第五場(第四場②)
E・F・G・Hが部室から去ると、残ったカオルが置いていった古い台本を手にして、めくって台本に目を通す。
カオル「だいたい、勇者パーティーの戦士長が、どうして魔王の城塞に攻め込んだ日に、敵の騎士団長を好きになった時の気持ちなんて、わかるはずないじゃん」
ルイ「敵同士が、いきなり両方で好きになるなんて、一目惚れでも不自然だ……呪いでもかけられない限り」
不思議な沈黙の間があく。
カオル「演劇部の部長は、ずぅーと家に引きこもって部室にも来ないし」
ルイ「荒田部長なら、この前、校内で見たよ。中庭でしゃがみこんで、アリの行進をニヤニヤしながら見ながら、アリと会話していた」
カオル「うげぇ……もう完全に危ない人じゃない……あれ?この昨年の台本の『大魔王アラマンダ』の配役のところ、荒田部長の名前になっている……縦線で消されているけれど」
カオル、昨年の台本を床に放り投げる。
荒田部長の声が舞台に響く。
天の声〔荒田の生セリフ〕「演劇部の台本を粗末に扱うな!」
天井を見回すカオルとルイ。
カオル、放り投げた台本を急いで拾う。
ルイ「なに今の声?」
カオル「学校の怪談?荒田部長の声に似ていたけれど、とりあえず九字の護身法『臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前』 えいっ……悪霊退散!」
セットの裏から荒田部長の「ぐえぇぇ!おのれぇ!」の声。
カオルとルイ、セットの裏から聞こえた声を無視する。
カオル「とにかく、台本の最後のページが間に合わなくて。読み合わせでも、ラストがわからなかった芝居のキャラクターに、感情移入して同化演技しろって方がムリ」
雷鳴と稲妻。
舞台の照明が薄暗くなり、大魔王アラマンダ登場の兆し──舞台の前だけ照明。
舞台の左右のそでから、見習白い魔導士姿の
A・B・C・Dが現れ横に一列に並んで同時にセリフ。
見習い白魔導士A・B・C・D「大魔王アラマンダが、今ここに降臨する」
A・B・C・Dが去っていく。
天の声〔大魔王アラマンダ〕「(録音)確かめなければ……愛の呪詛を、愛の呪いをかけた者が他にもいるのかも……我が名は」
SE・『大魔王降臨をイメージする音楽』音響係の選曲センス(個人的には『残酷な天使のテーゼ』みたいなのを希望)
壁が聖書の紅海のように二つに割れ。
逆光の中、奇妙な格好をした荒田〔大魔王アラマンダ〕が現れる。
荒田〔アラマンダ〕「大魔王『アラマンダ』ここに降臨!我を崇めよ!」
壁が閉じて、舞台明るくなる。
キョトンとした表情のカオルとルイ、恐る恐る荒田に質問を試みるカオル。
カオル「あのぅ、荒田部長ですよね?」
アラマンダ「ちがう、我が名は大魔王アラマンダ!我を崇めよ!」
ルイ「完全にイッちゃっているよ」
アラマンダ「魔王軍騎士団長ルイ、おまえはなぜ敵である勇者パーティー戦士長のカオルを愛したのかわかるか?」
ルイ「突然、そんなコトを聞かれても」
アラマンダ「そうか……簡単に答えが出ていたら苦しむコトはない、戦士長おまえはどうだ。なぜ魔物の騎士団長ルイを愛した」
カオル「わかりません……いったい、コレなんなんですか?あっ、わかった芝居ですよね。部長は大魔王アラマンダに成りきって芝居をしているんですよね」
アラマンダ「芝居か……人生は、さまざまな仮面を被って、なんらかの役に演じている……そう考えたら、これも芝居なのかも知れない……答えが出ない愛の罪人〔つみびと〕の芝居」
アラマンダが中央に立つ。
カオルとルイ、それぞれ舞台の左右に移動して客席の方を向いて立つ。
カオルとルイを照らす赤〔カオル側〕と青〔ルイ側〕のライト。
舞台のそでから、その他数名1・2・3・4が現れて、カオルとルイの後方に並ぶ。
カオル側の後方には、人間の町人や村人〔もしくは人間の子供〕に扮した1と2が。
ルイ側には、魔物の村人〔もしくは魔物の子供〕に扮した3と4が並ぶ。
人間1「カオルさま、自分の家族は魔物に殺され、仲間も殺されました!憎い!魔物が憎い!魔物に正義の鉄槌を!」
人間2「戦士長さま、自分は友人と婚約者の町が魔物の軍に、焼かれて廃墟となりました……すべての魔物に死を」
戦士長カオル「わかった、わたしに考えがある……魔王軍で一番強い騎士団長を、わたしに惚れさせて、魔王軍を裏切るように仕向ける……ある強力な魔導士の力を借りて」
魔物の村人〔もしくは魔物の子供〕3「平和に森で暮らしていた、自分の家族が勇者たちに理由もなく殺されました……情け容赦がない非道な勇者のパーティーに報復を」
魔物の村人〔もしくは魔物の子供〕4「ルイさま、勇者のパーティーは正義を名乗り、魔物の住む迷宮を崩壊させて数多くの魔物を生き埋めにして、略奪の限りを尽くしています……勇者たちに、呪われた死を」
騎士団長ルイ「魔物の無念、必ず晴らす。我に秘策あり……大魔王さまにお願いして、勇者パーティーで一番強いと噂の戦士長を、愛の虜にして思い通りに操り内部から勇者たちを崩壊させよう」
前方を向いたカオルとルイ、力強い口調で。
カオル「魔王軍を……」
ルイ「勇者のパーティーを……」
カオル・ルイ「愛の呪いで倒す!」
アラマンダだけを残して、他の者は舞台から去る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます