第14話 失った理由
私は、エルクル様に協力してもらい、表情を作る訓練をしていた。
ただ、それはあまり進展していない。どうすればいいのか、あまりわかっていないからである。
「あ、そうだ」
「エルクル様? 何か思いついたのですか?」
そんな中、エルクル様は何か閃いたという表情をした。
当然、訓練の内容について、何か思いついたのだろう。
「こういう時は、まず原因を探るべきではないでしょうか?」
「原因ですか?」
「ええ、あなたがどうして表情を失ったのか。それを考えていけば、表情を取り戻す手がかりになるのではないでしょうか?」
「なるほど……確かに、そうですね」
エルクル様の案は、とても理解できるものだった。
私が、表情を失った理由。それは、表情を取り戻す上で、とても大切なことだろう。
しかし、その理由について、話すのは少し難しかった。それは、別にエルクル様を信用していないという訳ではない。彼になら、打ち明けられるという確信は持っている。
だが、私自身が、その理由についてよくわかっていないので、どう話していいかわからないのだ。
「困っているようですね? よくわかりませんが、とりあえず、その胸中をそのまま伝えてもらえますか?」
「あ、はい……そうですね。まとまっていませんが、少し話させてもらいます」
「はい。ゆっくりで大丈夫ですよ」
そんな私に、エルクル様は笑顔で優しい言葉をかけくれた。
ここは、彼の言葉に従って、まとまっていない気持ちをそのまま話した方がいいだろう。話さないよりは、その方が絶対にいいはずだ。
「私が表情を失ったのは、貴族社会の顔の窺い合いなどに……疲れた、とでもいうのでしょうか? そういう気持ちが原因なのだと思います」
「疲れた……ですか」
私から表情が消えたのは、貴族社会の顔の窺い合いに疲れたからだと思う。
貴族というものは、常に相手の顔を窺い、愛想笑いなど誤魔化して会話をする。そういうものを重ねていく内に、私の精神は疲弊していった。
その精神の疲労が、今の私に繋がったはずである。ある時から、私は表情を作れなくなっていた。恐らく、顔の作り方を忘れてしまったのだ。
「なるほど……よくわかりました。あなたの気持ちは、よくわかります。僕も、そういうことには覚えがありますからね」
「そうなのですか?」
「ええ、僕はいつも笑っているでしょう。この笑みというのは、もう自動的に作られているものなのですよ。相手を不快にさせないための笑み、それを作るような体になっているのです」
「そうなのですね……」
私に対して、エルクル様はそのように語ってくれた。
それは、少し意外である。いつも浮かべていた笑みは、作り笑いだったようだ。
こうして、私はエルクル様の意外な一面を知るのだった。
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