9.この作品のタイトルが「高校デビューを決めようと思ったら、いきなり隣人がとんでもない毒舌女だった件~どうせこんなところ誰も読んでないから意味ない説~」とかだったら嫌でしょう?

「ねえ、四月一日わたぬきくん。ちょっと疑問があるのだけど、いいかしら」


「良くないです」


「あのね……ちょっと。それじゃ話が進まないじゃないの」


 嫌である。


 渡会わたらいの「ちょっと、疑問がある」は基本的にちょっとではないし、疑問ですらないことがほとんどである。


 そして、それはつまり、渡会の中では既に結論が出ているような、トンデモ暴言を、四月一日にぶつけて楽しむための方言に過ぎないのだ。


 手土産を渡す時に「つまらないものですが……」とかしこまる人間が、本当につまらないと思っていることなどないのと同じようなものだ。


 日本人は謙虚さが美徳というが、彼女のそれは、謙虚さというよりは周到な罠に過ぎない。従って答えは「NO」だ。


「それよりも、渡会さん。英語の宿題、」


「なんで最近の流行りものはクソ長いだけで、なんの情緒もないタイトルな上に、内容はそれ以下のものばっかなのかしら。分かる?」


「俺、良くないですって言いましたよね?聞こえてました?いい耳鼻科紹介しましょうか?」


「結構よ。大丈夫よ、心配してもらわなくても。あなたの言葉は一字一句たがわず聞いているし、私がどんな爆弾発言をするのかが怖くて、無理やりありもしない英語の宿題をでっちあげようとしたことも分かっているわ。だからあえて無視したの」


 割と最低だなこの人、知ってたけど。


 そして、なんの脈絡もなく炎上しそうなフレーズぶち込むのやめて、ほんと。最近胃が痛くてしかたないから。


「……それで、一応聞きますけど、なんでそんな話を俺に振ったんですか?」


「面白そうだから?」


 どうしよう。凄く窓から投げ捨てたい。


 四月一日はそんな投擲願望を鎮火させ、


「長いタイトルってのは内容が伝わりやすいんじゃないですか?人間、やっぱり自分の好みのものを読みたいじゃないですか。だから、その方が、」


「でも、大体タイトルの時点で「あ、駄目だわこれ」ってなるのよね~」


 頬に額を当てて、はぁとため息をつく。まるで子供のやんちゃを憂う母親みた、


「弟のやんちゃを憂う姉にしなさい。今すぐ」


 訂正。弟のやんちゃを憂う姉のようだ。


「……あの。モノローグを脅迫して変えないでもらえます?」


「じゃあ、変えなければいいじゃないの」


 いや、無理だろう。


 彼女のことだ。絶対に変えるまで圧力をかけてくる。


 渡会は話を戻すように、


「とにかく。あの手のものって大体見ても意味がないのよ。なんであんなもんがぼんぼこでてるのかしらねえ。アホなのかしら?上から下まで。○ッポみたいね。その点トッ○ってすごいよな。最後までチョコたっぷりだもん」


 たっぷりだもん、ではない。


 それを言うならあんたの発言は最後まで毒たっぷりだもん、である。


 四月一日が、


「そもそもなんでいきなりそんなことを言い出したんですか?あの手の長いタイトルって今に始まったことではないじゃないですか?」


「一応、読んでみたのよ。ほら、言うじゃない。ろくにテレビすらも見ないで批判してんじゃねーよって。だから一応読んだのよ。そのうえで言うけど、やっぱりクソだわ。あら、コピペ通りね」


 コピペ通りね、ではない。


 四月一日は確認するように、


「ちなみにですけど、どれくらい読んだんですか?」


「ん?」


「ほら、冊数とか、巻数とか」


「四月一日くん。そんなこと話している場合ではないわよ?英語の宿題はやったのかしら」


 逃げた。


 英語の宿題などさっき四月一日が捏造したものだ。実際には宿題などないし、さらに言えば本日は英語の授業などない。


「これで一勝一敗ね。次で勝てばマッチはいただきね」


 なんの勝負だ。なんの。

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