第4話:新たなステップ

隆一朗と茉里奈は結婚してから2年が経った。子供たちも大きくなり、長男は高校受験を控え、次男は中学進学を控えていた。そして、長女は小学校1年生になり、毎日楽しそうに学校に行っていた。次女も1年遅れで近くのこども園に預けられることが決まり、それぞれ新しい環境と状況で毎日を過ごしていた。


特に菜花は幼少期から人見知りがひどかったため、最初のこども園でも引っ越した後に通ったこども園でも友達を作ることにはかなり時間が掛かった。しかも、仮に友達が出来ても次の段階にいくまでに少し時間が必要になっていたのだ。実際、彼女が通っていた幼稚園部などは近隣のこども園等と比べるとそこまで幼稚園部としては大きくなかったが、彼女にとってはかなり大きな壁だった。理由として、彼女は幼稚園に通うまで家族以外と関わったことがなかった。そのため、同級生にどのように関わると良いのか、何をすると喧嘩になるのかが分からなかったのだ。そういう彼女を見ていて先生たちは毎日ヒヤヒヤしていた。これには一緒に過ごしてきた先生たちも彼女が少し心配だった。


なぜなら、昨年も雄大と心菜といういじめなどが原因で幼稚園に行けなくなり、途中で転園してきた子供がいたが、菜花と同じように周囲とのコミュニケーションが難しくかなり孤立してしまっていた。二人がこども園に入ったのが雄大3歳、心菜2歳の時だが、彼女に関しては当時から担任の先生との連絡ノートを頻繁にやりとりしないといけないほど状況が深刻だった。なかでも、身体が周囲の同級生と比べると細かったため、同級生の男の子からしょっちゅう突き飛ばされていたのだ。そして、しょっちゅうアザを作り、時には打撲や骨折な病院に行かなくてはいけないほど重傷を負ったこともある。そして、彼女は次第に周囲と距離を置くようになり幼稚園に行っても1人で遊ぶ時間が増えていった。雄大はいじめられたというよりも嫉妬されていたといったほうがいいかもしれないが、彼は同級生と比べると大人びていて、誰にでも優しい性格だったため、当時彼の周りにはたくさんの人が集まるようになっていた。その光景を見た彼をよく思っていない子たちが彼を次第に攻撃するようになっていった。


まず、彼が使っているものを隠す子や教室の外に出たときに鍵を閉めてしまう子など軽い気持ちでいたずらをする子が多かったのだ。そして、いたずらをすることに飽きると、彼の悪口を言って他の子たちを巻き込もうとしたのだ。結果として、二人とも小学校に入学すると同時に不登校気味になり、半年間1週間を通して学校に行けなかったのだ。


 なぜなら、心菜の入学した学校は全校生徒600人以上もいるマンモス小学校で各学年100人程度いるのだ。そのため、彼女は入学式には参加できたが、そこには同じこども園に通っていたいじめっ子や隣の幼稚園にいた子など彼女が会いたくない子が多く在籍していたため、なかなか学校に行くことに難色を示していたのだ。そのため、仮に学校に行けても彼女は周囲に対する恐怖心と戦っていた。もちろん、彼女は学校に普通に行きたいと思っていても当時の事が浮かんでしまうと恐怖心が先行してしまうのだ。


 当時の担任の先生はそんな2人と菜花が重なってしまうほど心から心配していたのだ。そして、2人は無事に卒園できたが、その先でつまずいたという話を聞いてどのようにフォローするべきか先生たちは試行錯誤しながら最後の1年を過ごすことになった。


 彼女が通っていたクラスは比較的落ち着いてはいたが、度々小さなトラブルが起きて収拾までに時間を要することも増えていたことを考えると、“トラブルが大きくならないようにケアをしなくてはいけない”・“個々の距離感を確認しながら動いていかなくてはいけない”などかなり難しい判断を必要とする場面を想定しながら担任の先生を含めて行動しなくてはいけない状況を強いられていた。


 そして、隣のクラスも同じ年齢の子たちだが、こちらのクラスは少し特殊な環境だった。なぜなら、隣のクラスは少し問題のある子が多く、頻繁に菜花のいるクラスに隣のクラスの子が避難してくることも多かったのだ。彼女はこの光景を見てふと「このクラスで良かった」と思ったのだ。


 そして、この事を知らなかった両親は彼女が幼稚園でトラブルなく過ごすことが出来ていると思い、両親はかなり安心していた。


 しかし、夏が終わった頃に事態が一変する。それは、学区別で小学校説明会や体験会などが始まるのだが、彼女の通う予定の小学校は幼稚園から約3キロ、自宅から約4キロ歩くことになる。そのため、学校から離れた場所に住んでいる新入生向けに毎年交通安全教室やスクールバスの利用促進などが他の子たちよりも先行してスタートするのだ。


 彼女は小学校が楽しみだった反面、彼女の住んでいる地区は2年生までは行きはスクールバス一択で、帰りは徒歩とスクールバスは選択できるが、学校のルールで家のエリアに3人以上一緒に帰る子がいないと交通安全や防犯上の観点からスクールバスで帰らなくてはいけなくなるのだ。そして、彼女の地区では朝のスクールバスの集合場所には見守り隊の人がいるが、下校時は見守り隊の人手はなく、歩いて帰れた場合には地区担当の先生が付き添わなくてはいけないのだ。

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