第31話 蜘蛛切り

 攻略のカギは、意外な方法で見つかった。


 何度繰り返しても土蜘蛛に勝てなかったので、気分転換に神藤ちなつと牌羽メアリの同時攻略ルートを遊んでいると、一人ずつ攻略したときには発生しなかったイベントがいくつも発生することに気づいた。

 その中で、神藤ちなつが土蜘蛛を倒す手段を祖父から語り継がれていたことが判明。


「土蜘蛛は『蜘蛛切り』っていう刀じゃないとダメージを入れられない……だと?」


 道理で何度繰り返しても勝てないわけだ。

 いったいどういう仕組みなんだと文句も言いたくなるが、そもそも呪いっていう化学じゃ推し量れない敵を相手取っている以上、この程度の理不尽は受け入れないとだめか。


 どうやら大覚寺にあるようなので、ゲーム内で試練を乗り越えて取得してくる。

 ここで大事なことが判明した。


「……は? 天月悠斗が手にした瞬間所有者が天月悠斗になった? 天月悠斗以外が装備するとただのなまくらになる? 待て待て待て」


 聞いてないぞ。

 いや待て、現実世界に引っ張り出せば銘が消えるっていう可能性も。


「……消えない。マジで天月専用武器になりやがった……!」


 エディット画面で現実に呼び出してみる。

 刃の腹を見ると、見事につぶされていた。

 物は試しと、ゲーム内から取り出した白樺でできた防具に刃を立ててみるが、一切傷がつかない。


 落ち着こう。


 牌羽メアリにとりついている呪いは土蜘蛛という妖怪。

 土蜘蛛を倒すには蜘蛛切りが必要。

 蜘蛛切りは手にしたものを所有者と認識し、それ以外のものが装備すればなまくらと化す。

 ゲームから引き出した場合、原作主人公専用武器となっている。


「どうすんよこれ」



「ということらしいんだけど」


 オレは【アドミニストレータ】で見てきたことを牌羽メアリに打ち明けた。

 原作が始まるまでどうにか耐えてもらうか?

 呪縛を弱める呪術とかないだろうか。


「えと、よくわからないのですが……今現時点では天月悠斗という方は『蜘蛛切り』なる刀を所持しているわけではないのですよね?」

「うん」

「ただ、遠くない未来に所有する可能性があり、そうなると天月悠斗さん以外に土蜘蛛を倒せる方がいなくなる」

「うん」


 メアリの質問に一つ一つ答えていく。

 いくつか質問した後、メアリは軽く握りこぶしを作り、鼻の下に持って行った。

 それからほどなくして、簡明で率直な、疑問であり解答を持ってきた。


「でしたら、わくしたちが先に『蜘蛛切り』をいただいてしまえばよいのでは」

「……」


 あ、あれ?

 確かにそうじゃん?


「本当だ。なんで気づかなかったんだろう」


 この世界とゲームの世界は間違いなくリンクしている。ゲーム内の大覚寺に存在するってことは、現実世界の大覚寺にも存在しているはずだ。


「よし。ちょっと取ってくる」

「ちょ、ちょっと取ってくるって……そうだ、京都行こうくらいの感覚で! 今からだと帰りの交通機関がなくなりますわよ!?」

「なぜフランス生まれなのにそのネタを知っているのか。まあ、秒で戻るから待っててよ」

「そんなオカルトありえま――」


 言い切る前に、【アドミニストレータ】を発動し、フリカムイの呪いで京都に直行する。


 寺がいっぱい。

 でも案内図とかいっぱいあるし、割とどうにかなるな。


 さて、ここが噂の大覚寺か。


(ゲーム内だと無理難題の試練がいっぱいだったけど、【アドミニストレータ】で時間止めた状態なら簡単に『蜘蛛切り』の保管場所までたどり着けるな)


 次に確認したときにもぬけの殻だと確認した人がかわいそうだから、怪盗参上の手紙でも残しておこうかな?

 いや、よくわからんスキルで追跡される危険があるし痕跡は残さず立ち去ることにしよう。


 蜘蛛切りを拝借し、また伊勢へと戻る。


「そんなオカルトが、ありえるんだよな」

「い、いつの間に背後に!? というかその刀は!?」

「『蜘蛛切り』」

「大覚寺に保管されてるのではなかったのですか!?」

「大事に保管されてた」

「……そういえば、瞬間移動のスキル持ちでしたわね。本当に、規格外すぎますわ」


 瞬間移動のスキルってわけじゃないけど。

 まあ勘違いされて不都合なことはないし、そのままにしておこう。


(ぶっちゃけこれ泥棒だけど)


 どうせ原作が始まるまで誰かに使われることも、誰かの目に触れることもなく、蔵の奥底で眠るだけの刀なんだ。


 メアリを救うのに必要ならば、オレが拝借することで彼女の苦しむ時間が1秒でも縮むのならば。

 オレは完全犯罪だってこなして見せる。


(眠らせておくくらいなら、女の子を救うために役立てさせてもらうぞ)

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