第35話『石座りの少年3』:瞬圧極滅剣《オー・フォルトゥーナ》
ゼントの持つ剣は十束剣といいます。
この剣には神の特殊な力が宿っており、装備者が引き抜き、使用する事で、自身のレベルを百倍まで引き上げることが可能になるのです。しかし、その代償は極めて大きく、剣を抜いているだけで激しい猛毒状態に陥り、鞘に収めた後はやがて深い眠りについてしまいます。その為、普段ゼントは木刀で力を極限まで抑えて戦っているのでした。猛毒状態を治せるのは、今のところリョウマのアイテムとピエタの魔法だけです。そのため、この剣は強いながらも使い放題というわけにはいきません。ゼントがこれまでよく眠っていたのは、この十束剣の副作用だったのです。
十束剣は、今から約三年程前、流浪と名乗る髭面の獅子のような猛々しい髪型をした初老の男から授かりました。
「ゼントよ・・・お主、下の名は何と申す」
「ナムジ・・・ゼント・ナムジだ」
「そうか、ゼント・ナムジよ。この剣を持ちし今この時より、お主はゼント・クニヌシと名乗れ。さすればこの剣が、きっとお主を助けてくれるだろう」
「・・・承知した」
「この剣を持つ者はやがて世界を統べる定め。ゼントよ、強くなれ。そしていつの日か、この世界を武と調和でもって平定し、国を興すのだ。まずはその剣を使いこなせ。完璧に使いこなせたとき、また会えたら、そのときは、そなたが本来ラズルシャーチでキチンと生まれていたときに得るはずだったレベルに戻してやろう」
「ふん・・・国づくりには興味ないが、この剣は使えそうだ。ありがたく頂戴するぞ」
「それともう一つ、お主に特別な弓をくれてやろう」
「弓? 悪いが興味ないな」
「まあそう言うな。もって行け。何かの役に立つこともあるだろう」
以上が剣と弓を貰ったときの流浪とゼントとの会話の内容です。
ゼントは剣には興味津々でしたが、弓には関心を示さず、その場にいた当時まだ12歳だったリョウマに渡してしまいました。しかしリョウマも弓の素養は全く無かったので、未だにカバンに仕舞い込んだままです。
「れ・・・レベルが・・・レベルが大幅に膨れ上がって・・・・見えなくなってしまった。ばっばかな・・・・こ、こんなことがありえるのか?! あれは、魔綬なのか?? いやそんな代物ではない。あの剣からは、とてつもなく神々しい力を感じるぞい」
ゼントのあまりにも急激なるレベルの変動に、ピエタは驚きを隠しきれませんでした。
「なっなんだと・・・・貴様、まさか、.・・・いや、顔等に神文字が出ていない。ではこの急激なパワーアップは一体?」
スクナもあまりの出来事に動揺しています。
そしてゼントは左手で剣を頭部よりも高くかかげ、大上段の構えを取りました。
「示現流奥義・大上段、・・・、倍、返し。さあ、かかってこい・・・」
ゼントはスクナを言葉で挑発しました。
「ふん・・・返し技か? そんなもの、俺は食らわぬぞっ料理してやるっクタバレッネオメガ・グラムスッ」
スクナは無防備なゼント目掛けて大魔法を放ちました。
「・・・動いたな? これでパパのうきうきクッキングは・・・、終わりだっ」
示現流奥義・大上段、倍返しはカウンター技ではありません。標的を構えで捕捉し、対象者がピクリとでも動いた瞬間に自動的に発動する技です。
ゼントはスクナの放った魔法を高速移動でかわすと、あっという間にスクナの背後に蜻蛉の構えをしてやってきました。
「なっ・・・何っ馬鹿なっ背後に・・・・」
「もらった! おお運命の女神よ、我がために勝利の哀歌を歌え!
