phrase.1
1.流行りものに名作なんてないのよ、四月一日くん。
「
どうやら一応自分の発言内容がよろしくないことくらいは分かっているらしい。よかった。それも分かってなかったらパパどうしようかと思ったよ。
「あんたにパパは無理があるでしょ」
「……もう突っ込まないことにします。それで?流行ったあれって何ですか?」
渡会はタイトルを忘れたようで人差し指をくるくるしながら、
「ほら、あれよ。君のことを探しになんたらってやつ。一時期コンビニでもスーパーでもあればっか流れててスピーカーぶっ壊してやろうかと思った、あれ」
「それは知りませんけど……もしかして、あれですか。入れ替わりの」
渡会はぽんと手を叩き、
「そう、それ。どうなの?見に行った質?」
それなら話は早い。
四月一日は自信たっぷりに、
「見に行きましたよ。いやぁ、面白いですよね、あれ。俺、思わず五回くらい言っちゃいましたよ」
そんな自慢が一区切り終わるか終わらないかのタイミングで、渡会は聞こえるようにし舌打ちをし、
「ゴミ虫が」
「ゴミ虫!?」
それはそれは大きな大きなため息をし、
「はぁ~…………あ、そう。お前はそっちの人間だったのね。分かったわ。今までありがとう。短い付き合いだったけど、楽しかったわ」
そう言いつつ、ずずずと自分の机を後ろへと下げていく。
ちなみに席順は渡会が窓際一番後ろで、四月一日がその前だ。どこぞのラノベもびっくりの並びかた。
これでヒロインがもう少しヒロインしていてくれるとなおよかったのだが。残念ながら容姿に全てのリソースを持っていかれたらしく、中身はとてもとてもヒロインとは言え、
「やんのか?あぁ?」
近い。
いつのまにか渡会がずずいっと近くによって、四月一日にしか見えないように脅しをかけていた。
「やりませんよ全く……っていうか、ゴミ虫ってなんですか、ゴミ虫って」
渡会はふんと鼻から息を吐き、
「そのままの意味よゴミ虫ゴミ郎くん。いい?ああいったでっかい流行りものに、名作はないの。そんなものを五回も見に言っちゃうなんて、ゴ三虫じゃなかったらなんなのよ」
酷い言われようである。後お願いだから1話目から炎上するような台詞はやめてもらえる?
「いい?生ごみくん。名物に美味いものなしっていう言葉があるでしょ?それはね、創作物にも適用されるの。あれだけの大ヒットになるものっていうのはね、難しい要素をカットしてるの。だから、そういった部分を理解できない人でも楽しめるし、だから大ブームになるの。それを何度も見に行った、だなんて。仮にも私の前に座ってる人がそんなこと言わないで頂戴」
発言には気を付けてっていってるじゃないですかー。
まあいい。
それなら四月一日にも考えがある。
「だったら、実際に見に行きません?」
渡会は「何言ってんだよこいつ頭おかしいのか?」みたいな目で、
「は?頭大丈夫?」
ほんとに口に出すんじゃないよ。
「大丈夫です。別になにも件の映画を見ようって言ってるわけじゃありません。そもそも、もう劇場ではやってないでしょうしね」
「じゃあどうするのよ」
「最近流行りの作品が映画でやってるじゃないですか」
渡会は思い出したように、
「無限ローン編」
「そんな地獄みたいなサブタイトルで誰が見るんですか」
「あら、違ったかしら」
おほほと笑う渡会。これは分かっててやってるな。
四月一日は一つ咳払いをし、
「まあでも思い浮かべてるのでオッケーです。それを見に行きません?ほんとに大したことないのかってことを確かめるために」
「見にって……生クリームくんと?」
「俺は四月一日ですが……そういうことです。もちろんお題は俺が出します。どうですか?」
渡会は暫く考え込んだのち、ふっと四月一日に近づき、
「それって、デートってこと?」
「なっ」
耳打ちして、さっと離れ、
「ませてるわねぇ~最近の高校生は」
「あんたも最近の高校生でしょ、全く……それで、どうするんですか?行くんですかいかないんですか?もし行かないんだったら」
「行くわ」
「あなたのことを……え、行くんですか?」
渡会は不満げに、
「誘ったのはあなたでしょう」
「いや、そうですけど……てっきり断られると思ってたんで。それこそ「映画館ではしゃぐなんて子供だ」とか言って」
渡会はなおも不満げに、
「失礼ね。それじゃまるで私がなんにでもいちゃもんをつけるクソ女みたいじゃない」
普段は割とそうだけどね?
渡会は人差し指を唇にそっと添えて、
「映画館は好きよ、私は」
いちいち絵になるんだよなこの人。
「ほんと話す内容さえまともならよかったんだけどなぁ……」
「出てるわよ。モノローグ」
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