第9話 回想 大事な物語

その本の内容は至ってありふれた、よくある冒険章だった。


よくあるように、何も罪のない国王の美しい姫が、悪い魔王に攫われ、その姫に恋心を抱いていた善良な青年が、みんなから助けてもらいながら最後に魔王を倒す。

そして姫と結ばれハッピーエンド。


そんなありふれた普通の物語である。

しかし、普通の人ならよくあるで済んだ物であっても、優傘にとっては大事な大事な家族と紡いだ物語であった。


何度途中の冒険のシーンで、緊張し唾を飲んだだろう。

何度最後のハッピーエンドでよかったねと両親と話し合っただろう。


そんな当時の憧憬を思い出した優傘は、読み終わった時自分でも知らぬ間に泣いてしまっていた。


「いや〜普通に本って面白いんだね!こういうの初めてよん‥‥えっ!何で泣いてるの?ど、どうしたの?大丈夫?どこか痛むの?」


涙を流す優傘をみて、驚きそれと同時に心配する朧の声を聞き初めて、優傘は初めて自分が涙を流してるのに気づいた。


一回自分で気づいてしまえばもう止まらなかった。

我慢していた涙が溢れ出して来てしまい、優傘はボロボロと大粒の涙をこぼし始めた。


「えっ、ど、どうしよう?そうだ!」


そんな泣き始める優傘を見て混乱した朧は、優傘をぎゅっと抱きしめた。


「何で君が泣いてるか分からないけど、悲しい時とかはハグするのがいいんだよ!友達だからね!私がいるから大丈夫だよ!」


そう言って朧は優傘の頭を撫でながら、優しく微笑み優傘が泣き止むのを待った。

優傘はさらにそんな朧に抱きつきながら、大声で泣いた。


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