第6話プロローグ:危険な謁見

シャマナ家に到着したグラウス一行は、早速邸宅内に入りました。すると領主であるモントーヤがグラウスをエントランスで暖かく出迎えました。


「ようこそお越しくださいました。私はここの領主をしております。モントーヤ・シャマナと申します」


「お初にお目にかかります。グラウス・アルテナと申します。お話しは執事殿からお伺いいたしました。してお嬢様は何処に?」


「ただ今呼んで参ります、しばしお待ちを」




 そう言い残し、モントーヤはアグニの部屋へと続く螺旋階段を上っていきました。


 暫くの時が過ぎた頃、豪華な飾りの付いたドレスを着込んだアグニ・シャマナが両指でスカートを持ち上げながら丁寧な所作で階段を降りてきました。立て巻きロールの長い髪に大きく輝く瞳をしたアグニは、誰が見ても文句のつけようが無い美少女でした。


 グラウスは一目見た瞬間から、彼女の体内に何者かが潜んでいることに感づきました。それも悪霊ではない、もっと別の何かだと。




しかしその何かの正体まではグラウスにもわかりませんでした。




 アグニはエントランスに降り立つと、やって来たエクソシストをまじまじと見据えました。




「ごきげんよう、グラウス様。私の名前はアグニ・シャマナ。父上にあなたに会ってほしいと言われました。本日はどのようなご用件でこちらにいらしたの?」


「単刀直入に申し上げます、お嬢様。あなたの体内には何者かが潜んでいます。このまま放置していれば、あなたを不幸が襲うでしょう。」


「まあ、突然何を仰るの? 失礼な方ね。無礼よ、お引取りになって」


 グラウスの言葉にアグニは怒りました。すると全身を取り囲むようにパチパチと電撃が飛び交ったのです。


「その電撃は、あなたの能力ですか。」


「そうよ、何か文句でもあって?」


「私は旅のエクソシストをしておりますが、あなたのような力を持った方には初めて出会いました。もう一度言います、アグニ様、あなたは何か高尚な物体に取り付かれています。ですがそれは人間には制御しきれぬもの、一刻も早く体内から取り出さないと貴方の身は破滅するでしょう。」


「破滅、私が?」


 それを聞いたアグニは恐れるどころか高笑いをして、真剣な眼差しのグラウスを愚弄しました。


「不愉快よ、お引取りになって」


「そういうわけには参りません。私と一緒に来てください。あなたを森の賢者に会わせます」


「お断りよ」


 そう言うと、アグニは宙を軽く舞い、右手に雷を纏わせると、グラウスに雷の矢を投げつけました。とっさに矢を交わしたグラウスはアグニに接近し、そして特殊な魔力を練りこんだ糸で作ったロープで彼女の体を拘束したのです。


「ちょっと、何するの。無礼者、離しなさい!」


「悪いがそういうわけには参りません。あなたには少しお仕置きが必要なようですね」


 グラウスの放ったロープはアグニを大いに苦しめました。彼女は悲鳴を上げ、必死に振りほどこうとしましたが、解こうとすればするほどきつく締まり、アグニを苦しめたのです。実の娘の苦しむ姿を見ていたモントーヤはうっすらと瞳に涙を浮かべました。


「モントーヤ殿。彼女には悪霊は取り付いていません。もっと別の高尚な何かです。正体はわかりませんが、それを知るには森の賢者に会わせる必要があります。私が彼女を眠りの森に連れて行きます。よろしいでしょうか?」


 グラウスの提案を、モントーヤは受け入れました。


「わかったわ。言うとおりにするから、このロープを外して」


 アグニの悲痛な叫びを受け入れ、グラウスは彼女に巻きついたロープを外しました。


 こうしてグラウスはアグニを連れて、モントーヤ地方の外れにある眠りの森へ向かうことになったのです。



※面白いと感じていただけたら、いいね、ブックマーク、星評価等をいただけると大変励みになります。よろしくお願い致します。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る