第99話『二つの作戦』
新しいアジトは古ぼけた雑貨店の地下に用意されました。
その室内で、マクスウェルは自らの作戦をアグニ達に説明したのです。
ゼントは既に新しいアジト内におりました。
「我々レジスタンスの目的は二つ。一つは魔導雲を利用して要塞内に乗り込み、リッヒを討ち取ること。
そしてもう一つは獣教会の内情を探る事です」
リッヒを討ち取る。その言葉にゼントは過剰な反応を示しました。
「それは、殺す、ということか?」
マクスウェルは苦渋に満ちた表情で小さく頷きます。
「そのために、要塞内には精鋭を送り込む必要があります」
「ふむ、なるほどのう。ではワシが要塞に行くとしよう」
その後、ピエタが主導してメンバーの選定を行いました。
しかしルクレティオは、自分は要塞には行きたくないと駄々をこねたのです。
「だって幽霊なんて怖いよ。僕にはとても無理だ。」
「何言ってるのよ、ルクレの馬鹿」
漣はルクレを叱責します。
「だって僕は、僕は、ハーレムがっハーレムパーティーが、したいんだーーーー!!」
己の欲望に忠実で厚顔無恥なルクレの叫びは室内に幾度もこだましました。そしてアグニ達の耳を汚したのです。
少々短気なリョウマは怒りを感じ、
「なあ漣、このベコノカワ、撃ち殺してもいいか?」
「ええ、いいわ。死なない程度に撃ち殺して」
漣の了承を得て、リョウマは2丁拳銃でルクレ目掛けて銃弾を撃ち込みました。
しかし煙の魔人の能力を使い、その銃弾は全て彼の体をすり抜けていったのです。
「へへーん、効かないよ~だ」
ルクレティオは意地悪そうに舌を出し、自分の尻を叩き、リョウマを挑発しました。
「おんのれ~~」
実はルクレティオにはメンバーに女性が多いほど自身のレベルが上昇するという特殊体質があるのです。
本人も仲間達もまだ気がついていませんが、これは勇者の本能によるハーレム願望なのです。
「勇者のくせに生意気だぞ、少しは自重しろっ」
ゼントの言葉に深く傷ついたルクレは、
「なんて酷い事を言うんだーーーっハーレムは、勇者の特権じゃないかぁっ」
と瞳にうっすらと涙を浮かべて猛抗議しました。しかしそれに対してゼントも、
「勇者にそんな特権は無い。あんまり馬鹿な事を言うと、追放するぞっ」
と手厳しい言葉をぶつけました。
「ふざけるなーっお前なんか、敵にやられて死んじゃえばいいんだよっバーカッ」
「ふん、俺が死ぬわけ無いだろ。この戦いから帰ってきたら、貴様のその軟弱な精神を一度鍛えなおしてやる」
「余計なお世話だよっ」
ゼントとルクレが激しい言い合いを始めたため、ピエタが間に入って仲裁しました。
そしてマクスウェルはその場を諌め、再びメンバー編成の話に誘導していったのです。
その結果、要塞内に突入するのはピエタ、ライカールト、ペロッティ、グラウス、マクスウェル、ゼントの六名。
獣教会の内情を探るメンバーはアグニ、漣、ルクレティオ、マテウス、リョウマ、ハインの六名となりました。
「やったーーハーレムだ~~たりらりら~んのこにゃにゃちわ~ん~三時のおやつはオムライス~♪」
ルクレティオは大喜びで祝福のダンスと歌を皆に披露しましたが、仲間達の視線は冷徹極まりない物でした。
唯一アグニだけはルクレのダンスに見惚れており、ハインは笑顔でつられてルクレと一緒に踊りだしました。
「全く・・・勇者というのに、どうしようもないのう」
流石のピエタも思わず頭を抱えてしまいました。
「マクスウェル隊長。本当に、リッヒを殺しちゃうの?」
ひとしきり踊り終わったハインは、少し悲しげな瞳を元リーダーに向けました。
「ああ、彼はもう私達の仲間ではない。決着をつけるしかないだろう」
「そうか、ならリッヒの相手は俺に任せろ」
ゼントは冷静な口調で言いました。
「リッヒはとても強い。一人では無理だ」
「関係ない」
ゼントは右手を強く握り締め、その心は怒りと悲しみの狭間で揺れ動いていました。
「獣教会本部へはレジスタンスのペイトに案内させます。ルクレ殿、くれぐれもご無理なさらないようにお願いしますね」
マクスウェルはルクレに優しく語り掛けました。
「心配しないで。危なくなったら僕達は即効で逃げるから。なんてったって、自分の命が一番大事だもんね~」
「こんの、ベコノカワめぇ・・・」
リョウマは憎憎しい表情で歯軋りをしたのでした。
「しかし要塞突入メンバーは六名だけで平気かのう? 獣教会の偵察なら2、3名で充分じゃろうて」
「いえ、それもそうですが、要塞内には敵の亡霊兵が多く居ます。獣教会も何が起こるかわかりません。少数精鋭だと戦闘になった場合、困難を極める可能性がありますので」
「ふむう、・・・そうか。して、どうやって要塞に乗り込むつもりじゃ。まさか真正面からやりあうのか?」
ピエタは感じていた懸案事項をマクスウェルにぶつけました。
「いいえ、格納庫に入れる荷物に紛れ込むつもりです。」
マクスウェルの発言を聞いたライカールトは、自らの能力を使用すると言い出しました。
「そういうことなら、この私のテレフネーションで安全に潜り込めますよ」
「テレフネーション?」
「瞬間移動の能力です。六名程度なら一緒にワープ出来ます」
「なんと・・・」
マクスウェルは驚きと、多少の恐怖に満ちた表情でライカールトを見つめました。
「リョウマよ、透明な無明の破片を一つくれんかのう」
ピエタがリョウマに催促しました。
「ええぞ、ほれ」
「済まぬのう、ほい」
ピエタは無明の破片に魔力を限界まで高めた人格変性の呪文を封じ込めたのです。
「もしアグニが凶悪化したら、直にこれを使うんじゃぞ」
「わかった。カバンで増やしておくぜよ」
リョウマは破片を受け取り、カバンの中にしまい込みました。
こうして作戦会議は終わり、翌朝、メンバー達はそれぞれ想いを馳せつつ覚悟を持って計画を実行する事にしたのでした。
仲間達が散会しようとする中、ピエタが眠そうな顔をしていたゼントを呼び止めました。
「おい、ゼント」
「どうした、ピエタ?」
「お主、本当にリッヒという奴を殺すつもりか?」
その問いに、ゼントの心は揺らぎましたが、直に言葉を返しました。
「ああ、やるさ。俺があいつを、必ず仕留めてやる」
「仕留める・・・か。何故殺すと言わん、ゼント。お主は剣の達人じゃが、未だに心のどこかが優しすぎるようじゃのう。敵になったとはいえ旧友を、お主に殺すことが出来るのか?」
「うるさいぞっピエタッ!! 俺が必ず奴を・・・・」
殺す。その一言が言えず、ゼントは無言のまま室内を後にしていきました。
「ゼントの奴、内心かなり苦悩しておるようじゃのう。こうなったら、ワシがスクナのときのように止めを刺すしかなかろう・・・・」
ピエタは神妙な面持ちで、杖をつき、一人まだ見たこともない相手、リッヒ・シュワルツァのことを考えていました。
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