第6話 今思っていること
私は、エルクル様に告白された。
その答えを、すぐに出すことは難しい。エルクル様も、まだ答えを求めていないので、それは先送りになった。
しかし、私はとりあえず今思っていることを言っておくことにした。今の気持ちを伝えておくことが、告白してくれたエルクル様への勇気に報いることだと思ったからだ。
「正直、私はエルクル様のことは、好意的に思っています」
「え? そうなのですか?」
最初に、私は結論を話した。
私は、エルクル様のことを好意的に思っている。とても単純な理由で、私はそのように思っているのだ。
「今まで、私のこの顔から表情を読み取れる人などいませんでした。それができるあなたに……それができる程、私を好いてくれているあなたを、私は好意的に思っています」
「な、なるほど……」
私がエルクル様を好意的に見ている理由は、本当に単純である。
私の表情を見抜けること。それが、一番の大きな理由なのだ。
この鉄仮面から、表情を読み取った人は、今まで一人もいなかった。私自身でさえ、顔を見ただけででは、変化がわからなかったくらいだ。
しかし、エルクル様はそれを見抜ける。見抜ける程に、私を思ってくれているのだ。その思いに、心が揺れないことがある訳がない。
「そう思ってもらえているなら、僕としても嬉しいですね……なんというか、思い続けてきた甲斐があったとでもいうのでしょうか? 嬉しいです」
「そうですか……それなら、良かったと、私が言ってもいいのでしょうかね?」
「さあ、どうでしょうか?」
私の言葉に、エルクル様は笑顔を見せてくれた。
喜んでくれているので、私がこれを言った判断は間違っていなかったと思っていいだろう。
「……そういえば、エルクル様が私を婚約者に指名してくださったのは、そういう事情があったからなのですね?」
「え? ああ、そうですよ。まさか、あなたの婚約が破棄されたと聞いて、急いでこの話を持ち掛けました」
「それにしても、なんというか、連絡が早かったですね?」
「え? ああ、そのことですか……」
そこで、私はエルクル様が婚約を申し込んだことに関する話を振った。
エルクル様は、とても早期に婚約を申し込んできた。私が、ザゼンド様に婚約破棄されて、屋敷に帰って、しばらくしたら、その知らせが入ったのだ。いくらなんでも、早いと思っていたのである。
それは、別にそこまで気にしていることではなかった。王族のため、情報も早いくらいにしか思っていなかったのである。
ただ、今のエルクル様の反応で、何かあるとわかってしまった。これは、少し事情を聞かなければならないかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます