第23話 海斗の秘密

 海斗は中山美咲と、電鉄会社が経営する横浜駅の映画館に居た。

「伏見君、とっても楽しかったね。今日は映画に誘ってくれて有り難う」

「こちらこそ。中山さんと二人だけの時間が欲しかったんだ。この後、時間あるかな?」

「大丈夫だよ。どこかに行くの?」

「外に出ても、この暑さだし、喫茶店でお茶でもしようよ」

「そうね、それなら喫茶「純」に行ってみたい!」

「横浜駅なら、喫茶店は沢山有るのに?」

「うん」


 海斗は妹の話を打ち明けたかったのだ。しかし喫茶「純」だと森幸乃に聞かれる恐れが有ったので代わりの喫茶店を提案してみたのだが。


「私ね、クレーマー事件の話を聞いて、前から行って見たかったの」

海斗はためらったが、勘ぐられても良く無いので喫茶「純」に行く事に決めた。

「それじゃあ、中山さんの行きたい所にしようね」

「有り難う、伏見君!」


 (喫茶「純」にて)

「こんにちはマスター」

「やあ、いらっしゃい伏見くん。好きな所に座ってね」

 海斗は店内を見回した。

「今日は、幸乃さんはお出かけですか?」

「友達と買い物に出かけたよ」

 海斗は安心をした。マスターから遠い席を選び座った。海斗は中山美咲に

メニューを見せた。

「中山さんは、何にする?」

「伏見君と一緒の飲み物で良いよ」

 海斗はマスターに声をかけた

「マスター、アイスコーヒーを二つお願いします」

「はーい」


 中山美咲は席に着き、店内を見回した。

「ココ来てみたかったの。伏見君有り難う。素敵なお店ねー」

 二人は見てきたばかりの映画の話をした。

「やっぱり学園モノって良いよね。あんな風に高校生を送れたら楽しいだろうね」

「私もヒロインみたいな恋をしてみたいな〜」

「俺もキュキュンする恋をしたいよ。でも俺も今、とっても楽しいけどね」

二人は見つめ合い赤くなった。


 海斗は恥ずかしくなり話題を変えた。箱根旅行の話に移った。

「しかしびっくりしたね。ポロリだよ」

中山美咲は赤くなった。

「えっ、……」

「中山さんも見たでしょ」

 中山美咲は恥ずかしかった。

「見てないよ」

「うそ! あの場所じゃ、絶対見えたよ、大きかったよね」

「そう? そうなの……かな~」

「まさか、しっかり着けているモノがさあ、外れるなんて」

中山美咲は話に着いて行けず、声が大きくなった。

「見えて無いって、言っているでしょ!」

 目撃者の男子の中では、楽しい思い出になっていたが意図する反応と違っていたのだ。海斗は中山美咲の態度にピント来た。

「ああ、橋本さんの話だよ」

勘違いをした中山美咲は、真っ赤な顔になった。

「もう! 伏見君の会話に主語が抜けているのが悪いのよ、恥を掻かせないで!」

「ゴメン、ゴメン」

タイミングが悪く、マスターはアイスコーヒーを持って来た。

「伏見君、お嬢さんを怒らせちゃいけないな」

「マスター誤解だよ、もー」

海斗は困った顔をした。


 海斗は、いよいよ本題に入った。

「中山さん、実は秘密にしていた事が有るんだ」

中山美咲は真剣な顔をする海斗に驚き、これから何を言われるのか心配になった。

「伏見君の秘密? 秘密ってなあに?」

「実は幼馴染みの蓮と美月には、初めに話しをしたんだ。ホームパーティーが有って、やむを得ず小野さんも話をしをしたの」

 海斗は中山美咲の目を、じーと見た。

「伏見君、怖いよ。早く言ってよ!」

中山美咲は目をそらした。


「実はね、五月にお父さんが再婚をして、家族が増えたんだよ」

「伏見君、お母さんが出来たんだね。な~んだ、そんな事なの」

「それでね、葵は再婚相手の子供なんだ」

「えー!」

 中山美咲の声が店内に響いた。マスターまで海斗達を見た

「それじゃあ、歳頃の男女が同じ家で暮らしているのねー!。……それって同棲じゃないの? 一緒に、お風呂に入ったり、一緒のベッドで寝たりするのねー!」

中山美咲はエスカレートした」


 海斗は困った。中山美咲も男脳なのか?!

