第12話 体育の時間
橋本七海は、ベビーフェイスの巨乳ちゃん。週間漫画の巻頭ページから飛び出したグラビアモデルの様な彼女は、昨年のミス横浜山手総合学園コンテストで見事にミスグランプリを獲得した。この学園の有名人が、海斗と同じ二年B組に居るのだ。
体育の授業は着替えのため、男女別の教室にに移動した。女子の着替え室で、林莉子は橋本七海に話しかけた。
「橋本さん、また胸が大きくなったんじゃない、何を食べるとデカくなるのよ?!」
「うん、これ以上大きくなると困るのよね。可愛い洋服が着られなくなるもの」
橋本七海の親友、佐藤美優は注意を呼びかけた。
「そうだよ、これ以上大きくなったらコスプレの衣装が着られなくなるよ!」
中山美咲は佐藤美優に話かけた。
「そう言えば、橋本さんと佐藤さんは、メイド喫茶でアルバイトしているんでしょ」
「えー、中山さんまで知っているんだー。趣味が一緒でアキバ系女子なの。それで七海と一緒にメイドカフェでバイトをしているんだ。七海ったら、胸が窮屈で、衣装の胸のボタン締められないんだよ。それでエプロンで隠しているの」
林莉子はアルバイトに付いて尋ねた。
「橋本さん、メイド喫茶って、怖くないの?」
「私も、最初は心配をして働いていたけど、怖い事は一回もないよ。来るお客さんも、楽しみに来ているからね。私、好きなコスプレを着て、一緒に楽しんでいるの」
中山美咲は、時計を見た。
「あっ、そろそろ時間だよ、体育館に行こうよ」
女子はまとまって、体育館に移動した。
体育館では、男女別に分かれバスケットの授業が行われた。橋本七海の体操着姿は、男子の注目を集めた。
京野颯太と遠藤駿は、ドリブルをして体を慣らしていた。ドリプルを終えると松本蓮は話しかけた。
「なあ遠藤、橋本さんって大きな胸だよね。あこ大きさはDカップかな?」
「うん、ホント大きいよね。前に佐藤さんから聞いた情報によるとEだって!」
松本蓮は驚いた。
橋本七海がドリブルを始めると、男子の目は釘付けとなり、松本蓮がその胸に効果音を付けた。
「ボイン、ボイン、ボイン、ボイン」
海斗もリズムに合わせて歌い、二重奏になった。
「ボイン、ボイン、ボイン、ボイン」
京野颯太は橋本七海の揺れる胸と、海斗達のステレオBGMで、臨場感に飲み込まれた。
「っあ!」
京野颯太は鼻血を出した。案外、単純である。先生はホイッスルを鳴らした。
「ピッピー、コラ、どこ見ているんだ!」
もっともである。海斗は遠藤駿を見て話題を振った。
「橋本さんって、橋本七海だよね」
「うん、そうだよ」
「あのルックスと、あの名前、芸能人みたいだね」
「そうなんだよ! 俺も前から思っていて、本人に聞いた事が有るんだ。あの名前は貨物船の船長をしているお父さんが、名前を付けたらしいよ」
「へー、だから七つの海なんだ。遠藤は橋本七海辞典だな」
「遠藤は、いつも橋本と一緒にいるけどホントは付き合っているのか?」
「まさかとんでもない! 俺は好きだけど、橋本さんは京野君が好きでね、俺はパシリ」
「んー、そうかあ、あれだけの女だよ! 気長に寄り添って幸運を待つのが賢明かもね」
一方女子も男子側を見ていた。佐藤美優が、口元のよだれを拭いていた。
「あ~、たまらん、たまらん。京野と遠藤が玉を取り合っているんだよ! あ~、スマホが有ればよかったのにー!」
橋本七海は佐藤美優に呆れた。
「佐藤さん、また見ているの? あなたも好きね」
小野梨紗は二人の会話に加わった。
「ねえ橋本さん、佐藤さんは京野君と遠藤君の、どっちが好きなの?」
「どっちがじゃなくて、どっちもよ、……どっちも!」
「えー!」小野梨紗は首を傾げた。
「彼女はBLが好きなの。美形の京野君と筋肉質の遠藤君の、やり取りを見る事が好きなの。中学生の時に興味本位で読んだBL本にはまり影響を受けた、秋葉系腐女子なのよ」
小野梨沙は、新しいジャンルの言葉を覚えた。
橋本七海は体を慣らす為に、その場でドリブルを始めた。
林莉子は中山美咲に声をかけた。
「ねえ美咲、伏見君達が橋本さんを見ているわよ」
「ホントだ、何か言っているわ。歌でも歌っているのかしら?」
林莉子は口の動きで想像し続けてみた。
「ぼ・い・ん? ボイン、ボイン、ボイン……あいつらバカね」
続けて隣の京野颯太を見た。
「やっだー! 京野君、鼻血が出でているわ。誰かのボールが当たったのかしら」
中山美咲は思った。どう見ても視線の先は橋本さんよね。莉子は京野君の事になると、周りが見えなくなるのね。男子生徒側からホイッスルが鳴った。
「ピッピー! コラどこ見ているんだ!」
林莉子は笑った
「やだー美咲! 伏見君達、怒られているじゃん!」
中山美咲は思った、京野君もだよ!
鎌倉美月と小野梨沙も、海斗達を見ていた。鎌倉美月が言った。
「やっぱり、あいつらバカね。死ね!」
小野梨沙は鎌倉美月のキツイ発言に驚いた。
林莉子は常々気になった事が有った
「橋本さん、付き合っている人はいるの?!」
「別にね~、そう言うの、面倒臭いじゃん」
「そう、な・の・ね。……あれだけ男を振っていれば、選び放題だもんね。ミスグランプリなら、いつでも出来るからねー」
橋本七海は普段から持ち上げられていて、いないとは言えないのだ。
「いつも遠藤君といるから、遠藤君と付き合っていると思ったよ」
「林さん、それは違うわ。遠藤は私のお世話係ね、言い換えるならパシリよ!」
小野梨沙は、又つまらない言葉を覚えたのだ。
橋本七海は、京野颯太を見ていた。体操着も格好いいな。私の思いが、早く届いてくれるといいのに……。なんで中山さんなのかしら。
京野颯太は灯台のように、近くにいる学園のアイドルの良さに気が付つかなかったのだ。
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