渡会さんは毒を吐きたい
蒼風
prologue
0.どうして自分は「読める」と思うんでしょうね?
「ねえ、
背後から聞こえてくる綺麗な声。高過ぎず、低すぎず。良く伸びて、透き通った女性の声。
声優もびっくりのこの声質はほぼほぼ四月一日に話しかけることにしか使われていない。
もったいない。もっと大きな声で話せばいいのに。きっとクラス中の声フェチが二度見するに違いない。この声でASMRでも作ろうもんなら、バカ売れ間違いなしだ。
「……なんか邪な雰囲気を感じたのだけど」
「モノローグを読み取ろうとするのやめません?」
「いいじゃないの。それくらいの能力はあってしかるべきだわ」
そう言いつつ得意げな顔をする。それがまあ、いやみにならないどころか絵になってしまうから困りものだ。
それこそ彼女に「お前は私の犬なのよ、分かった?分かったら三回回ってアンとお鳴き?」などと言われようものならそれなりの数の男性がその場で全力で回転しそうな気すらする。
それくらいの説得力と「正義っぽさ」を彼女はまとっている。端的に言えば超絶美人。
その容姿は分かりやすく言えばツンデレヒロインにありがちな黒髪ロング(ちなみにこのことを指摘したら暫く髪を縛って、いわゆるポニーテールにして登校していた。それはそれで似合っていたから卑怯だ)。目はつり目気味だが、不思議とそこまで接しにくい印象を受けない。
それこそ適当にセッティングをしたうえで、それっぽい文学書を読ませるふりをさせて、写真を撮ってやれば、学生の写真コンテストくらいなら題材の力で通ってしまうのではないか。タイトルは「文学少女」。
まあ、もし四月一日がそんなものを見たら、吹きだす自身があるが。彼女には文学少女らしい奥ゆかしさもなければ、清純さもない。共通点は人類であることと、性別が女性であること。それからそれっぽい黒髪ロングなところくらいだろうか。
「……なんかむかつくから取り合えず回し蹴り入れていい?」
「だから言外の意図を読み取ろうとしないでくださいって」
時々いろんなものを超越してくる人だ。
「そんなことより、何か話があったんじゃないんですか?」
渡会は「そうそう」と話を戻し、
「なんで世の読者様ってのは、ちょっと自分の意に反するものが出てきたら切り捨てるのかしらね?」
「それプロローグで言うことですかね……?」
「当たり前じゃない。ここで言っておかないと、あいつらいつブラウザバックするか、分からないわよ」
分からないわよ、言われても困る。
四月一日は思い浮かぶ限りで、
「やっぱりほら、面白くなかったとかじゃないんですか?」
渡会は鼻で「はっ」と笑い飛ばして、
「あいつらにそんなことを読み取れる頭があるとでも?」
「怒られますよ、いろんなところから」
それでも渡会は続ける。
「いい、四月一日くん。覚えておきなさい。そもそもね、話の良し悪しなんて、たかだか数ページで分かるものじゃないのよ。それをちょっと読んだだけで否定してるのは、自分が「これだ」って思ったもの以外一切認めないただの食わず嫌い。どんな食べ物だって最初は味が分からないもの。男は度胸。なんでも試してみるもんよ」
「最後なんか違くありませんでしたか?」
「うるさいわね、掘るわよ」
「なんでですか全く……」
漸く満足したのか渡会は、机の下から文庫本を取り出して、読み始める。こうやって無言で本を読んでいる分には超絶美少女なのだが。
会話の部分をミュートにすればいいような気もするが、そうなるとあの澄み渡った声を聞くことは出来ない。なんとも難しい話だ。あちらを立てればこちらが立たず。
いっそのことカラオケにでも連れて行って、全額奢って、気がすむまで歌ってもらったほうがいいのかもしれない。
もちろん、フリートークとしゃれこまないように次々と歌って欲しい曲を入れておくのだ。飲み物もじゃんじゃん補充する。
観客一人のオンステージ。代金が二人分のカラオケ代ではむしろもったいないかもしれない。
突如、
「あれ?もう読まないんですか?」
渡会が文庫本を閉じる。時間にして一分も経っていないはずだ。渡会は舌打ちをしたうえで、
「読むわけないでしょ、こんな詰まんないの。借りるんじゃなかったわ」
「さっきの言葉はどこいったんですか……」
渡会は文庫本を鞄に乱雑に突っ込みながら、全く悪びれもせずに、
「あれはその程度の頭のやつの話よ。私はいいの」
なんて暴君。
見た目は美少女。中身は暴君。
それが
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