7.なぜか妹とは血が繋がっていないものなのよ。

 ある日のことだった。


「おはよう…………元気?」


 渡会わたらいさんが壊れてしまった。


 いや、違う。壊れてしまったというのは元々問題なく作動していたものが、何らかの原因でおかしくなってしまった時に使うべきフレーズだ。最初からおかしな言動しかしない人間に使うフレーズではない。


「おかしく…………ない」


 いや、おかしいだろう。


 そして、モノローグを勝手に読むんじゃない。


 おかしいおかしくないという議論を横に置いたとしても、今日の渡会はいつもと大分雰囲気が違う。


 まず、髪型だ。いつもは「なんとなく」で伸ばしていて、「なんとなく」で縛ってもいないという黒髪だが、綺麗に二つに結われていた。俗にいうなら“ツインテール”というやつだろうか。


 しかもそれらを纏めるリボンがまあ大きい。一体それ、どこで売ってるの?と聞きたくなるくらいの大きさをした赤いリボン。アニメや漫画の世界ならともかく、現実でそれをつけていると「コスプレですか?」と問いたくなる。


 事実、周りからの視線が普段の二割増し買取強化中な感じだ。まあ、元々注目の的ではあると思うんだけど。なによりもまず綺麗だし。それでいて変人なのもまあ、みんな知ってるし。


「変人…………違う…………普通…………」


「どうでもいいけどその話し方すっごいまどろっこしいんでやめません?」


 そんな四月一日の提案を受け、渡会はあっさりとそのツインテールを崩しながら、


「なんだ面白くない。君はツインテールのクーデレ妹には萌えない質か?」


「ツインテ……なんですって?」


「ツインテールのクーデレ妹よ。ほら、たまにエロゲなんかだといるでしょう。ツインテールで、良い感じに体型も、見た目も幼くて、それでいてなぜか主人公と血がつながっていなかったり、従妹の関係性だから法律上は結婚出来ちゃったりするキャラが。そういうのには萌えないタイプなのかしら?」


 意味が分からなかった。


「萌えないっていうか……そもそもそれって、見た目が幼いから意味があるんですよね?精神年齢が幼いだけだとちょっと難しいんじゃないですか?」


「あなた、時々口が悪いわよ」


 君には言われたくないけどね?


「それ以前になんで妹キャラの真似事なんかしたんですか?」


 渡会は「都合の悪いときは無視するのね……」とつぶやいたのち、


「それなら簡単だ。マンネリ対策よ」


「マンネリ?」


「今どきの読者はすぐに飽きてしまうからな。こんな机二つ並んでいるところで会話しているだけの話なんて、飽きが早いでしょう。だから、ちょいとキャラ変をしてみようかと思ったわけよ」


 四月一日はため息ひとつに、


「そんな味変みたいに言わないでくださいよ……読者がどうかは知りませんけど、渡会さんは今が一番いいんじゃないですか。そりゃ、もうちょっと言葉には気を使って欲しいですけど、キャラ変は必要ないと思いますよ?少なくとも、妹キャラになる必要はないと思います」


 渡会は目をぱちぱちとして、


「そう?まあそこまで言うのならやめておいてあげましょう。なるほどなるほど。つまり四月一日は暴言を吐かれるのが好きという訳ね。ドMめ」


 くっくっくっと笑う。


「聞いてました?人の話」


 なぜ最も訂正してほしい部分を好きなことになってしまうのか。そこはむしろ積極的に直してほしいところなのだが。

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