙を拾っているの! 伏見君なんて知らない!」

 中山美咲は自分一人を見て欲しかったのだ。彼女の瞳には浮気のきっかけを集めている様に映ったのだ。中山美咲は海斗をおいて、一人で教室に向かった。


 海斗は立ち尽くした。続けて仲良く松本蓮と鎌倉美月が一緒に下駄箱に来た。二人は海斗に声をかけた

「おはよう、海斗」

「……」海斗の返事が無かった。


 松本蓮も下駄箱の蓋を開けた。やはり手紙が雪崩れ落ちた。松本蓮は慌てて拾い始めた。鎌倉美月は言った

「蓮、私、ショックだよ。何してんだよ! バカ」

 鎌倉美月も一人で教室に向かった。松本蓮は海斗を見ると、海斗も沢山の手紙を持っていた。きっと同じような事が有ったのだと気が付いた。

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