第14話 修学旅行(2)
玄関チャイムが鳴った。女子は必死に隠れ、長谷川先生はドアを叩いた。
「見回りに来ました! ドアを開けなさい」
海斗はゆっくりドアを開けた。
「ここは、伏見と松本の部屋か、今、女子の声が聞こえなかったか」
「あ~、エレベーターの方から聞こえました」
「そうか、わかった、エレベーターの方だな。でも念のため部屋を見るぞ」
長谷川先生は入室し、部屋を見回し女子が居ない事を確認した。
「失礼したな」
長谷川先生は部屋を出た。
しかしドアが再びドアが開いた。長谷川先生は何かが目に付いたようで戻ってきたのだ。海斗達はホッとしたのも束の間、再びは焦った!
「大事なものは、きちんと隠すように先生は言ったよね!」
長谷川先生は部屋の奥に踏み込み、腰高の収納家具を指さした。海斗も松本蓮も息を呑んだ。鎌倉美月が居る場所だ。
「伏見達は最後まで食事をしていたね、もしこの間に泥棒が入ったら、その上の財布は無くなっているよ。ホテルは空き巣も強盗も少なくないんだよ、気を付けるように!」
長谷川先生は注意をして部屋から去った。
海斗は長谷川先生を廊下で見送り部屋に戻った。
「もう、いいよ!」
ホッとした顔で女子は出て来た。鎌倉美月は松本蓮に怒った。
「もー、蓮! 心臓が止まるかと思った。こんな所に財布を置かないでよね!」
小野梨沙は力が抜け、床に座り込んだ。
「オーマイゴット、オーマイゴット、オーマイゴット」
「小野さんって、追いつめられると英語が出るんだね。やっぱ帰国子女なんだね」
小野梨沙から涙がこぼれた。海斗は慌てて小野梨沙の正面で正座をした。
「怖かったね、ごめんね。梨沙、びっくりしたよね」
小野梨沙は海斗に抱き着き付いた。
「海斗のバカー、怖かったよー、まだ心臓がドキドキしているよ!」
それもそのはずだった、長谷川先生はクローク前に立っていた。先生が手を伸ばせば、すぐ見つかる距離だった。先生の声も間近に聞こえていたのだ。海斗は小野梨沙を黙って受け止めた。
すると泣いていた小野梨沙が笑い始めた。海斗は彼女の両肩に手を置いて姿勢を正した。
小野梨紗は涙目で笑っていた。
「は、は、は! 楽しいー」
海斗は考えた。
「梨沙、なんちゃらハイなのかな? ランナーズハイみたいな? 梨紗、しっかりしろよ!」
「だって、可笑しいじゃん、こんな事。きっと一生無いよ! 男子の部屋で、先生に見つかりそうになって隠れるなんて! は、は、は」
続けて鎌倉美月も笑った。
「そうーよねー、は、は、は」
松本蓮は静かにさせた。
「シー、静かに、静かに! また来ちゃうよ」
小野梨沙も鎌倉美月も、口を両手で覆った。
小野梨紗は海斗を見た。
「海斗のベッドどっち?」
海斗は指さした。すると子供のようにベッドで飛び跳ねた。鎌倉美月も松本蓮のベッドで飛び跳ねた。再び彼女達は笑い出した。海斗も松本蓮も困り果てた。やはり、なんちゃらハイなのだろう。海斗は気付いた。
「女子が男子のフロアに居たと言う事は、女子のフロアにチェックが入るから早く帰った方がいいよ!」
やむなく、小野梨沙も鎌倉美月も悪ふざけを止めて部屋に戻って行った。ぐちゃぐちゃのベッドを見て、海斗も松本蓮もぐったりした。
「蓮、今日は未だ初日だよな。早くやる事を済ませて寝ようよ」
「ホントだな、わりぃ海斗、俺、先に風呂入るよ」
修学旅行一日目は、こうして終わった。
(翌日の朝)
朝食は自由に取り、観光バスに九時集合になっていた。海斗達は朝食会場に着くと、既に多くの生徒が食事を始めていた。盛り上がっている女子のテーブルが有った。鎌倉美月、小野梨沙、中山美咲、林莉子のテーブルだった。
海斗達は隣のテーブルに座り挨拶を交わした。林莉子は海斗に話かけた。
「聞いたわよ、昨日は大変だったみたいね!」
海斗は鎌倉美月の顔を見ると、鎌倉美月はベロを出した。
松本蓮は口を尖らして言い訳をした。
「どうせ俺達が悪者になっていると思うけど、先に鍵を持って行ったのは美月だからね。そうだよな海斗」
「うん、そうだよ。間違えたのは美月だよ!」
林莉子は首を傾げた。
「確かに順序を追うと……そうなるわね」
「海斗が私と同じ場所に鍵を置かなければ、間違え無かったのよ! ねえ小野さん」
「そうよ、鎌倉さんの言う通りよ!」
「チェッ、勝ち目ないよな。なあ海斗」
海斗は鎌倉美月と小野梨沙の関係が、親密になっている事に気が付いた。同じ恐怖体験と、その後の笑いを共有して同じ部屋で寝むる。友情を深めるには、この経験が重要なんだと思もわされた。
中山美咲は、笑っていなかった。
「笑い事で済んだからいいけど、大した事情でも無いのに部屋で見つかったら、相当まずい事になっていたわよ。最初から間違えた鍵を廊下で待っていたと、説明すれば良かったんじゃないの?!」
林莉子はうなずいた。確かにその通りだった。
海斗は誤魔化した。
「まあまあ、時間も無いし早く食べて準備をしようよ」
朝食後、身支度を整え観光バスに向かった。
バスは走り始めると、長谷川先生は話し始めた。
「はい注目、昨日は寝られましたか、睡眠不足で乗り物酔いを起こす生徒がいます。座席のポケットに有るエチケット袋を確認して下さいね。
これから小樽に向かいます。午前中はガラス工房で、サンドブラスト体験を行います。グラスに描くイラストは考えましたか、お昼は同じ建物の四階の食堂で海鮮丼を頂きます。前もって連絡済の物は別のモノが用意されています。その後、自由行動になります。集合場所は小樽運河の中央橋付近に観光バスが止まるので探して下さい。昨日と同様に三十分前にはバスが待機しているので、早めに戻った人はバスで待機して下さい。それから間違えて他のバスに乗らない事、違う所に連れて行かれますよ。今日も事故が無いように安全に行動をして下さい」
バスは一時間余りで小樽に着いた。三階のガラス工房に到着し、生徒達は作業の注意を受けた。
生徒が参加したサンドブラスト体験とは、ゴム状に硬化するインクでグラスにイラストを描き。その後、細かい砂が出る専用の機械にグラスを入れ、砂を吹き付ける。砂が当たった所が白くなり、先に描いた硬化したゴム状のイラストを剥がすと傷が付かなかった所が透明のままとなりデザインが完成するのだ。
松本蓮は、グラスを持って悩んでいた。
「あ~あ、結局描くものが決まらないよ。海斗は何を描くの?」
「俺は昨日天気予報を見ていて思い付いたよ。北海道の地図にしよと思っているんだ。天気予報みたいな簡略化したイラストなら簡単に書けるでしょ」
「確かに、北海道らしくていいね。俺もそうしようかな」
鎌倉美月はアドバイスをした。
「蓮はカメラの絵を描いたら、貴方らしくて良いかもよ」
「それいいね! 流石幼馴染みだよ。有り難う」
鎌倉美月はうなずいた。女子は考えてきたイラストより、作業場に置いて有った、見本の花の絵を書く者が多かった。イラスト描きを終わると、ブラスト作業に移った。
この機械は、車のアクセルのようなペダルで砂の量を調整する。この加減が難しいのだ。グラデーションを付ける予定でも、強く吹き付けてしまうと真っ白になってしまうからだ。
生徒達はキャーキャー言いながら作業を進めた。それぞれ思い出の残る作品が出来た。
松本蓮は美月のそばに行った
「美月は何を描いたの」
「教えない!」
鎌倉美月はグラスを体の陰に隠した。松本蓮は無理やり覗き込むと、松本蓮と同じカメラのデザインだった。
「えー、美月、真似したなー!」
「真似したのは蓮の方だよ。私の方が先に描いていたでしょ」
海斗は微笑んだ
「蓮、美月の誘導にはまったな! ヒュー、ヒュー、お揃いじゃん!」
林莉子も二人を茶化した
「夫婦茶碗ならぬ、夫婦グラスだね」
鎌倉美月と松本蓮は赤面した。海斗は林莉子を見た
「林さんは、何を描いたの」
