第31話 幸乃の転機

 写真部の帰りに、海斗、松本蓮、鎌倉美月、森幸乃は、喫茶「純」に向かった。

「こんにちは、マスター!」

「やあ、伏見君、松本君、鎌倉さん、お帰り幸乃。おっ、今日は写真部の集まりだね。好きな席に座ってね」


 海斗達は店の奥に向かった。すると海斗を呼ぶ声が聞こえた。四人席のテーブルから佐藤美優が話しかけた。

「前に教えて貰ったから、皆を連れて来ちゃった。一回目は橋本さんと二人で来て、今日は二回目なんだ」海斗は佐藤美優を見た

「やあ、佐藤さん。有難う、どんどんお店に来てよ」

 佐藤美優の座るテーブルには京野颯太の仲間が座って居た。京野颯太、遠藤駿、橋本七海、佐藤美優の面々だった。

 海斗は京野颯太を見た

「もー! 京野は何で俺の居る所に現れるんだ!」京野颯太は答えた

「失礼だな、伏見君! ここは君の店か?! ましてや君の居る所では無く、美咲さんの居る所に遭遇するだけだよ! なかなか良いお店じゃないか、ココが暴力行為の有った事件現場なんだね」


 森幸乃は両手を腰に当てて京野颯太ににらんだ。

「チョット、何よ! 殺人現場見たいに言わないでよね! 二年のくせに生意気よ!」


 京野颯太は森幸乃を見ると、急に態度を改めた。

「失礼しましたお嬢さん。私は海斗君と同じ二年B組の京野颯太と申します。

宜しければ、お名前をお教え頂けませんか?」

 森幸乃は無視をした

「伏見君、奥のテーブルに行こう!」

海斗達は奥のテーブル歩き始めた。京野颯太が片膝を床に付け右手を挙げた。

「貴方は何てステキな女性なんだ! 僕と……」

森幸乃は立ち止まり振り向いて言った

「私はね、失礼な男に名前なんて言わないの。安い女と一緒にしないでよね!」


 再び歩き始め、奥の四人掛けのテーブルに着いた。森幸乃は呟いた。

「普通課には、個性的な人が多いのかしら?」鎌倉美月はなだめた

「まあまあ、気にしないで。ねえ森さん、森さんが怒る所を初めて見たよ」

「私、自分の事ならまだしも、お店の悪口は許さないの!」


 海斗は皆の注文を聞いて伝えた

「マスター、アイスコーヒー四つ、お願いします」

「はーい、アイスコーヒーを四つねー」

海斗達は文化祭の相談をしていた。


 するとマスターがやって来た。アイスコーヒーの他にケーキが4つ、テーブルに並んだ。

「あちらのお客様からです」

京野颯太は森幸乃に手を振った。流石、京野颯太だ。気の回し方が早かった。


 森幸乃は席を立ち、両手を組んで京野颯太ににらみ付けた。

「ちょっと、アンタねえ、余計な事はしないでよね! いちよう貰っておくけど、ア、リ、ガ、ト、ウ」

 森幸乃はお店の経営を気にかけた。遠藤駿より松本蓮宛てにメールが入った。

「邪魔してゴメン! 何か京野君にスイッチが入ったみたい」

松本蓮は既読して、遠藤俊に片手を挙げた。松本蓮は仲間に伝えた。


 橋本七海は恋敵の出現に気が付いた。京野颯太は腕時計を見た。

「そろそろ時間なので、お開きにしましょう」

店前には黒塗りのリムジンが止まった。マスターはそれを見て驚いた。


 すると京野颯太は再び、森幸乃に歩み寄った。

「先程はレディーに、大変失礼な振る舞いをしてしまいました。済みませんでした。宜しければ、もう一度、お名前をお聞かせ頂けませんか?」

 森幸乃は困った顔をした

「私は港湾課三年の森幸乃よ」

「怒った顔もステキですよ、幸乃さん。では、またお会いしましょう」

 京野颯太と仲間は店を出た。しかも海斗達の費用まで払って行ったのだ。リムジンをわざわざ呼んで、支払いまで済ます。しっかり見せ付けたのだ。


 マスターは珍しい高校生に唖然とした。森幸乃驚いた

「海斗君、彼は何なの? 何者なの? ホントに同じクラスなの?」

困惑する森幸乃に、海斗は説明をした。

「京野はね、同じクラスだよ。星空の撮影の会に話した男だよ。ほら、森さんが自分を見つめ直すって大事だって、言った時の」


 森幸乃は赤くなった。指先で自分の唇を触り海斗を見た。海斗もその仕草でファーストキスを思い出して赤くなった。海斗も赤くなり動揺をした。松本蓮はピンときて海斗に代わって説明した。


「あの時、格好良く見えたビジネスマンって、例えたのが彼だよ。京野颯太は、あの羽衣商事の長男だよ」

森幸乃もマスターも驚いた

「えー!」


 海斗は続づけた。

「あいつはね、金も有るし頭も良いし、見てくれも良いけどね、見ての通り、空気を読まずにキザな台詞を言ったり、今のケーキの様に、金でものを言わす所があるんだよ。でもさ、これからリクルートでしょ?!

