第4話

十六時七分 PM

フランケンシュタイン家 ダイニングキッチンにて――


「晩ご飯、なに食べたい?」

「チーズフォンデュ」

「なんやて⁉」

「なによ、文句あんの?」

「いえ、別に」

「たまにはさ、庶民の味も食べておかないとね」

「んなことだろうと思ったよ!」

「ジャガイモとソーセージは絶対だから」

「分かってるよ、ちゃんと用意しておくから」

「あと、サーモンもね」

「サーモンは……ないなぁ」

「ならちょうどいいわ、釣ってきて」

「な、なぬ?」

「キングに決まってんでしょうが」

「アラスカに飛べと⁉」

「なに、このあたしに冷凍ものを食べさせるつもり?」

「そういうわけではないけど、アラスカに飛ぶのはちょっとさぁ」

「仲良くヒグマと獲り合えばいいじゃない」

「キングサーモンと一緒に、僕の命も獲られるよ!」

「あんたの骨とキングサーモンを空輸してもらうから、問題ないわ」

「問題ありまくりだよ!」

「アナコンダに丸呑みされて、ゆっくり消化されるよりマシでしょうが」

「その比較、絶対におかしいから!」

「即死かゆっくり消化されるかの違いだけじゃない」

「どちらにしても、悲惨な末路をたどっとるやないか!」

「安心して、骨はちゃんと野良犬のエサにするから」

「もはや晩ご飯の話の欠片すらないよ!」

「ったく、どうしろっつうのよ」

「ですから、ここはちょっと妥協していただいて……」

(果たしてこれは、妥協するしないかの問題なのだろうか?)

全身全霊をもって土下座をして、新鮮かつ脂がのった鮭を買ってくることになった。

ディナーの時は、それはもう空気が張り詰めててさ、変な汗は出るわで緊張したよ。

だけど、ご満足いただけたようで。

次第に、これ以上ないというくらいの満面の笑みで、美味しそうにチーズフォンデュを頬張っていた。

あんな顔を見ちゃったらさ、全国のお兄ちゃんは妹のためになんでもしちゃうぜ?

僕は『やれやれ……』とごちりながらも、自然と頬が緩んでいるのが分かった。

パパ、ママ、やっぱり妹はめちゃくちゃ可愛いよ――
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る