「違うよ! 一緒にお風呂には入らないし、部屋も別だよ」

中山美咲は胸をなで下ろした。

「うん、それなら良かったわ」

「箱根の部屋割りの時に、葵と一緒の部屋で良いか聞いたでしょ。あの時、ちゃんと伝えなないと、いけないと思ったんだ」

中山美咲は、今まで葵ちゃんに対する周りの不自然な反応を思い出し理解した。


「ねえ伏見君、箱根の時、妹さんと仲良かったよね。そうよ、思い出した! それに、勉強会の時は胃袋捕まれたって、言っていたよね。もしかして、葵ちゃんと付き合っていの! 秘密ってコレの事なの?! 伏見君、私、帰る!」

中山美咲は感情が高まり席を立った。マスターも海斗に目が離せず心配をしていた。


「違うよ、違うってば! そんな事は言っていないよ」

海斗は、なだめて席に座らせた。

「こう言う事にならないように、言っておきたかったんだ。葵とは何の関係もないよ。兄妹なんだからね」

「うん、ゴメンね。伏見君、早とちりしちゃって恥ずかしいわ」

「ううん、いいんだ。中山さんは俺にとって大事な人だから、ちゃんと伝えたかったの。多感な生徒が聞いたら、変な事を思う人もいるからね。だから黙っていたんだ。

 葵は未だ中学生だし俺だけなら何とでもなるけど、葵の事を考えると内緒にしていた方が丸くいくと思うんだ」

「うん、伏見君分かったよ。話をしてくれて有り難う」

「だから林さんにも、秘密だよ」


 中山美咲は今までよりも、深い関係になれたように思えて嬉しかった。嬉しい反面、あの葵ちゃんが同居している事に複雑な気持ちを持つのであった。


 すると海斗の後ろに女の子が立った。中山美咲はビビリながら言った。

「あ、あの、伏見君、女の子が後ろにいるわよ」


 彼女は海斗の肩を軽く叩いた。海斗は後ろを見ると森幸乃が立っていた。森幸乃は海斗の肩に肘を乗せて言った。

「あ~ら、海斗くん私を捨てて、新しい彼女を見せ付けに来たのね」

 中山美咲は驚いた。もちろん海斗も森幸乃の発言に驚いた。

マスターは心配をして、仕事が手に付かなくなった。


 森幸乃は微笑んだ。

「嘘、嘘! ゴメンね。私はココの店の娘で森幸乃よ。あなたは、伏見君のクラスメイトね」

 中山美咲は、きょとんとした。

「私、港湾課の三年よ。前に伏見君のクラスに事件の事で挨拶に行ったでしょ。その時、あなたを見たもの」

 中山美咲も思い出した。

「あー、あの時の方ですか。私、伏見君の彼女かと思いました」

「やーだー、良い子ね~。この間も一緒に、港の見える丘公園に行ったのよねー」

中山美咲は海斗の新たな秘密を知ったのであった。

「でもねー、まだ彼女じゃないの。伏見君って可愛いよねー。では、ごゆっくり」

森幸乃は意味深な言葉を残し、二階に上がって行った。


「伏見君! 葵ちゃんの事もビックリしたけど、今の人もびっくりしたわ! ちゃんと話して貰えるかしら!」

中山美咲は浮気をされた主婦のような目で海斗を見た。

「もう、違う、違う、そんな目で見ないでよ。森さんは同じ写真部で、蓮も美月も友達なんだ。美月に聞けば事情は分かるよ。港の見える丘公園と野毛山動物園は、写真部の課外活動で行ったの!」

「えー、動物園も行ったの! ズルイ!」

「部活だよ! 課外活動!」

「じゃあ、今度、私も連れ行ってくれる?」

「ホント、一緒に行こうよ! 楽しみだね。だけど今は暑いから秋になったら行こうね」


 中山美咲は海斗の秘密を聞けて安心をした。二人は再び、箱根の話を思い出しお喋りをした。海斗は中山美咲に妹の事を打ち明ける事が出来てホッとした。

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