35.ある意味ハーレムエンドよね。

「ねえ、四月一日わたぬきくん。ヒロインが一人しかいないと、必然的に成人向けの二次創作も一人がひどい目にあい続けるだけになると思わない?」


「…………何の話ですか?」


 全く分からなかった。


 いや、言葉の意味は分かる。


 ただ、それをこのタイミングで持ち出した意味が分からない。また何か二次創作関連で気になる話題でもあったのだろうか。


 件の作品を持ち出すのは色々と面倒だからあれっきりにしてほしかったのだが、


 ただ、今回はそれとは違う話の様で、


「ほら、よくあるじゃない。ヒロインが少ない作品。そういう作品って、基本的に二次創作のエロ同人とかの主役がその子になっちゃうのよ。だから、純愛ものから凌辱ものまで全部その子が受け持つことになっちゃうわけ。はぁ……心配だわ……私も性欲のはけ口にされちゃうのかしら」


 手のひらを頬に当て、やや首を傾げて、目線を窓の外に向けて憂いのポーズ。この光景を音声無しで見れば、美人女性の憂鬱みたいな光景に見えなくもないが、実際に吐いた台詞は上記のとおりである。と、いうか、


「……なんで二次創作を作られる前提何ですか」


 これに対して渡会わたらいは純粋に驚いたような表情を見せ、


「え?作られないわけないじゃないの?ビジュアルだけは完璧なのよ。エロは大して発言しなくていいし、大活躍になるわよ、むしろ」


「ビジュアルだけは完璧って自覚はあるんですね……」


 渡会は口を尖らせ、


「失礼ね。その自覚が無かったらただの社会不適合者じゃない、私」


 割とそうだと思ってましたけど?


 渡会はひとつため息をついて、


「まあ、どっちでもいいわ。とにかく、私の総受けってのもどうかと思うのよね」


 四月一日はふと思い出し、


「そういえばほら、もう一人いるじゃないですか。なんでしたっけ?渡会さんのともだ」


「それ以上口にしたらケツの穴に手ぇ突っ込んで奥歯がたがた言わせるわよ」


「……すみませんでした」


 怖い。


 本気で怖い。


 どうやら自分が受けに回ることよりも、友人を性的対象にされる方が嫌なようだ。あぶない。六角ろっかく絡みの話題は地雷なのかもしれない。


 渡会はぽんと手を叩いて、


「そうだ。ケツの穴で思い出したわ」


「……なにで思い出してるんですか」


「仕方ないじゃないの。内容が内容なんだから。あのね、四月一日くん。とあるラブコメではね、なぜか主人公に凄く人気があるのよ」


「…………はい?」


「だから、主人公。つまりはあなたよ、四月一日くん。そう、主人公総受け。これよ、これだわ。これなら私が被害にあうこともないわね。あーよかった」


「いや、あの……なにをおっしゃってるんですか?」


 渡会はすがすがしいほどいつも通りの口調で、


「決まってるじゃない。貴方の(以下自主規制)すのよ」


「駄目に決まってるでしょ、頭おかしいんですか!?」


 しかし渡会は全く調子を変えずに、


「おかしくはないわよ、その証拠に……」


 自らのスマートフォンを取り出して、二、三操作をすると、四月一日に画面を見せ、


「ほら、見なさい四月一日くん。これが未来のあなたよ」


 見たくなかった。


 四月一日はすぐに視線をそらした。


 ただ、その一瞬のうちに、脳裏に焼き付いてしまった映像がある。あれは明らかにホ──


「いやぁねぇ、四月一日くん。男と女なんだから、純愛に決まってるじゃないの」


 言い切ったよ。


 清々しい笑顔で言い切ったよこの人。


 怖い。


 怖すぎる。


「…………二次創作に文句をつける理由が、ちょっと分かった気がする」


 渡会はさらりと、


「あら残念。まあ、その権限はあなたにはないんだけれどね?」


 事実は時としてなによりも残酷だということを嫌と言うほど思い知った。


 まあもし仮に二次創作が作られるとしても、その大半は、渡会のものだろう。うん、きっとそうだ。そうに違いない。四月一日はそう、思い込むことにした。


 ……世の中には恐ろしい世界があるもんだ、いや、ほんとに。

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