第119話『天之麻迦古弓《あめのまかこゆみ》』
引き続き部屋で懊悩とした感情を捨てきれずにいたハインに、今度は通りがかったリョウマが話しかけてきました。何やら手には豪華な装飾の施された弓を持っています。
「よう、ハイン。おまん、弓使いなんだろ?」
「あ、リョウマ。うん、そうだよ。私、弓が得意なの。沢山特訓したからね~」
「そうか、よかったら、この弓、おまんにくれてやるぜよ。店に出して見たんだが、誰も装備出来なくて、全く売り物にならんかったからな。ゼントは装備できたけど、使わないからって、ウチにくれたぜよ。ウチも装備は出来たが、弓の素養は全くなくてな。ずっとカバンにしまっておいたんだ」
「なあに、この弓?」
ハインはリョウマから受け取った長弓をまじまじと見つめています。
「今から三年とちょっと前に、流浪っていう、髭面で獅子みたいな髪型をした、変なオッサンにもらったぜよ。ウチにも使いこなせんし、ゼントも弓なんぞいらんって言って、押し付けてきたんだ」
「ふ~ん、でも何かこの弓、凄い、神々しい力を感じるよ? 普通の弓じゃないみたい。私に扱えるかな?」
「ま、試してみればええ。これから決戦だからな。そんな平易な弓じゃ、まともに戦えないだろうし」
「わかった。でも今使っている弓は、ヤガミっていう死んだ女友達の形見なんだ~。だから手放したくないんだよ~」
「ならウチのカバンにしまっとくぜよ。いつでも必要になったら言ってくれ」
「わかった。じゃあ預けとくよ。絶対売ったりしないでね」
「勿論。大事にしまっとくぜよ」
そしてハインは立ち上がると、弓を引き絞り始めました。
「あっ私、なんかこの弓、装備できるみたいだよ~」
「ホントか? よかったな。でも矢が無いぜよ?」
「平気、私、自分の魔力を矢に変えられるんだ。ちょっと試し撃ちしてみるね~」
しかし、放とうとした彼女の体に異変が起こりました。
「どうした、ハイン?」
「なんか・・・、この弓つがえたら、足が全然動かなくなっちゃう。これじゃあ、歩けないよ~」
「なんじゃと~、この弓、そんな副作用があったがか?? ゼントのといい、何か呪われてるんかな? でもおまん、その弓つがえたら、レベルが見えなくなったぞ?」
「え? うそ? 嫌だ~ホントだっ一体どうなってるの??」
「ようわからんが、ゼントのと似たような効果があるのかもしれないなぁ」
「ゼントのて?」
「いや、詳しいことは言えんのだが、レベルが100倍にアップするらしいんだ。ゼントのレベルは1923だから、その剣を抜くと、推定だけど、レベル19万ぐらいにはなってるち思う」
「れっレベル19万?? 無茶苦茶だよ~化け物じゃんっ。ひょっとして、この弓も似たような効果があるのかなぁ?」
「う~ん。鑑定してみたんだが、神の武器らしくて、ウチにもよう解らんかった。でも、どうやら何か特別な力がある弓みたいぜよ。いざという時に使っとけ」
「うん、わかった。ありがとう、リョウマ」
「えへへ」
リョウマがハインに渡した弓の名前は
ハインのレベルは42800なので、この弓を撃っているときだけはレベルが400万を超えます。しかし、そんな効果があることを知る由も無く、ハインはこれから長い期間を経て、愛の苦悩に耐えながら、伝説の弓使いにして、古の踊り子へと覚醒していくのでした。
「それにしてもリョウマって一杯アイテムとか、武器とか持ってて凄いね~一体どこの国の人なの?」
「ウチは、その、サラバナの出身だ」
「サラバナ? それホント?? マガゾ人はね、みんなサラバナ王国に感謝してるんだよ~未だにマガゾだけは結構な額の経済支援してくれているからね」
「そか・・・・でも、裏もあるだろ。ただというわけじゃあないはずだ」
「うん。マガゾ人の知恵の一つを教えることを条件にしてるの」
「やっぱりな。。。お父上の考えそうなことだな・・」
「リョウマって、商人か何かなの?」
「ああ。ウチはガレリア王国のミネルバ州に、パパイヤンっていう都市を作ってな。一応そこの最高責任者で、商人ぜよ」
「パパイヤンって・・・あのとき私が行ったところ?」
「ああ、そうだ。この戦いが無事終わったら、おまんもぜひパパイヤンに遊びに来てくれろ。きっと楽しいぞ」
「うん、行くぅ。一緒にマガゾでも遊ぼうよ~。私のとっておき、見せてあげるからね」
「とっておき? なんか知らんけど、楽しみにしとくな」
こうして、それぞれの夜が夜が更けていきました。
一方、魔族達の国となったブリジン王国の居城、王の玉座に座っていたザンスカールは、魔族が持つ軍隊、魔姦軍の将軍、リョフ・ハンニバルに語りかけていました。
「・・・ザルエラは、危険だ。彼は、人間を滅ぼそうと考えている。それは、僕達魔族の望みじゃない」
「仰るとおりですよ、首長。あの男の思想は大変危険です」
「だけど、魔族が魔族を殺す事は、掟に反する行為だよ。神同士が殺し合いをしないのと同じようにね。一体どうすればいいと思う?」
ザンスカールは、左手に抱える熊のぬいぐるみを力強く抱きしめています。その様子を見たハンニバルは、快活に述べました。
「それでは、いっそザルエラ様の思うままにさせてみたらいかがでしょうか」
不敵な笑みを浮かべて、ハンニバルはザンスカールに進言したのです。
「思いのままに、か。彼は、復讐の為にモントーヤ州を壊滅させたいらしいね。僕は反対だ。規模がでか過ぎる」
「ですがモントーヤ州は、ガレリアの最重要拠点。このオフェイシスにとっても重要な場所です。そこでザルエラ様が派手に戦を起こせば、ガレリア軍は勿論、更に武の国ラズルシャーチも討伐に動いてくるでしょう。モントーヤにはトリデンテと呼ばれる武名響き渡る者たちがいます。いくらザルエラ様とて、無傷で帰って来られる可能性は、極めて低いと思われます」
「・・・つまり、リョフ。キミは彼らに、ザルエラを殺させろ、と、言いたいのかい?」
「・・・全ては、ザンスカール様の判断にお任せいたします」
ハンニバルの提言に、ザンスカールは迷いましたが、直に決断しました。
「わかった。キミの意見を、尊重しよう。」
「・・・ありがたき、お言葉」
そして魔人ザンスカールは、白骨化した右手に持った焼きリンゴを頬張ると、立ち上がり、自らに頭を垂れているハンニバルの横を通り過ぎて行きました。
「どちらへ?」
「・・・ちょっと妻に、会ってくる。留守は任せたよ、リョフ。」
「・・・承知、致しました。」
戦略家であり、レベル88997という圧倒的な強さを誇るリョフ・ハンニバルの真意は、ザルエラが死に、その後を継ぐであろうスナイデルを傀儡化させ、自らが指揮する魔姦軍の権限を増大させることにありました。
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