第3話:初めての世界

菜花はこれまで通っていた幼稚園から隆一朗の家から20分の所にある大きな幼稚園への転園することになり、前の幼稚園で使っていたお道具箱などを持って茉里奈と共に事前の入園説明のために向かっていた。


 しかし、菜花はどこか不安を感じている様子だった。なぜなら、前の幼稚園に入るときも入園式前日まで毎日「友達作れるのかな・・・?」・「みんな仲良くしてくれるかな」とお母さんに聞いてきていたこともあった。しかし、彼女の不安とは真逆の結果になり、保育園から5年間一緒に過ごした同じ園のお友達は優しくしてくれたが、この幼稚園の子達は本当に優しくしてくれるのか、自分が輪には入れるかと母親である茉里奈に何度も確認していた。


 そして、初めて新しい幼稚園に行く日になり、彼女は少し不安そうな顔でみんなのいるリビングに降りてきた。まだ、一人の部屋はないが、一人の部屋が欲しいと内心思っていた。


 そして、お兄ちゃんたちと一緒にご飯を食べて、幼稚園に向かう準備をしていたのだが、どこか異変を感じていた。いつもお気に入りの服を制服の下に着るのだが、今回は普段着ている服を着ていたのだ。


 母親はその姿を見て、成長したと感心していた。なぜなら、今まではお気に入りの服しか着ていかなかったため、菜花の着る服の洗濯が間に合わないことも多々あった。そして、その服もボロボロになるまで着ていたため、新しい服を頻繁に買いに行くことになり、かなりの出費になっていたこともあり、母親は頭を抱えていた。


 そして、転園先の幼稚園に向かって歩いていると彼女の緊張が少しずつ和らいでいるように感じた。そして、幼稚園に着くと何もなかったかのように靴を脱いで部屋の中に入っていった。


 その姿を見届けた茉里奈は職場に向かうために駅に向かった。茉里奈もまた引っ越してから初めて最寄り駅を使って職場に向かう。そのため、菜花が幼稚園に慣れるまでは出社時間を10時にしてもらい、彼女を送り届けて、帰りはスクールバスで帰宅することにした。そして、悠花は保育園の空きがなかったため、隆一朗の会社の託児所で預かり、隆一朗が帰宅するときに一緒に帰宅するか、茉里奈の会社の託児所で預かってもらうかの二択しかなかった。


 しかし、まだ彼女は2歳になったばかりで長距離の移動をさせることは難しく、近くに彼の両親は住んでいないため、どうしようか悩んでいた。


 ある日、彼がふと思い出したかのように茉里奈に提案した。それは彼の知り合いに育休中のお母さんがいたことだった。その人は彼の大学の同級生のお姉さんで普段は都心で暮らしているのだが、育休中は彼女の実家もたまにではあるが帰ってくる。


帰り出産しているため、彼の家から20分の所にある同級生の実家に住んでいるというのだ。


 茉里奈は隆一朗のつてを使って何とか彼女に預かってもらえないか?相談していた。しかし、彼女は遊びに来ることはいいが、毎日は流石に難しいという回答だった。


 この回答を聞いて茉里奈は仕方ないと思っていた。ただ、誰かに預かってもらえないと出社出来ないため、正式な復職が遠のいてしまうのだ。


 そこで彼女を茉里奈の会社の託児所に預けられるかどうかを確認することにした。すると、預けることは出来るが、最大利用時間がノー残業デーは18:00、平日は20:00、休日は利用できないため、仮に残業や休日出勤などで遅くなった場合、利用できない場合に子供だけを家に置いておくわけにはいかないし、茉里奈の母親もまだ定年まで5年あるため、休日は頼める可能性があるが、平日は流石に難しいという判断だった。


 彼女は悠花をどうしようか再び頭を抱えていた。旦那さんは育児休暇を取得できるようだが、子供が3歳までしか取れないため、下の妹たちが生まれたときに取った育児休暇は認められたが、今回は3歳を迎えてしまっている悠花のための育児休暇は認められる可能性が低い。そうなると、彼女が延長申請を出して期間を延長するという判断しかないのだ。


 しかし、彼女の育児休暇を延長することは取得可能な最大日数まで取得していないため、育児休暇を延長して継続する事は可能だが、次年度から復帰するためにはそろそろ段階的に出社しながら育児休暇前に同期に引き継いだ仕事を戻してもらい、少しずつこなせるようにしていかなくてはいけない。


 そうなると、悠花を誰かに預けるか、後卒業するだけの茉里奈の妹に来てもらい、見ていてもらうかしかない。ただ、彼女も授業こそゼミだけで、あとは卒論や友達たち戸の卒業旅行だけが残っているが、毎日都内のアパートから通ってもらうわけにはいかないともふと思っていた。

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