「私と美咲も、見本のお花デザインにしたの」
「小野さんのも見せてよ!」
小野梨紗は北海道の地図を描いた。海斗達の会話を聞いていて、単純に良いアイデアと思い描いてみたのだ。しかし松本蓮と鎌倉美月のくだりを見て言い出せなくなった。小野梨紗は海斗と夫婦グラスを持っていると思い、嬉しくて赤面したのだ。
「私のグラスは、つまらないよ。だから秘密!」
小野梨沙は密かにしまうのであった。
作品を作り終え生徒達は、四階の昼食会場へ向かった。テーブルには沢山の海鮮丼がグループ別に配膳されていた。所どころ、海鮮丼の代わりにハンバーグセットが置いてあった。生魚が食べられない生徒用だった。
松本蓮は言った
「こう言う所に来て魚が食べられないなんて、勿体ないよな、美月」
「そうよね、折角の本場に来ているからね。勿体ないよね」
海斗は小野梨紗のハンバーグセットに、目が止まった。
「あれ、小野さんは生魚食べられないの?」
「うん、ダメなの。ママが生魚を食べる習慣がなかったから、日本人のパパと結婚しても、食卓には生魚が上がらなかったの」
皆は大きくうなずいた。
「食習慣って難しいんだね。でも、そのハンバーグも美味しそうだよ」
「うん、ホントは皆と同じモノを食べたいけどね、海斗、気を遣ってくれて有り難う」
海斗は思った。小野梨沙は日本語が上手だから、つい気を使わなくなるが、昨晩のオーマイガーとか、生魚が食べられないとか、生活を共にすると習慣の違いに海斗は気付かされた。
向かいのテーブルには、京野颯太のグループが食事をしていた。海斗はその様子を見ていた。橋本七海もハンバーグセットを食べていた。やっぱり日本人離れした見事なプロポーションは、魚じゃ作れないよな。あっ佐藤美優だ、スマホを隠して写真を撮っている。あれじゃ見えているよ。噂の通り京野と遠藤の写真を撮っているみたいだ。腐女子パワー全開だね。手前は田中拓海だ。あっ箸を落とした! テーブルの下に箸を追いかけて見えなくなった。あっ橋本七海が騒いでいる。
「テーブルの下に痴漢がいるの、助けて京野君!」
おいおい、田中拓海が目の前で箸を落としたのを見ていなかったのか?! 橋本七海は京野颯太に抱き着きたいだけだろ。沢山の男子のプロポーズを振りまくるミスグランプリは、こんなきっかけで抱き着付くのか! テーブルの下では田中拓海が、橋本七海に蹴られている、ああ可哀想。
田中拓海が箸を持ってテーブルから出て来た。ボコボコだ。眼鏡も顔からズレている。あ~、可愛そう。田中拓海が何か言っているぞ
「箸を落としただけなのに……」
その通りだよ、田中拓海! まじめな性格が裏目に出たな。シンプルに新しい箸を貰えば済んだのにね。あのグループは見ているだけで面白いな。
生徒達は食べ終わると一、二階のお土産を見て観光バスに戻った。
観光バスは、小樽観光地南側の「蒸気からくり時計」に向かい生徒を降ろした。これから二日目の自由行動が始まった。
海斗達は「蒸気からくり時計」から観光しながら北上し集合場所の「小樽運河の中央橋」に向かう予定なのだ。
松本蓮はからくり時計を見ていた
「この時計、鳴らないね。美月、いつ鳴るの?」
「ここに書いてあるわよ。一五分に一回らしいよ、もうちょっと待ってみようよ」
すると低い音で「ぼー」と鳴り、メロディーを奏で始めた。海斗達は驚いた
「オー! ……? 思いの他、短いね」林莉子が答えた
「もう、文句言わないの。タダなんだから」
中山美咲も物足りなかった
「そうね、感動したけどね、ちょっとねー。でも十五分に一回なら、こんなもんだよ」
交差点を渡ると、生チョコの試食を配っていた。松本蓮は駆け寄った。
「すごい! 生チョコを大繁振る舞いだね、美月も貰う?」
鎌倉美月も試食を口にした。
「わー、嬉しい! ココの生チョコは有名な北海道土産の店よ」
海斗達も貰い試食した。林莉子と中山美咲は、荷物になるので帰りの空港で買う事にした。
次に生チョコ屋さんを出てしばらく歩いた。松本蓮は町並みを撮影した。
「ここの街並みは、知らない外国みたいだね」
小野梨沙も感じていた
「石造りの建物が目立つね。ほらあっちも、こっちもよ! ねえ中山さん」
「横浜とは、違う異国情緒だね。横浜はピンポイントで古い建物が有るでしょ。小樽は街並みまで、統一されているのね」
林莉子も続いた。
「だから外国みたいな、感じがするんだわ」
海斗も街並みに付いて気が付いた。
「こう言う街に来ると、遠くに来た感じがするよね。所でさっきから、北三硝子の建物が目立つね」
林莉子はガイドブックを開いて見せた。
「ほら、沢山紹介されているわよ。だから建物に番号が振ってあるんだよ」
松本蓮は皆が入った写真と街並みを、歩きながらスナップ写真を撮った。
鎌倉美月は早く入店したくて、うずうずしていた。
「ねえ取りあえず、お店に入って見ようよ!」
海斗達は入店すると、女子は興奮しながら奥へ奥へと吸い込まれた。海斗と松本蓮は、その場に取り残された。
「そうだ蓮、葵とお母さんのお土産をここで買うよ。蓮も好きなものを見てよ!」
松本蓮はしばらく海斗の後を付いていたが、違う棚を見始めた。
ここにはガラス細工の他に、オルゴールも目のつく所に飾られていた。海斗は店内を見回していると、オルゴールの売り場の前に居る小野梨沙を見つけた。
「ねえ梨沙、相談なんだけど良いかな?」
海斗は真剣な顔をすると、小野梨紗は微笑んだ。
「な~にー改まって。もしかして私の事、好きって言うんじゃないでしょうね……それはダメ、もっと雰囲気のある所にして!」
小野梨沙は赤面した。海斗は冷めた目で答えた。
「そう言うのじゃないよ。相談はね、葵とお母さんに何を買おうかなって、男の俺より女子の方が分るかと思ってさ」
「ハハ、そうね~、葵ちゃんは猫を飼っていたよね。猫のガラスの置物はどうかな」
「俺もね、さっき入り口に有った猫の置物を見て、そう思っていたんだよ。梨沙はお母さんに、何を買うの?」
「私はこのオルゴールにしようと思っているの。値段も手ごろだしね。ママはこの曲が好きなんだ。小野梨沙はオルゴールを海斗の耳元で鳴らした。
「星に願いを、だね、オルゴールに似合う曲だよね」
「だからコレにしようかな」
「そうかあ、じゃあ俺もオルゴールに決めた!」
海斗はいくつかのオルゴールを聞いて買い物かごに入れた。
「海斗はお父さんに、何を買うの?」
「お父さんはねー。物を買っても反応がイマイチなんだよね。だから帰る日に、お菓子を買った方が喜ぶかな。そうだ、あの生チョコにしようかな」
「私のパパもそうだよ。前にお土産でボールペンを買って上げたけど、全然使ってくれないの、もう書けないと思う。置物をあげても飾る習慣がない人だしね。ボールペンをあげても、使い慣れた物が書きやすいみたいで使いにくいのかも。私もお菓子でいいや」
「梨沙、相談にのってくれて有り難う」
海斗は猫の置物を見に行った。
海斗は小野梨沙と二人きりの時は小野さんではなく、梨沙と呼ぶのだ。小野梨沙は海斗の気遣いが嬉しかった。
松本蓮は鎌倉美月を見つけ、付いて回った。
「ねえ蓮、昨日、海斗と私の写真を見て笑ったでしょ。私、とっても傷ついたのよ。悪いと思っている?」
「だから、誤ったじゃん!」
「本当に悪いと思っている?」
「うん、ごめん」
鎌倉美月はニコっと微笑み、ペンダントを指さした。
「じゃあ、これ買って! これ買ってくれたら許してあげる」
「えー、三千円か~、うーん、いいよ!」
鎌倉美月は喜んだ。
「蓮、有り難う。大事にするね」
そのやり取りを離れた所から、中山美咲と林莉子は見ていた。
林莉子は言った。
「女の子の顔を見て笑うから、悪いんだよね。ねえ、美咲」
「う、うん」
