第4話『寝取られ男は勉強したい』
俺は割と子供の頃は頭の悪い部類だった。
正直、今の俺もそこまで頭のいい方ではない。
なので心機一転。
冒険者にならなくても稼げるように勉強して知識を蓄えようじゃないか。
基本この国……ブロッサミア王国で重視されるのは第一に魔導学(ソーサリー)、あとは算術、文術、歴史が基本的だ。専門技能として工学とか建築学もあるらしいが、基本的に全部の学問の基礎になるのはこの4大学問になる。
ちなみに東(オリエント)の方の国に行くと錬金術(アルケミー)が魔導学(ソーサリー)よりも主流らしい。
それで基本的に王侯貴族とかは上の4大学問を必須項目のごとく幼い頃から勉強する。だから公人は経験値を小さな頃から稼いでる王侯貴族が多いのだ。王侯貴族に次いで公人には富裕層も多いんだが、これも金の力で王侯貴族と同じ水準の教育を子どもに施してるからだ。
さて、なら俺みたいな一般庶民はどうするのか?
生まれたときから王侯貴族金持ち連中との間で格差がある。だが一般庶民が何もできないわけでもない。
ブロッサミア王国は比較的教育面では先進的な所もあるので本屋なんかに行くと割と学問関係の本が安く売られてある。活版印刷の発明があったおかげもあると聞くけど、ただそれに関しては安いと言っても一般家庭にとってはそれなりの買い物である。例えるなら一般家庭の子供だと誕生日にギリギリ貰えるくらいの価値と思ってもらっていい。
ちなみにこの村には私塾とかいうのはない。都会とか街に行けば市民向けの私塾はわりかしあるみたいだが、まず村にあったとしても今まで勉強に興味の無かった俺が両親にお願いしてもどっかで影響されたのかとしか思われない。
つまり俺にできることはただひとつ。
唯一の親友に頼ることだ。
「勉強したいって?ジョンが?あの勉強嫌いのジョンが?」
「い、いきなりごめん。でも将来の事考えたら不安になって」
翌日の昼。
俺の親友の定位置と化したクローバー村の広場の真ん中にある樹の下。
そこに割と太っちょだがメガネをかけて頭の良さを醸し出す俺の親友であり幼馴染、ボーグが驚愕した顔で俺を座りながら見上げていた。
「へ、へぇー。ジョンが将来のことを?頭でも打ったのかい」
「ち、違うって!俺はまともだよ!」
「ふぅん、まぁそういうことにしとくよ。それで勉強か」
そう言って、ボーグは自分の横に積み重ねた大量の本からいくつか本を抜き始めた。そういえばボーグって家が結構お金持ちなんだっけ。
「この本が4大学問基礎ね。これは文術基礎でこっちは算術基礎、それでこっちは……」
ま、まじか。
これ全部、貸してくれるのか?
「こ、これ全部貸してくれるの?」
「まぁ僕はもうほとんど復習くらいにしか使わないし、暇つぶしに読むくらいだから。飽きたら返してね」
ボーグ。
お前なんていいやつなんだ!!やはり心の友は君だったのか!
「そういえばボーグ。君って確かなにか魔導学を研究してるとか言ってなかったっけ……?」
「おっ、ジョンにしては珍しく覚えてるじゃないか。そうだよ、僕は魔導学火体系と水体系の双立体系である蒸気体系の活用について研究してるのさ。まぁ一般に主流なアデルド派じゃなくてミカリアス派だから資料を揃えるのに苦労してるんだ」
「ア、アデ?そ、そーりつ?」
「あーまぁ、要は新しめの魔導体系を研究してるってこと。蒸気体系は人気がない上に実用性に乏しいって言われてる部類なんだけど、それは今の蒸気体系で主流かつ研究が進んでるのはアデルド派だけでミカリアス派の蒸気体系はまったく研究されてないんだ」
まぁ正直なところ、ある程度理解は出来てる。ただ魔導知識のまったくない幼少期の俺が知ってるのもおかしいし、なんなら今の俺もそこまで知識がある方ではない――にわかな部類だから口出しをしなかった。
まず、このサンシア大陸では基本的に四大元素により大本の魔導体系という事柄が形成されている。
火、水、土、風。
そしてこれらの四大元素体系をそれぞれ単体、またはそれぞれ組み合わせることによって魔導式というのを作る。そしてその魔導式に必要な魔力を組み込むことで発動ができるのだ。
もちろん、魔導式っていうのはなにもルーン文字とかだけじゃなく詠唱や脳内で構築して無詠唱発動とかいうのもできる。ちなみにルーン文字で構成された魔導式で動かす機械のことは魔道具って呼ばれてる。
そして10代でべらぼうな天才児であるボーグが研究してるのは火と水を組み合わせた蒸気と呼ばれる魔導体系だ。人を温めたりアイロンしたりとかで使われる……言うなればしょぼい体系とも言える。霧を作ったりとかもできるみたいなんだが、もっぱら補助的なのが殆どで魔道具にもあんまり使われない。
冒険者時代に魔術師の知人がいたんだが、そいつ曰く蒸気体系は一定の出力出すととたんに不安定になるので主力は難しい。よくて目くらましとかにしか使えない……とか言っていた記憶がある。
だが俺自身も辟易するほどなんだが、魔導学ってのには学派とかいうのがある。
魔導の始祖とも呼ばれる大賢者アデルドから始まるアデルド派。これが一番古くて一番使われてる。主に魔導式の構成自体が一番どこの派のやつよりも分かりやすい上に出力も出しやすいというのが一番のポイント
二番目はアデルドと対をなす魔導大師ルミナから始まるルミナ派。一番出力が低いんだがともかく特徴としては魔術式を多数連結することができるので拡張性が非常に高い。数で出力を補うみたいな形でアデルド派より繊細な魔導式も扱える。
最後はアデルドの一番弟子で独立したミカリアスから始まるミカリアス派。もっともマイナーかつ人気がない。出力は一番高いらしいのだが、ともかく魔導式が複雑。その上拡張性に乏しい。狭い枠に魔導式を詰め込む必要があるのでルミナとアデルドの間を取ろうとして失敗した系統とか言われてる。
「そ、そっか。ボーグも大変なんだな」
「あぁ。僕も15になったら王都のブロッサミア王立学園に行ってこの研究を成し遂げたいと思ってるんだ。そのために鍛錬は欠かせないよ」
しかし、四年後に山賊の襲撃が起こる。
俺が率先してやらなきゃ、ボーグの夢を叶えることはできないんだ。
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