行くぞ!示現流絶技・瞬!圧!!極!!!滅!!!!剣!!!!!《オー・フォルトゥーナ》!! キェーイ! キェーイ!! キェーイ!!! キェーイ!!!! キェーイ!!!!!」
ゼントの十束剣がスクナの体を圧倒的な速度と豪腕で切り刻んでいきます。とてつもない猿叫を周囲に響かせています。
そして彼は止めの一つの太刀を超高位魔族に叩き込みました。
「はあああああああああああああ! チェストーーーーーー!!」
一つの太刀を浴びた瞬間、スクナの全身から黒い血が吹き散りました、。
「これにて、終幕・・・・。」
全てが終わった事を確信したゼントは、十束剣をゆっくりと鞘に収めました。
ですがゼントを蝕んでいた猛毒は消えず、失った体力も戻りませんでした。彼のレベルだけが元に戻りました。
「なっ・・・なんという、圧倒的な武じゃ・・・あの超高位魔族を・・・こうもあっさりと仕留めるとは・・・・」
その一連の様子を見ていたピエタは息を飲み、生まれて初めて、共に冒険をする仲間に畏怖の念を抱きました。
ゼントの激烈なる波状攻撃を受けたスクナは変身前の姿に戻り、膝を折って地面に倒れこみましたが、血まみれの中、まだ微かに息をしていました。
ゼントはこれでもスクナが即死しないよう、最大限の手加減をしたのです。この技は十倍返し、百倍返し、万倍返し、十万倍返し、百万倍返し、千万倍返し、そして億万倍返し、百億万返し、そして修練次第では更にその上と、どんどん威力を破壊的に上げていくことが出来るのです。本来なら、十倍返し程度の
この男は魔族だが、悪党ではない。悪いのは、こいつを悪に染め、魔族の本性を目覚めさせてしまった村人共の方だ。そう考えていた、 意外と寛容なゼントは、彼の罪を特別に許し、なんと最後の選択をゆだねる。そういう腹積もりであったのです。最強の剣士とはいえ、彼はまだ18歳。冷徹になることを常日頃心がけながらも、未だ徹し切れずにいたのでした。
「・・・おい、今ならまだ間に合うぞ。それとも本当に、死にたいか? 答えろ、スクナ。もしお前が息子と生を望むなら、パパイヤンに連れて行って、匿ってやってもいいぞ? 責任者には俺が説得する。リョウマなら、事情をキチンと話せば、きっと受け入れてくれるはずだ。あいつはいい奴だからな」
ゼントは想像を絶する発言をしました。
「ゼントっお主っ何を言っておるのじゃっ?!」
「お前は黙ってろっピエタっ」
「まっ・・・待ってくれ・・・」
すでに事切れそうになっていたスクナが喋り始めました。
「なんだ?」
ゼントは少し弾んだ声で問いかけました。
「二つ・・・頼みがある・・・」
「言えっ」
「・・・俺の事は・・殺して・・くれ・・」
「・・・」
「それだけの大罪を、犯してしまった・・・。たとえ生き残ったとしても、この良心の呵責には、とても耐えられそうにない。だが息子を・・・ビコナまでを殺さないでくれ・・・あの子は・・・まだ・・幼いんだ・・・それにあの子には伝えねば・・・ならぬ事も・・ある・・・」
「・・・それは・・・ビコナの・・・態度、次第だ」
「たっ頼む・・・」
スクナは縋る様な声でゼントに右手を差し伸べました。
「・・・そうか、悪いな。人間を殺した魔族は、殺す。それが人間の、掟なんだ・・・」
「よく心得ているさ・・・さあ、、もう苦しい。一思いに、殺してくれ・・・」
スクナがそう言い終えると、ゼントは木刀でスクナの頭部を全力で砕こうとしました。しかし、左腕が小刻みに振るえ、中々振り下ろす、という行動に出る事ができませんでした。
「ビッ・・・コナ・・・!」
「神の
ゼントの激しい心の揺らぎを感じ取ったピエタが、神魔法を頭部に叩き込み、スクナに止めを刺しました。
「もうよい、もうよい・・・せめて、安らかに眠るのじゃ・・・」
「ピエタッ」
ゼントは後ろを振り向き、ピエタに視線を送ります。子供のピエタの大きな瞳は、潤んでいました。
「うう・・・あ・・・りがとう・・・小娘よ。これで・・・少しは安らかに逝ける。ビコ・・・ナ・・・愛して・・・いる・・・ぞ・・・頼むから・・・生き抜いて・・・く・・・れ・・・」
そしてスクナは愛しいわが子の名前と、彼が生き延びる未来を案じながら絶命しました。
「・・・・・・空しい・・・・」
賢者ピエタ・マリアッティは、悲痛な表情で呟きました。
