第16話 根本的な解決

 私は、エルクル様がどうして自分に惹かれていたかを知った。

 彼は、私の穏やかな精神性に惹かれたようなのだ。

 それについて、色々と思う所はある。しかし、今それは置いておこう。その話は、また今度考えればいいからだ。


 今問題なのは、私の表情を取り戻す特訓についてである。

 これまでの話を聞いて、私はある一つの結論を見つけていた。しかし、それは頭を悩ませる者なのだ。


「あの……エルクル様、ということは、私は貴族の割り切った考えをできるようになれば、表情を取り戻せるということなのでしょうか?」

「え?」


 私の結論に、エルクル様は驚いていた。

 しかし、今までの話をまとめるとそういうことになるのではないだろうか。


「た、確かに……そのように考えることはできるかもしれませんね。ですが、それはいい方法ではないと僕は思います」

「そうですよね……」

「ええ、だから、別の方法を考えましょう」


 エルクル様に否定されて、私は少し安心していた。

 なぜなら、私の出した結論通りのことをするというのは、あまり好ましくないことだったからだ。

 他の貴族と同じになってしまうということは、私が私でなくなるということだ。せっかく、エルクル様が好きになってくれた私を失うことは、私としてもしたくないことだった。

 だから、私はその選択を捨てることにする。もっと、別の方法を考えるべきなのだ。


「あ、そうだ。もしかしたら、貴族社会から離れてみればいいのではないでしょうか?」

「貴族社会から離れる?」

「ええ、要するに、あなたの無表情は病のようなものなのだと思います。精神的疲労からそうなっているなら、そこから離れるというのはどうでしょうか?」

「それは……確かに、有効かもしれませんね」


 エルクル様が出した案は、とてもいい案だった。

 一度、貴族社会から離れる。そうすれば、私の精神も少しは安定するかもしれない。


「でも、それは根本的な解決にはなりませんよね? また戻ったら、こうなってしまうのではないでしょうか?」

「それは……そうですね」


 しかし、エルクル様の案には欠点があった。

 貴族社会から離れて、この無表情が治ったとしても、また戻れば、元に戻る可能性が高いからだ。

 それでは、根本的な解決にならない。その繰り返しをするだけになってしまうと思うのだ。


「結局……振り出しですね」

「そうですね……でも、思考したことは無駄ではありません。その方法を取らないでいいとわかったのですから、次に繋がります」

「なるほど……」


 振り出しに戻ったと落ち込む私に、エルクル様は優しい言葉をかけてくれた。

 確かに、思考したことは無駄ではない。それをしなくていいとわかったことは、大きな収穫なのだ。

 こうして、私達はまた表情を取り戻す方法について、考えることになるのだった。

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