第15話 温かい心

 私は、エルクル様と無表情になった原因を話していた。

 どうやら、エルクル様も貴族社会によって、表情を歪められているようだ。

 いつも笑顔なのは、相手を不快にさせないために身に着けたもの。その事実は、私にとって少し意外なものだった。


「貴族社会は、正直そこまでいい世界ではありません。あの独特な空気に、疲れてしまうのは仕方ないことかもしれません」

「やはり、そうなのでしょうか?」

「ええ、それを割り切れればいいのでしょうが、それができる程、あなたの心は冷たくなかったのでしょうね」


 エルクル様は、少し自嘲気味な笑みを浮かべた。

 それは、自分の心が冷たくなっていると思っているからなのかもしれない。

 しかし、私は彼の心が冷たいということには、まったく納得できていなかった。エルクル様程、温かい心をもっている人は他にいないだろう。


「そんなことはありません。エルクル様の温かさは、私に確かに伝わっています」

「いえ、僕は、割り切れるような人間なのです。根本的には、あなたとは違います。だからこそ、あなたに惹かれているのです」

「え?」


 私の言葉に、エルクル様は意外な言葉を返していた。

 まさか、ここから私への思いに繋がるとは思っていなかった。何故、急にそのようなことを言い出したのだろうか。


「僕は今まで、あなたのことを何故好きになったのかよくわかっていませんでした。もちろん、とても好きだと思っていましたが、その理由をはっきりと表現することができなかったのです」

「そうなのですか?」

「ええ、ですが、それが今やっとわかりました。僕が、どうしてあなたのことを好きになったのか、その理由はあなたの精神にあったのです」


 どうやら、エルクル様は今までどうして私を好きになったのかわかっていなかったようだ。

 その答えが、今見つかった。だから、エルクル様はこのようなことを言ってきたようだ。


「僕は、貴族社会に心を痛めるあなたのその穏やかな精神に惹かれたのだと思います。僕や……他の貴族とは少し違う、その精神性が僕のこの思いに繋がったのです」

「穏やかな精神……」


 エルクル様の言葉に、私は少し驚いた。

 私は、自分の精神を穏やかだとは思っていなかった。どちらかというと、臆病な精神と言った方が正しいような気がする。

 だが、エルクル様が惹かれたのはこの精神性なのだ。それは、とりあえず受け止めておこう。

 こうして、私はエルクル様が自分を好きになった理由を知るのだった。

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