第四場

 第三場の暗転から白い布が取り除かれた、演劇部部室──演劇部生徒 E・F・G・Hとカオルとルイたちが、台本を手に半立ち稽古をしているのを椅子に座った狩間が、台本と照らし合わせて見ている。


魔王兵士役生徒E

「勇者のパーティーが城に侵入してきた!」

魔王兵士役生徒F

「強すぎる!皆殺しにされる!」

魔王兵士役生徒E

「騎士団長!ルイ騎士団長!」

魔王兵士役生徒F

「どこですか?」


魔王軍騎士団長役のルイ

「こ・こ・に・いる……勇者パーティーをくい・止めてもち、もちこたえろ」(緊張で、ほぼ棒読みセリフのルイ)


戦士長役のカオル

「どどどどこだぁあぁぁ!大魔玉〔たま〕アラマンダァァ!ででででこいぃ」(焦りすぎて、セリフ噛み噛みのカオル)


魔王兵士役生徒E

「勇者パーティーの戦士長が、騎士団長のいる方向に!」

魔王兵士役生徒F

「魔物が次々と、殺されている!」

魔王兵士役生徒E

「騎士団長!騎士団長!」

魔王兵士役生徒F

「勇者パーティーが、すぐそこまで!あぁぁ」


ルイ「だい・じょう・ぶ……だいじょう・ぶ」

カオル「あれれれれは、魔王軍の騎士団ちょうぅぅ……覚悟おうぅ」

 演劇部全員がセンターに集まり、押し合い圧し合いの大騒動となる。


 見かねた狩間が立ち上がって、団子状態の生徒たちを引き離す。

狩間「落ち着け!半立ち稽古だぞ、どこかの少女ユニットグループじゃあるまいし、センター奪い合ってどうする──十分間休憩」

 休憩する部員たち、台本をチェックしながら頭を掻く狩間。

狩間「ルイ、もちもちって正月じゃないんだから……カオルは焦って噛みすぎ、大魔玉ってタマゴじゃない……あれ、あれれ?」

 台本に目を通していた狩間、なにかに気づいた様子で台本を閉じる。


 演劇部生徒の一人が、台本のプリントミスに気づき。

 狩間は、誤魔化すように近くに置いてあった、小道具のパペット人形を腕にはめてパクパク、口を動かして遊ぶ(口が開かないパペットでも何)


 カオルとルイ以外の部員にミスプリント箇所を、声を出さずに〔無言芝居〕指で示して伝える。

 挙手をする生徒G。

生徒G「狩間先生…大魔玉、間違いじゃありません……アラマンダのところだけ全部『大魔玉』になっています」

 開き直る狩間。

狩間「悪かった、こちらのミスだ……大魔王を大魔玉と変換ミスしていた、(あけらかんとした口調で)悪かったなぁ」


生徒G「大魔玉アラマンダ……役名に対して失礼なミスですね」

狩間「そもそも、大魔王アラマンダは今回の芝居には……いや、なんでもない。ちょっと、用事を思い出した」

 バツが悪そうに部室を出ていこうと、扉を開ける狩間。

狩間「今日はもう稽古あがって帰っていいぞ」

 部室から出た狩摩、入り口からパペット人形だけを覗かせて口をパクパクさせながら、カオルとルイに人形で代弁する。


狩間「カオルとルイは、少し残って……魔王軍の騎士団長と勇者パーティーの戦士長が、どんな気持ちで愛し合わなければならなかったのか……よく考えて反省、二人の演技にはパトスの魂がこもっていない♪残酷な天使のテーゼ♪〔残酷な天使のテーゼ♪はムリに付け加えなくても可〕」

 狩間、去る。

 生徒E・F・G・H、ぶつぶつ言いながら帰り支度をはじめる。

〔ついでに明転で、この先の芝居で使われない、テーブルとか椅子の小道具を邪魔にならない位置に片付け〕


生徒G「身勝手な演劇部の顧問」

生徒E「こんな調子で本番大丈夫か?」

 生徒F、部室で隠すように隙間に押し込まれていた古い台本を発見する。

 見つけた古い台本をペラペラめくって読んでいたF、あるコトに気づきEに古い台本を見せる。

 E、GとHも呼んでみんなで古い台本を見る。


生徒G「あっ、本当だ昨年の台本には、大魔王アラマンダの演技がしっかり書いてある」

生徒E「でも今年の台本にはないよ、どうしてかな?演出の関係で削除しても支障なく、それなりにストーリーは進むけれど」

生徒G「単純に部員が足りなかったから削除したとか?」

 その時、狩間の怒鳴り声だけが聞こえてきた。


狩間(声だけ)「早く帰れ、帰らないと明日の稽古で『外郎売り(ういろううり)』やらせるぞ!」

 慌てて部室から飛び出る、生徒E・F・G・H。

E・F・G・H 「あめんぼ赤いな、あいうえお。柿の木、栗の木、かきくけこ」

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