つんつるてん

「ばーか。また同じクラスじゃねえかよ」


「馬鹿ってなに。私とあなたが同じクラスになったからって、馬鹿ってなに。理屈になってない」


「知らねえ。ばーか」


 中学一年の入学式。中村と同じクラスだと知って、内心ほっとした。


 彼とはいわゆる腐れ縁。

 小四で同じクラスになり、中三まで同じクラスだった。普通の友達。

 いや、もしかしたら普通よりは仲の良い友達。むかつくことは何度もあったけど、心から憎んだことはないし、向こうだって同じだと思う。


 中村と同じクラスであったことで、私は常に安全圏にいた。

 いじめ、ハブ、嫌がらせ、陰口。程度の差こそあれ、その対象にされなかったわけではない。

 誰だって同じ。

 スクールカーストは実際のカースト制度ほど硬直的ではない。中学でグレるやつもいれば、見事なデビューを果たすやつもいた。オタクのくせに人望の厚い変わり者だっていた。

 だけど私はとりわけ恵まれていた。中村と仲が良い、それだけでいくらか負荷が軽くなった。


 そんな彼ともいよいよお別れ。


 制服の袖のなかに手が隠れていた入学式の頃からすると、つんつるてんになった中村の制服が、三年間という月日の長さを証明していた。

 成長した。

 私も同じく、少し背が伸びた。


「結局違う高校ってのは、ちょっと寂しいっていうか。なんかなあ」


「ばーか。別になんも変わらないよ。私も。あんたも」


「馬鹿はお前だろ。変わらないわけないじゃん。なにもかも」


 そっか。なるほど。

 目の前に立つ中村を見上げて思った。私より十センチ以上高い。そっか。やっぱり、成長したんだ。


「中村、なに熱くなってんのさ」


 卒業を目前に、誰もが浮き足立っていた。なのに斎藤は、こんなときでも冷めている。冷めているのにちょっと目が潤んでいるのは、花粉のせい。

 斎藤の花粉症は、私の花粉症に匹敵するか、それより少し重い。重い。斎藤は案外、冷めているようでいて、情に篤い。

 斎藤を嫌うやつもクラスには多かった。


 だが、私は彼女が良いやつだと知っている。


「大丈夫だよ。いろんなことが変わっても、変わんねえもんもあるんだっての」


 なぜか私たち三人は、同時に君を見た。

 そうそう、君とも三年間、同じクラスだったんだ。


 ずっと忘れていた。

 って、そんなわけない。覚えている。君は、だって、入学式に遅刻した。そして私も一緒に遅刻した。

 桜の木の下で横たわる君は、死んでいるのだと思って、すごく慌てたんだよって、その話もいつか君としてみたいなって、ずっと思っていたのに。

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