中山美咲はうなずいた。しかし中山美咲の心の中では違う事を考えていた。仲が良いな、あの二人。別に写真を口実に使わなくても、松本君なら鎌倉さんに何かを買ってあげるのよ、きっと。あの関係がちょっと羨ましかった。
レジには海斗の姿が有った。海斗は可愛い猫の置物とオルゴールを買った。葵と明子の喜ぶ顔が浮かんだ。皆はそれぞれの買い物をして店を後にした。
沢山の商店で街並みが構成されていた。数件入るが同じようなお店が続いた。
海斗は皆に話しかけた。
「ねえ、そろそろ休憩しようよ!」
賛同するのは松本蓮だけだった。既に興味が尽きた男子と、まだまだ見たい女子。この差が疲労に繋がったのだ。男子はもう少し、女子に付き合うしかないのだ。
そんな時、海斗はふと箸が並ぶ売り場にが目が止まった。両親のお土産に都合が良いと思い、箸に手を伸ばした。箸といっても色々種類があり、どれを選べば良いのか迷っていた。
すると小野梨沙がやって来た。
「海斗、良いモノ見つけたね。夫婦箸だね、お父さん達、きっと喜ぶよ。私も箸を買おうかな。お母さん喜ぶの。使っても良いし、お土産にしても良いからね。日本文化のお土産に喜ばれるのよ」
海斗と小野梨沙は、店員に箸の選び方を聞いて購入した。皆は買い物を終え再び歩き始めた。
そして小樽運河が見えて来た。林莉子は指を指した。
「ここだよ、この先の橋で記念写真を撮ろうよ!」
小樽運河にかかるこの橋は、ガイドブックで良く見かける風景だった。
「綺麗ね~、ザ、小樽って感じがする」
林莉子は皆を誘い、集合写真を促した。
「ねえ皆、ここが良いわ、ここで撮ろうよ!」
松本蓮は三脚を立てた。鎌倉美月は三脚の位置を指示をした。
「もうちょっと、こっちよ、こっち、うん、そこに立てるといいわ」
松本蓮は三脚を動かしセットした。すると小野梨沙がアイデアを出した。
「ねえ、皆で手を繋いで写真を撮ろうよ」
松本蓮はセルフタイマーのシャッターを切った。
運河を背に六人は横並びに手を繋いだ。小野梨沙は突然、声を張った。
「みんな、手を挙げて!」
中央にいた小野梨沙は両腕を挙げた。つられて皆も挙げた。
「ピー、ピ、ピ、ピ、ピ、カシャ!」
松本蓮はカメラを確認しにして言った。
「良く取れているよ! 小野さんのアイデアが良かったね。皆が笑っていて、良い写真だよ」
しばらく運河を見て休憩をした。林莉子は地図を見た
「もうすぐ、集合場所の中央橋よ」
中山美咲は海斗を見た。
「良い時間配分だったね、伏見君」
「そうだね、中山さん。ちょっと疲れたけどね……なあ蓮」
「そうだよ、女子は見るものが有って楽しいけど、俺達は待つばかりで疲れたよ」
くたびれた男子を見て鎌倉美月が言った。
「待っているのに疲れるの? 歩かないのに疲れるの? ヘンなこと言わないでよね!」
それを見ていた女子は苦笑した。海斗達は運河沿いの遊歩道を進み、中央橋へ向かった。集合場所付近に停車した観光バスを見つけ乗車した。
長谷川先生は生徒の数を確認し、バスをホテルへ向かわせた。
今晩のホテルは、市街地から離れた温泉旅館だ。畳敷きの大広間で食事をする。お風呂は源泉掛け流しの露天風呂があり、修学旅行には勿体ない温泉旅館である。
観光バスの中では毎度の如く、長谷川先生は注意を話した。
「いいですか、この温泉旅館は一般のお客さんも、一緒に泊まっています。昨日のホテルと違って、一般の人と導線が重なるから迷惑を掛けないように十分注意する事。万が一迷惑を掛けると我が学園は最悪、出入り禁止となり後輩達に迷惑がかかるから注意する事。もう一つ、六人一室の部屋となると、騒いで枕投げをする生徒がいます。これは弁償が付きものだから謝っても済みません。ご自宅に請求書が送られます。絶対しないように!」
しばらくすると、歩き疲れた生徒達は静まり返りお昼寝タイムとなった。バスは静かに旅館に向かった。
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