第13話 修学旅行(1)
生徒達が待ちに待った修学旅行がやって来た。羽田空港の国内線出発ロビーが集合場所となった。遅刻する者はいないと思われたが、京野颯太の姿が見えなかった。
担任の長谷川先生によると、米証券取引所で急落した株価の動向を東京証券所の取引が始まる前に方針を出す為、急遽、早朝に会議が行なわれたらしい。京野颯太と行動するグループは心配したが、三十分遅れで京野颯太は現れた。
既に生徒達は保安検査所の入場を初めていた。京野颯太はクラスの列に駆け込み呼吸を整えた。
「やあ、遅れてゴメン、心配かけたね」
橋本七海は胸を撫で下ろした。
「もう、こんな時まで、仕事優先なんだから!」
佐藤美優はツッコミを入れた。
「お前は女房か!」
佐藤美優はツッコミを入れると、遠藤駿はそのツッコミにうなずいた。京野颯太のグループも揃い、保安検査所に向かった。
いよいよ飛行機に搭乗する。幸運にも窓側の座れたのは鎌倉美月だった。鎌倉美月の隣に松本蓮が座った。彼は航空写真を撮りたかったのだ。
「ねえ美月、たまに写真撮らせてくれよ」
「蓮が、良い子にしていたら撮らせてあげるね」
松本蓮は、行儀良く待った。
海斗は真ん中に配置された席だった。窓は無くとも気分はウキウキだっだ。右隣には小野梨沙、左隣には中山美咲が座っていたのだ。彼女達にも事情があった。
海斗は思った。こんなハッピーな席は無いよ。肘掛に腕を延ばす時に彼女の手を握ったり、眠たい振りをして肩を寄せたり、寝た振りをして肩に頬を乗せちゃったり、それを左の中山さんと右の小野さんに交互にやっちゃたりして、たまに頭がゴツンコなんて、これぞハーレムだ! ……ん、待てよ? この両手に華のハーレム状態って、お化け屋敷で痛い思いをした時と同じではないのか、大丈夫か俺?」
飛行機は離陸準備に入った。エンジン音が大きく鳴り走り始めた。加速し背中にGがかかると飛行機は飛び上がった。
海斗は興奮をした。
「わっ! 飛んだ! 飛行機は久しぶりだよ。ワクワクするね、ねー、中山さん?」
「伏見君、私は苦手だな。この高い所へ飛んで行く感じがね」
「小野さんは大丈夫?」
「私は親の都合で乗る機会が少なくないから、もう慣れたかな」
海斗は、いよいよハーレム作戦の実行をした。まずは環境をチェック。本など興味は無かったが、座席に備え付けてある本をゆっくり取り取った。左右の肘掛を見ると、どちらも使っていなかったのだ。
「あれ~、中山さんも小野さんも、肘掛を使わないのかな~、使っていいよ! レディーファーストだもんね」
ところが二人とも手を膝に置き、お行儀良く座っていた。二人は競い合うように美しく座っていたのだ。海斗は次の作戦に移った。
「あ~、眠くなっちゃったな~」
寝た振りをして肩に寄りかかる作戦だ。どうしたら自然に寄りかかれるのか、こんなに早々に寝て肩に寄りかかったら不自然だと思われる。海斗は取り敢えず目を閉じ考えた。
……しかし本当に寝てしまった。
「ねえ小野さん、伏見君疲れているのね。寝ているよ」
「本当だ、寝顔が可愛いね」
小野梨沙と中山美咲は、寝ている海斗と写真を撮った。
「ねえ小野さん、ドリンクのサービスが来ているけど伏見君の、どおする?」
「中山さん、寝ている顔が可愛いから寝かせてあげようよ」
小野梨紗は寝顔をもう少し見たかったのだ。海斗は二十分ほど経ってから目を覚ました。
「わっ! 熟睡しちゃったよ。あれ~、二人には飲み物が来ているの?! えー! 起こして欲しかったなー、これも飛行機の楽しみなのにー」
小野梨紗は海斗を見た。
「だって海斗、寝ていたじゃん!」
「中山さんは、起こしてくれなかったの?」
「伏見君が寝ていたから悪いと思って、私のオレンジジュースを残してあるから飲んでいいよ」
海斗は思った。えっ、それ間接キッスじゃん! 公衆の面前で本当にいいのですか、いいのでしょうか。海斗は赤面した。
「ほ、ホント、本当に貰っていいの! 妹のいる中山さんらしいね、気遣いが違うね」
中山美咲は恥ずかしそうに答えた。
「その代り、私の口を付けた反対側で飲んでね」
海斗の顔は緩んでいた。
「うん、わかった。頂戴、頂戴、ハーハー、ハーハー」
小野梨沙は思った。これは、餌を待っている犬じゃないか!
