99+1

咲場大和

第0話 出会いと困惑

 世界の輪郭が揺らぎ、頭上の枝葉から木漏れ日が降り注ぐ曖昧な世界に俺は居て、目前には一人の少女が立っている。響く優しい声音は僕を包み込んでいく。

「ねぇ、あなたの夢は何?」

少女の表情は逆光に陰り、伺うことはできない。彼女は誰だっただろうか…でもきっと大切な人だ。


 そして、どんどんと彼女と世界の輪郭の揺らぎは激しくなり、ぼやけて1つに溶けた。幾重にも重なる色に自らも溶けだしていく感覚に捕らわれ、そして視界は暗くなる。


「僕の夢は…僕はっ!」


 溶けだす恐怖に僕は怯え、必死に声を張り上げる。しかしその先の言葉は出てくることは無く、意識は急速に浮上し、光を一身に受けて青年は目を開けた。

「まぶしっ」

反射的に羽織るようにかけた毛布を頭まで被る。しかし、日差しの暖かさは予想以上で布団をすぐに剥いだ。


 心地の良い温もりを名残惜しみながらベッドから起き上がり、部屋を出てすぐの階段を降りると、少女がキッチンで調理する姿が視界に入った。

「あ、おはようございま~す。よく眠れました?」

間延びした口調の少女は、にこやかに僕を見た。

「おはようございます…」

僕は、そのままいつものようにリビングの椅子に座り、ただぼうっとしていると

目の前に良い匂いを漂わせる朝食が置かれた。

「はいっ、どうぞ」


 少女はそのままキッチンの方へ回れ右して戻っていく。僕は目の前に置かれたお味噌汁をずずっと啜る。

「美味しい」

味噌汁の味は全身に染み渡り、意識は覚醒していく。そしてキッチンで調理する少女を眺め、そしてはっとする

「え、誰?」

その少女は僕の知らない人だった…。


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「やだ、あなた。私ですよ?」

 彼女は、僕が冗談を言っていると捉えたのか、笑いながら答える。しかし、僕の知り合いに彼女のような人は居ない。

「えっと、確認してもいいかな?」

「はい、どうぞ。」

少女はクスクスと笑いながら、両腕を体の後ろで組んだ。その姿は、幼さも相まって可憐に映り、少しドキッとしてしまった。が、すぐに雑念を振り払う。


やめろやめろ!相手は幼気な少女だぞっ!


彼女の言動から察するに僕の事を知っている口ぶりだ。だけど、質問攻めすればきっとボロが出るはずだ!

「えっと、僕の名前ってなんだっけ?」

「ヒイロです、市場戦いちばせ緋色ひいろさん」

正解。

「僕の好きな食べ物は?」

「鶏の唐揚げです」

ぐぬぬ、正解

「じゃあ、僕の家族は?」

「私です」

せいか…「へ?」

「だ・か・ら!、私です。緋色さんの奥さん。私です!」

「え、ええええええええ!?」

奥さんっ!?奥さんって俗に言うお嫁さん!?

「さっきから何なんですか!しかも、そんなに驚くなんてっ!」

僕の奥さんだと名乗る少女は頬を膨らませ、ぷんすかと怒る。

「え、ちょっと待って!なにがどうなってるの!?」

急展開について行けずあたふたとしてしていると、少女は、はっと納得がいったように頷き、手をお腹に添えた。

「もしかしたら、もう一人家族がいるかも…」


 その言葉に僕の思考は完全に停止し、プシューッと音を立てながら倒れた。

「ああっ!緋色さん!大丈夫ですか!?冗談、冗談ですからっ!私達ですから!」

冗談、冗談か。どこまでが?

上半身だけ起こし、確認をする。

「えっと、それは君が奥さんって事から?」「いえ、それは本当です。」

「うぅ」「何でまた倒れるんですか!?」

一体どうなっているんだ…そのまま僕の意識は遠のいていった。

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