第4話 ばいばい。

私は時間を忘れてYouTubeでDADA RATのミュージックビデオを繰り返し観ていた。ふたりの少女の影がひとつになるシーンがある。憂いのあるメロディに合わせて、少しずつ合わさりひとりになると、また少しづつ分裂してふたりになる。途中でDADA RAT本人がミラーボールの下でDJをする姿が映る。ライブ行きたいな、とぼんやり思う。

DADA RATの公式サイトでライブスケジュールを調べる。明日の17時に渋谷道玄坂でリリースパーティがあるらしい。

ぐぅ、とお腹が鳴った。どれくらい飲み食いしてないだろう。スマホがブルブル震える。職場からの電話だ。でも出る気もしない。

窓もカーテンもずっと締め切ったままで、部屋の中はなまぐさい匂いが充満していた。

莉沙は言う。

「仕事もろくに行かないで東京行くつもり?あんた私が思ってたより相当馬鹿?誰が職場であんたの尻拭いしてんだろうね。電話してやろうか。莉菜は仮病です〜って。」

私はその声を消すように顔の周りを手で払う。ネットで東京行きの飛行機を予約した。思いつきだから高くつくけどもういいの。行かなきゃならない気がするの。今DADAに会えなかったら一生後悔しそうだから。

莉沙は私を残念そうに見つめて私の洋服ダンスを開けて服を引っ張り出した。汚いものでも触るかのように指先でつまんで床に投げる。

「何着ていくの?ダッサい服。相変わらずセンスないよね。」

パサり、パサりと私の服を床に積み上げていく。

「…莉沙の服着ていくわ。どうせサイズ変わらないし。」

「は?ふざけないでよ。私のものには触らせないから。」

その声を私は手で払う。キーンと耳鳴りがした。


私は莉沙の動きを頭の中で止めて、まじまじと見つめた。私と莉沙の何が違うの?私が作り出した幻想なのにどうして私を苦しめるの?莉沙の血色のいい頬を人差し指でつつく。いつも通り肌ツヤも良くてぷにぷにしてる。でも彼女がいつもと違うのは、今、ゴミ袋の中で眠ってるってこと。莉沙にボロボロにされた私のスニーカーと一緒に。


莉沙は消えた。どうやって消したかは覚えてない。せっかくほっとできたのに、洗濯物が増えた。やれやれ。天気を確かめるためにカーテンと窓を開ける。快晴だった。


東京行きの準備をしなくちゃ。

莉沙のクローゼットを開けた。どれを着ていこうか考える自分の浮かれ具合に気づいて、恥ずかしくなった。


莉沙は消えた。どうやって消したかは覚えてない。せっかくほっとできたのに、何故か寂しい。


莉沙は消えた。どうやって消したかは覚えてない。せっかくほっとできたのに、莉沙の声がする。


「た…すけ……て…。」


私はその声を手でかき消す。

ねえ、莉沙。

ばいばい。


莉沙は消えた。

どうやって消したかは覚えてない。






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