「ハーハー」待っているやつじゃん。見ているこっちが恥ずかしいよ。
小野梨沙は、片手を上げてキャビンアテンダントを呼んだ。
「済ませーん、さっき、寝ていた子の、ドリンクを注文してもいいですか?」
キャビンアテンダントは、カートを押してやって来た。
「小野さん、有難う!」
海斗は小野梨紗の手を両手で握った。
「言えば、おかわりだってくれるのよ。時間の短い国内線は常識的に一杯だけどね」
「やっぱ、慣れているね~、小野さん」
小野梨沙は最初から、そうするつもりだったのだ。
海斗は気付いてしまった。中山美咲の間接キッスを逃がしてしまったのだ。肩を落とす海斗であった。二兎を追う者は一兎をも得ず。まあ、やむを得ないのだ。間もなく海斗は、コンソメスープを手にした。
海斗はスープを鼻の近くに持ってきた。
「う~ん、この芳醇な香り。上空で飲むコンソメスープは格別なんだよね。危なく楽しみが一つ減る所だったよー、サンキュー・フォー・梨紗グレース小野!」
「ププッ、何なのよ、それ? まあ、いいわ。海斗さあ、航空会社からインスタントが販売されているでしょ。あれを買えば、家でも飲めるじゃん」
「あれじゃあ、ダメなんだよ。何かが違うんだよね。たぶん乾いた上空で飲むのが良いのかな、それとも家で作るのと違って。濃さのバランスも良いのかも。何より綺麗なキャビンアテンダントが入れてくれるのが良いのかもね!」
小野梨沙は話を聞いているうちに飲みたくなった。
「海斗、未だ飲んで無いよね、一口ちょうだい」
小野梨花は、海斗の手から取り上げて一口飲んだ。
「本当だ~、美味しいね。私はいつもコーヒーだから、知らなかったわ」
「伏見君、私も一口ちょうだい」
海斗は小野梨沙からカップを受け取り中山美咲に渡した。
中山美咲は口を付けて微笑んだ。
「ホント、何か違うね。美味しいね」
中山美咲は、海斗に戻した。海斗は二人に言った
「も~、起こしてくれなかったからだよ、もうあげないからね!」
海斗はこの時、大変な事実に気が付いたのだ! ウサギちゃんを二匹、捕まえてしまったのだ! このコップには小野梨紗が口を付けた所、そして一八〇度回転して中山美咲が口を付けた所。そして今、口を付けようとしている中間の、名付けるならマイスポットが有るのだ。その位置は小野梨沙も中山美咲も注視していた。
海斗は初めに、マイスポットに口を付けた。
「ああ、美味しい。コクのあるスープを飲み込んだ」
一口目は、コップの真ん中に口を付けて自然を装った。二口目は、中山美咲の口が付いた所に合わせてスープを飲んだ。
ああ、これが中山美咲とキスをしてスープを飲んだ味なのか~、なんて優しい味に変わるんだろう。次は九十度戻し、もう一口。そう海斗はソムリエの如く味をリセットしたのだ。
次は反対側に九十度回して、小野梨紗の口に合わせてスープを飲んだ。はあ~、小野梨沙の場合はローズヒップのような甘いフレーバーを感じたのだ。海斗は幸せと興奮で赤面した。
海斗を見ていた中山美咲も小野梨沙も真っ赤になった。すっかり海斗のペースに二人はのってしまった。
松本蓮は海斗達を見た
「ねえ美月、海斗達を見てみろよ。三人とも顔が赤くないか?」
「ホントだ、なんだろう、飲み物が熱かったのかな?」
鎌倉美月は海斗を見てから窓に目線を向けた。眼下の雲に、この飛行機の影が映っていた。しかも機体の影の周りに、虹色のリングが見えたのだ。
「ねえ蓮、雲に面白い影が見えるよ」
松本蓮は鎌倉美月越しに窓の外を眺めた。
「ス、スッゲー! こんなの初めて見るよ、写真を撮らなくちゃ!」
松本蓮は鎌倉美月に体を押し付け、レンズを向けた。写真を撮るには難しい態勢だった。
「もー、痛いよ! 蓮」
しかし鎌倉美月は松本蓮の体温を感じて嬉しかった。しばらくすると彼女は席を譲った。座り直した松本蓮は夢中で写真を撮った。着陸に向け高度が下がった時だった、窓から興味深いものが見えたのだ。