京野と仲良くなっておくと、良いかもよ」鎌倉美月は助言した

「そうだよ、京野君は既に、あの会社の役員だし上手く付き合って就職先を有利に見付ける事が出来るかもよ」

 海斗は続けた。

「俺は散々、嫌な事されたから、お勧めは出来ないけどね。でも社会人の京野は違うんだ。就職に限っては使わない手は無いね」

「そうかもね、まさに渡りに船かもね、君たちと同じクラスだしね。しかし、早々に嫌われる事したからな」海斗は笑った

「ププ、とんでも無いよ。森さんは、あいつの事を知らないから。あんなもんじゃ、へこたれ無いよ。むしろ、これから注意した方が良いよ」

 鎌倉美月も、遊園地の強かさを思い出した。

「森さん、京野君は強引な所が有るから気をつけてね」


 すると、海斗達に歩みよる女子が現れた。恥ずかしそうに下を向いて言った

「あの~、私は横浜三ツ葉高校一年の木下さくらです。私、クレーマー事件の時、この喫茶店に居たんです。あの時、とっても感動しました。良かったら、私の手紙を受け取って頂けませんか?」


 海斗も蓮も、そしてマスターまでもが、ドキドキしていた。海斗と松本蓮は

顔を見合わせた。彼女は顔を上げ、鎌倉美月へ手紙を差し出した。

「えー!」


 皆は驚いた。木下さくらは必死だった。鎌倉美月は答えた。

「うん、有り難う。三ツ葉は女子校だから、こう言うのもアリなんだよね。

でも、私は好きな男の子がいるよ」

「いいんです。渡せて良かったです。では失礼します」

彼女は鎌倉美月の名前を聞き、精算を済ませ退店した。


 森幸乃は笑った

「は、は、は、今日は何て日だ! もう可笑しいよ! 二人に名前を聞かれるなんて!」

 森幸乃は腹を抱えて笑った。そして海斗も松本蓮も美月も笑った。


 森幸乃は思い出した。

「そう言えばさあ、この間、協立学園の女の子から、松本君が手紙を貰おうとしていたんだよ、鎌倉さん知ってる?」

 海斗と松本蓮とマスターは驚いた。鎌倉美月は、やかんの様に興奮をした。

「蓮! 懲りたんじゃなかったの!」海斗は間に入った

「貰わなかったよ、ねえ森さん」

「そう、受け取らなかったよね。ねえ、お父さん!」

 マスターは、更に驚いた。

「な〜んだ、幸乃は性格が悪いなあ。そうだよ、鎌倉さん貰ってないからね。それとね、あの事件以降、お客さんがどうやって知るのか分からないんだけど、クレーマー事件のお店ですかって聞く客が増えてね」

 海斗は不思議な顔をした

「こっちは怖い思いをしたのに、何だか変だよね、マスター」

皆は笑った。


 松本蓮は不満な顔をした。

「美月は手紙貰っていいの? それ読むんだろ?!」

「私は同姓からだから良いの!」

「なあ、海斗はどう、思う?」

「そりゃ、アウトでしょ! マスター、ハサミを借りるね!」


 鎌倉美月は慌てて鞄にしまおうとしたが、松本蓮が奪い取った。海斗はカウンター端にあったハサミを取り、松本蓮に渡した。

「美月は何十枚も蓮宛ての手紙を刻んだよね、たった一枚なら良いよね」

「もー、返してよー!」

松本蓮は立ち両手を挙げた。手紙の真ん中にハサミを入れようとした。

「あー、ダメー!」

鎌倉美月は高い位置にある手紙に手を伸ばしたが届かなかった。海斗は促した

「蓮、そろそろ、どおかな?」

松本蓮は手を下ろし、鎌倉美月は手紙を奪い返した。

「どおだ? 俺達の気持ちも、分かってくれただろ!」

「うん、分かったよ。……じゃあ、今度は私がチェックしてから、読ませて上げる」

 海斗は追求した

「じゃあ、その手紙、俺たちが先に見てから読んでね」

鎌倉美月は困った顔をした。

「嘘だよ、ちょっと困らせて見たかったの。だから俺たちの時にも配慮してね」

「うん、考えてみるよ」

海斗達は手紙の扱い方法に手を焼いた。

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