「ピエタ・・・」
「ゼントよ、お主は充分やってくれたわい。この咎は、全てこのワシが引き受ける」
「・・・・」
天使のように愛くるしい顔をして微笑をしてみせたピエタは、その美しい瞳を微かに潤ませ、ゼントにそう伝えました。
その儚く輝く瞳を見たゼントは、とある決意をしました。
「・・・ピエタ、俺の毒を・・・、治療しろっ」
「うっうむ・・・」
ゼントの傍に寄ってきた小さなピエタが、彼に解毒魔法をかけます。
「今の剣技、しゅんあつごくめつけん、おーふぉるとぅーな、という技は、一体誰に教えて貰ったのじゃ? ひょっとして、例の流浪とかいう奴か?」
「いや、・・・今から約六年前、俺は、異世界のとある剣の強い国に行って、あらゆる流派の剣術を、免許皆伝までもらってきたんだ。そして今使った技は、俺が二番目に免許皆伝をもらった流派で、元のこの中央世界に戻ってきた三年前に、独自に研鑽を重ねて二番目に生み出した、自己流の技だ」
「なんとっお前が作ったお前だけの技なのか??」
「ああ、そういうことになるかな・・・」
「一体どこの国に行ったんじゃ?」
「名前はよく分からない。江戸とか、京都とか、沢山の国の集合体で、内戦状態だった。俺は薩摩、長州とかいう名前の国で二つの流派の剣術を免許皆伝まで収め、長州の命令に従い、維新志士とかいう連中側に加勢して、京都という国へ赴き、新撰組と名乗る連中を切りまくってた時期もあった。当時、まだ13歳だったかな・・・」
「お主、人を殺しまくってたのか・・・」
「ああ。昔の話だがな。だが一人だけ、その新撰組の中に、恐ろしく腕の立つ奴がいた。」
「名前は?」
「確か、斉藤一とか名乗ってた。とにかく、あの男だけは、恐ろしく強かった。流石の俺も防戦一方だった・・・殺されるかと思った。もう一人、斉藤と同時に攻めてきた沖田という剣士も凄く強くて、二対一の戦いは決着をつけられず、二人とも殺せなかった・・・沖田の突き技も凄かったが、とにかく斉藤一・・・あいつがその異世界の国で戦った剣士の中では、一番強かったな・・・まだ俺が子供だったからか、逃走を見逃してくれて、今がある・・・」
「そっそうか・・・・なんかお主、凄まじい過去を持っておるのう。よし、解毒は終わったぞい」
「悪いな」
「気にするでない」
そしてしばしの沈黙の後、ゼントは再び口を開きました。
「ピエタ・・・ひとつだけ、お願いがある」
「何じゃ?」
「俺が、今の技を使える事は、他の仲間にも、他言しないでくれ」
「何故じゃ?」
「この技は、相手が俺より先に僅かでも動かないと、発動してくれないんだ。もし技の発動条件を相手に知られて、相手がピクリとも動かなくなったら、俺が猛毒で、先に死ぬ事になってしまう。この剣そのものは、一撃必殺の短期決戦向きの神剣。長期戦には向かない剣なんだ。この剣と瞬圧極滅剣の秘密を知ってるのは、リョウマとパパイヤンにいるミヨシシンゾウという槍使いだけだ。本当は、お前にも見せたくなかったんだがな。俺は攻撃力が極端に高い代わりに、意外に打たれ弱く、体力もまだ多くない。せめて俺にもう少し体力があればいいんだが、中々上がり辛くて・・・正直今、自分でも悩んでいるところなんだ」
「なんという・・・恐ろしい剣、そして技じゃ・・・なるほどのう。事情は察したぞい」
「わかってくれたか?」
「うむ。今使った技の事は、ワシの心の内に留めておこう。その技は、極力使わんようにしておけ。本当に、いざというときの為の、切り札にするのじゃぞ」
「ああ・・・お前は口が固そうだからな。助かるぞ。俺はもっと修行して、必ずより強い、誰に見せてもいい技を生み出してみせるっ。この技の弱点も、克服できるような特殊能力を、いずれ必ず身につけるつもりだ」
「うむ。その凄まじい向上心、見事じゃ。・・・それにしても、大惨事になってしまったのう」
ピエタは室内に溢れる人間達の屍の山に哀悼の意を示しました。
「これは、やむ終えない結末だ。早くビコナの所に戻るぞっ正直不本意だがな・・・」
「・・・そうじゃのう。もうこんな戦いはうんざりじゃ。さて、ビコナになんと言えばよいものか・・」
こうして、ピエタとゼントは炭鉱を後にしたのでした。
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