第17話 名案だが
私とエルクル様とともに、自身の表情を取り戻す訓練をしていた。
私の表情がなくなったのは、貴族社会に対する疲れによるものだった。つまり、貴族社会から離れることで、回復する可能性が高いのである。
しかし、その案を採用することはできなかった。休んで、戻ってきた時、また疲れて無表情に戻る可能性が高いからだ。
そうなると、結局、繰り返しである。そのような不毛な繰り返しをしないためにも、私は表情をきちんと取り戻さなければならないのだ。
「さて、表情を取り戻す方法を考える訳ですが、どのような方法が有効なのでしょうね……」
「そうですね……少なくとも、今まで私がやってきた無理やり指で表情を動かすというのは、無駄だと思います。結局、成功していませんからね」
「なるほど……それなら、別の方法を考えるべきですね」
前提として、今まで私がやってきた方法は駄目だろう。
その方法で戻るなら、私は既に戻っているからである。
そのため、新しい画期的な方法を考えなければならない。何か、表情を作ることができるような方法はないだろうか。
「あ、エルクル様、一ついい方法を思いつきました」
「おお、それは良かった。どんな方法ですか?」
そこで、私はとある一つの方法を思いついた。
強引な方法だが、中々有効的な方法であるはずだ。
「私をくすぐってみてください」
「は? くすぐる?」
私の言葉に、エルクル様は目を丸くして驚いた。
どうやら、私の提案をよくわかっていないようである。
「くすぐられると、人間は笑ってしまうでしょう? 強い人もいますが、私はそんなに強くないと自覚しています。だから、くすぐったら、案外笑顔になるかもしれません」
「いえ、それはわかっています。ただ、僕がくすぐるのですか?」
「ええ、自分でくすぐったら、加減してしまいますから」
「あ、えっと……そういうことではなくてですね」
私が説明しても、エルクル様は歯切れが悪かった。
その歯切れの悪さから、私は少し想像してみる。私が、エルクル様にくすぐられる図を。
どういうことになるかというと、彼が私の脇などを手で弄る訳である。なんというか、とても恥ずかしい図ではないだろうか。
「あ、すみません。その……焦っていたので、そういうことを想定していませんでした」
「大丈夫です。それはわかっていますので……」
「そうですよね……エルクル様に、そういう所を触られるのは恥ずかしいことです。はしたない提案をして、申し訳ありませんでした」
「いえ……」
この提案は、いい案だと思っていたが、そうでもなかった。
流石に、エルクル様にくすぐられるのは駄目だろう。何か、別の案を考えた方がいいのかもしれない。
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