数枚の写真を撮り、二人は小さな窓に顔を並べて覗いた。
「ねえ美月、あの星型、五稜郭だよね!」
「ホントだ! あの星形、教科書で見た事があるわ」
松本蓮は気が付いた。
「……美月、お前、女の子の良い香りがするな」
松本蓮は、初めて鎌倉美月を女性として意識した。
「蓮、顔が近いよ、何で匂いをかんでいるんだよ、もうー、離れろよ!」
鎌倉美月は赤面した。松本蓮は窓から離れ、背もたれに寄りかかった。彼女は窓を眺め、言い過ぎた事を反省していた。すると直近でシャッター音が聞こえた。
鎌倉美月は不意を突かれたかのようで驚いた。音の方角を見ると、松本蓮は鎌倉美月の横顔を至近距離で撮影していた。
「何、撮っているんだよ! もうー、近いよ、蓮!」
「だって、美月、可愛かったんだもん」
鎌倉美月は、また赤くなった。
「その写真……、私に絶対、送れよな!」
飛行機は、間もなく新千歳空港に着陸した。
生徒達は広い飛行場を添乗員の後に続き観光バスに乗車した。昼食は楽しみにしていたビール園でジンギスカンを食べ、その後隣接するビール博物館を見学した。
後観光バスに戻ると、長谷川先生はバスのマイクを使い連絡をした。
「皆、忘れものは無いか? これから札幌テレビ塔に向かいます。テレビ塔に到着後、自由行動となります。グループ長は、事故が無いようにグループをまとめて下さいね。集合は同じこの場所とします。観光バスが待機しているので、予定時刻より早く着いた者は、乗車して待っていて下さい」
バスはテレビ塔近くの路上に停車し生徒達はグループ毎に集まった。
海斗は張り切って言った。
「とっても楽しみだね、じゃあ行くよ!」
皆も笑顔で答えた。答えた。
「オー!」
海斗のグループは、最初の目的地さっぽろ時計台付近に到着した。
「なあ海斗、地図だと、この辺なんだけどな、ビルばっかりだ」
「蓮、有ったよ! さっぽろ時計台だ。赤い星印が可愛いね」
小野梨紗も周囲を見渡した。
「周辺のビルに比べて、ここだけ近代化に取り残された感じがするわね」
皆はうなずいた。松本蓮がカメラを持って呼び掛けた。
「ねえ、毎回、記念写真を撮ろうよ。もちろん三脚を使を使ってね。それと俺が撮ったスナップ写真はSNSのグループに入れるから、皆で見てよ」
皆は喜んだ、林莉子も嬉しくなった。
「い~ね~、松本君の高級カメラで撮ってくれるのね。良い記念写真になりそうね」
まずは、集合写真一枚目。皆はとびっきりの笑顔で写真に写った。
次に北海道庁赤レンガ庁舎を巡り、大通り公園の中間辺りにやって来た。先程まで狭い歩道を歩くのとは違い、横に広がって歩けるようになった。今まで海斗は小野梨沙と松本蓮は鎌倉美月と、中山美咲は林莉子と、二人ずつ縦列して歩いていた。ここぞとばかりに林莉子が動いた。
「ねえ小野さん、小野さんは北海道に来た事あるの?」
林莉子は中山美咲に合図を送ると、中山美咲は海斗に歩み寄った。
「伏見君、色々見られて楽しいね、思ったより迷わずに歩けたね」
「中山さん、俺も楽しいよ。皆で旅行するって楽しいね。スマホの地図は、ホント助かるね」
海斗を挟み小野梨紗と中山美咲が両脇に並び、小野梨沙の隣に林莉子が並んだ。大通り公園とは言え、海斗の取り巻きは横並びに四人で歩いた。まるでヒーロー戦隊が悪者に向かって歩く様だった。因みに松本連と鎌倉美月は四人の後ろを歩いた。
すると香ばしい香りが鼻をくすぐったのだ。林莉子は再び動いた。
「小野さん、何か香ばしくて、美味しい香りがしない?」
「うん、良い香りがする」
林莉子は小野梨沙の腕を引っ張り、焼きトウモロコシの屋台に駆け寄った。遂に横四列が崩れ、中山美咲と海斗はペアとなったのだ。恐るべき女のチームワーク。恐るべし林莉子。
海斗は中山美咲に微笑んだ。
「ププ! 林さんは面白いね、食いしん坊なのかな。でも、こんな事を言っても俺も食べるけどね……」
海斗達も焼きトウモロコシの屋台に歩み寄った。
「ねえ伏見君、折角だから私も食べてみたいな……でもお昼を食べたばかりだし、伏見君、私が買うから半分食べてよ。私、食べるのが遅いから先に食べていいよ」
海斗の妄想モードのスイッチが入った。既にデレデレの顔である。恐らく間接キッス的な事でアホな事を考えているのだろう。
海斗は中山美咲に言った。
「それじゃあ、冷めちゃうから交互に食べ合おうよ。良い考えじゃあない?」
中山美咲は真っ赤になった。真っ赤になった中山美咲を見て海斗は現実に戻された。
「う、嘘、間違い! それじゃあ、新婚さんじゃないか! また余計な言葉を……ついつい蓮と話しているように言ちゃった、ゴメン」
海斗も赤面した。折角二人になったのに二人は黙り込んだ。トウモロコシの屋台に着き売り場を見ると、半分に割ってあるトウモロコシが置かれていた。観光客用に配慮されていたのだ。
「伏見君、心配しなくて良かったね」
「ホントだね、は、は、は、……あっ、ジャガバターもあるんだね。北海道らしいよね」
海斗達は、トウモロコシは半分ずつ食べられるように買い、ジャガバターは二つ買って、シェアをして食べ合った。松本蓮は食べている様子の写真を撮っていた。海斗は松本蓮からカメラを借りて、松本蓮も入った写真を撮影した。
小野梨紗は、お祭りを思い出した。
「ねえ鎌倉さん、こう言う食べ方はお祭りみたいだね」
「そうだよね。お陰で美味しいものが食べられるね」
林莉子はテレビ塔を指さした。
「今度は、あそこよ! あそこが今日の最終目的地よ」小野梨紗は海斗を見た。
「ねえ、海斗、横浜マリンタワーとさっぽろテレビ塔は、どっちが高いの?」
「横浜が札幌に負ける訳無いじゃん! 多分横浜だよ。蓮は、どう思う?」
「でも、こっちの方が高そうだよ」
鎌倉美月がスマホで調べた。
「正解は……さっぽろテレビ塔でした!」
海斗は肩を落とした
「チェ! 横浜が負けた」
海斗達は札幌テレビ塔に到着した。展望台へ上がると、小野梨沙は眺望の良さに興奮した。
「わー、凄い見晴らしね。大通り公園が先の先まで見えるよ!」
皆も眺めると、中山美咲は林莉子に話しかけた。
「ねえ莉子、札幌の街は、ホントに碁盤の目のように見えるのね」
「そうね、京都みたいね」
松本蓮の姿が見えなかった。海斗は松本蓮を探し鎌倉美月に話しかけた。
「ねえ、美月、蓮はどこに行ったの?」
「蓮は夢中で写真を撮っているわ。飛行機もそうだったけど、高い所から撮影する事が好きみたい。もしかして、どこか抜けているのかもね」
林莉子は時計を見ながら皆に伝えた。
「私達も時間までゆっくり見て、観光バスに戻りましょう」
海斗達は十分前にバスに戻ると、生徒の数を確認して観光バスは走り出した。
長谷川先生はマイクを持った。
「はい、これからホテルに向かいます。いいですか、客室ではふざけてホテルの備品を壊さないようにして下さい。羽目を外した生徒の為に、先生達が誤りに行く事になるから十分注意する事。貴重品は備え付けの金庫または持ち歩く事、部屋で男女が交流する事が絶対に無いようにして下さい」
このホテルでは、フロア別に男女が別れツインベッドの客室を割り振られていた。お風呂は部屋のユニットバスを使い、食事は大会議室を学生専用の食堂に変え、ビュッフェ形式にて食事を取らせた。
海斗は松本蓮と、鎌倉美月は小野梨沙と、中山美咲は林莉子と部屋を共にした。生徒は入室し、夕食まで一時間余りを部屋で過ごした。
「なあ蓮、思ったより部屋が広いね、あ~疲れた!」
海斗はベッドに倒れ込むと、松本蓮もベッドに倒れた込んた。
「今日はさ、飛行機も楽しかったけど、自由行動も面白かったな。お陰でいっぱい写真を撮っちゃった」
二人は少し話すと仮眠をした。
松本蓮のスマホが鳴った。鎌倉美月からだった。
「ちょっと、何時だと思っているの。皆、集まっているわよ」
「ゴメン! うとうとしちゃって、すぐ向かうよ」
松本蓮は、海斗を起こして慌てて食事の会場に向かった。
鎌倉美月は四人がけのテーブルに小野梨沙と座り、海斗達の席を確保していた。
「こっち、こっち」海斗達は慌てて席に座わり、スマホと鍵をテーブルに置いた。
長谷川先生は声を張った。
「はい、これから夕食です。マナー良く頂くように、食べ終わったら自由解散です。部屋に戻って、ゆっくり休んで下さい。それでは食事を始めます、いただきます」
「いただきます!」
生徒達も挨拶をして夕食を始めた。海斗は横のテーブルを見ると、中山美咲と林莉子が座っていた。
林莉子は海斗を言った。
「伏見君、どこで油を売っていたのよ。まさか寝坊なんて、していないでしょうね。明日の朝は時間守ってよね」
松本蓮は海斗に耳打ちをした。
「なあ海斗、林さんのああ言うところって可愛くないよな」
海斗はうなずいた。
それぞれ好きなものを、お皿に取って食べ始めた。このホテルの売りは、夕食にカニを出しているのだ。カニは一番の長い列ができた。
食事の最中に松本蓮は、写真を見て笑った。
「なあ蓮、何の写真を見て笑っているの?」
松本蓮は飛行機で窓をのぞき込む、鎌倉美月の顔写真を海斗に見せた。
「へ~、可愛く撮れているね。本物より良いよ」
鎌倉美月はカニを夢中で食べていた。小野梨沙は鎌倉美月に言った。
「ねえ鎌倉さん、海斗達おかしいよ、何の写真を見て笑っているんだろうね」
鎌倉美月は、海斗達に言った
「海斗、何の写真を見ているの?」
鎌倉美月は海斗達の態度が可笑しく見えたので、松本蓮のカメラを取り上げて画面を見た。そこには鎌倉美月のアップの横顔が写っていた。
鎌倉美月は眉間にシワを寄せた。
「なんで、この写真見て笑っているのよ!」
「だって、可愛いんだもん、なあ海斗」
「うん、とっても可愛いよ。美月が女の子みたい。ククク」
小野梨沙はカメラの画面を覗いた。
「本当に可愛いよ。いい写真なのに何で笑うの、海斗」
「だってずっと性別なんか意識してこなかったのにさ、可愛い女の子の表情をするなんて、何だか可笑しくなったの」松本蓮は力説した。
「やっぱ写真ってすごいね、一瞬を切り抜くんだよね」
「いやいや、蓮の腕でしょう、ハ、ハ、ハ、ハ」
松本蓮も笑った
「ハ、ハ、ハ、ハ」
鎌倉美月は怒った。カメラを削除のモードへ操作した。すると松本蓮は慌ててカメラを取り上げた。
「ごめん、ごめん、可愛かったのは本当だよ。だから消さないで! あ~あ~、俺の大事なカメラなのに、カニだらけじゃん」
「知らないわよ、蓮が悪いんでしょ」
海斗は二人の間に入った。
「そんなに怒らないの。笑ってゴメンね。ね、仲直り」
海斗は鎌倉美月をなだめた。小野梨紗は思った
「三人は、やっぱり仲が良いのね」
小野梨沙は三人の仲の良さが羨ましかった。
海斗達のテーブルは、ビュッフェの終わり時刻まで話をしてから席を立つた。食事の会場を出て男女は別れると、海斗と松本蓮はフロントの横に有るお土産コーナーに立ち寄った。海斗は葵とお母さんのお土産を探した。しばらく見回ったがピンと来るものが無かったので、後で葵と面識のある小野梨紗に相談しようと思った。
その後、海斗達は部屋に向かった。部屋の前には鎌倉美月と小野梨紗が待っていた。
松本蓮は頭を抱えた。
「もー、さっき誤ったじゃん、未だ怒っているの!?」
「バカねー、あなた達が部屋の鍵を間違えたから入れないのよ。早く、鍵を出しなさいよ!」
海斗は鍵を探した。その時だった、先生達の見回りをする声が聞こえた。
松本蓮は慌て話しかけた。
「海斗、やばい、やばい、男子のフロアに、女子が居たら怒られるよ!」
海斗は慌てて鍵が見付から無かった。鎌倉美月は言った。
「早く、早く! もう、ダメだよ、海斗たちの部屋に隠れようよ!」
鎌倉美月は持っていた鍵でドアを開けた。なだれ込むように皆は部屋に入った。
海斗は思った、まずいなあ、こんな事。想定外だよ!
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