第20話 何故かわからないが
私は、王城から家に帰って来ていた。
今は、鏡の前に立っている。なぜなら、自分の表情を確かめたかったからだ。
「あれ?」
鏡に映っているのは、まったく変わっていない鉄仮面である。
笑おうと思っても、何故か笑えない。先程はできたはずの笑顔が、まったく出てこないのである。
「どうして……」
私は、とても悲しい気持ちになっていた。
せっかく、取り戻せたはずの笑顔が、どこかに消えてしまった。それは、とても絶望的なことである。
「いや、そう簡単なことではないということ……?」
しかし、私はすぐに考えを改めた。
よく考えてみれば、長年固まっていた表情がそんなに早く元に戻る訳はない。
王城では、くすぐられて、すぐだったから笑えただけなのだろう。それがなくなって、今は無表情に戻ったのではないだろうか。
「でも、それなら……」
もしそうだとしたら、私はまたエルクル様にくすぐってもらわなければならないかもしれない。
何度もしていけば、私の表情は戻ってくるだろう。そのためには、繰り返すしか方法はないはずである。
それは、かなり恥ずかしいことだ。また、あのようなことをしなければならないのだろうか。
「仕方ないこと……なのかな?」
だが、それは仕方ないことなのかもしれない。
恥ずかしい気持ちがあっても、表情は必ず取り戻さなければならないものだ。私の恥じらいより、優先しなければならないことなのである。
これから、私は王族の妻として生きていく。そんな私が、鉄仮面で言い訳がない。
「それに……エルクル様なら」
それに、エルクル様なら別に触られても問題ない人だ。
もちろん、それはいずれ夫婦になる人だからという理由もある。
しかし、私は自分の根本に別の気持ちができていることに気づいていた。その気持ちがあるため、彼になら全てを任せられると思う。
「また、訪ねないとね……」
とりあえず、家の中でも、笑う練習はした方がいいだろう。
だが、王城でエルクル様と一緒に特訓する方が、恐らく効率的である。あの方法で成功したのだから、そちらの方がいいのは明白だ。
それに、私の心情としても、そちらの方が楽なのである。一人でいると、不安ばかり感じてしまう。しかし、隣に誰かがいれば、それはまったく異なる。やる気の面でも、まったく違うのだ。
「もしかして、今もそれが原因かも……」
そこで、私はある可能性に気づいた。
もしかしたら、今は一人なので、やる気が出ないから、笑顔ができないのではないだろうか。なんとなく、それもある気がする。やはり、一人より二人の方がいいということだろう。
とにかく、この練習は王城に行って、エルクル様に協力してもらうのが一番だ。その時を、楽しみにしていよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます