第5話『寝取られ男は蒸気に興味を持つ』
「そういえば、ボーグが蒸気体系を研究してる理由ってなんなの?」
「理由?理由か……ジョンは圧力を知ってるかい?」
圧力。
まぁなんとなくはわかる。水バケツに手を思い切り入れたら力を入れないと無理やり上に行かせられそうな感覚だろう。
「うん、知ってるよ」
「やるね。それで今、魔導体系で圧力を主に出すことができるのは風体系だけなんだ。ほら、飛行船とか魔導機関車とか聞いたことあるだろう?」
あーなんとなくはあるな。
凄く押し固めた風を金属筒に詰め込んでそれを使って推進力を得てるってやつ。
「でも、正直僕が思う限りではあれらはコストが高いんだ。圧縮空気を作るにしても高価な魔石が必要だし、だいいち燃費が悪い」
「蒸気体系だとその代替になれるってこと?」
「そう!蒸気は要するに熱湯から出てくる湯気なんだ。結果的な基礎的な構成は圧縮空気の魔導式よりはるかに単純で安価になるし、ほぼ天井知らずに出力を出せるんだ。要は火力を増やして水の量も増やせばいい……大きくすればするほど、出力も圧力もでかくなるんだ!」
そりゃ革命的だ。
魔導機関車なんてものは貴族やら富裕層にしか使われてないのでめったに見る機会はない。圧縮空気自体が高価だからあんまり使われてないんだろう。
だが、もしボーグの言うやつが実用化されたら。
世界中を蒸気を動力にした機関車や飛行船が飛び交うことになる。そうなればボーグは完全に歴史に名を残す偉人になる。偉人どころじゃない、時代そのものを変えてしまう。今まで馬車で運んでたものを機関車や飛行船で運ぶようになるんだ……便利ってもんじゃないぞ。
「ボーグ。その蒸気体系のやつって他にも使いみちはあるの?」
「もちろん!今は手作業でやってる服作りも蒸気体系を使えば半自動(セミオート)でできる!大きなポンプでいちいちしてる排水も小麦の籾取りだって全部蒸気体系による魔道具……"蒸気機関"さえあればなんでもできるのさ!」
蒸気、機関。なおさら便利になる、世界が変わりかねない代物だ。
だが、疑問に思う。ボーグを疑うわけではないんだが、なぜ蒸気体系を研究する人間がいなかったんだろうか?普通思いつきそうなもんだが。
「ボーグ、疑問に思ったんだけど他に研究してる人はいないのかい?そんなに便利なら、普通は国家を挙げて研究しそうなものだけど」
「僕もそう思ってたさ、研究しはじめのころはね。でもこの国の連中は全員、やれ魔導関係はいかにデカい威力の火の弾を出せるかとか次元の低いことばかり研究してるのさ。もちろん僕だけではないと思うけど、それでもごく少数派だろう。実現したら確実に世界を変えるのにね」
そう言ってボーグは明らかに不機嫌な顔になる。
なるほどな、時代が追いついてないのか。
「それよりジョン。もしかして君も蒸気体系に興味が出てきたのかい?」
「あーいや、それは……まぁ興味がないといえば嘘になる」
「そうかいそうかい!そりゃいい!それならもし君に考えがあったら僕にいつでも提案してくれよ!同志が増えるのは良いことだ」
バシバシとボーグが立ち上がって俺の背中を叩く。
しかし蒸気機関、か。もし一枚噛んでたら、一生働かなくてもいいお金が手に入るのかなぁ。
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