第32話 決着、土蜘蛛

 さて、ゲーム内だとピサの斜塔まで足を運んだりしていたけど、あれは『蜘蛛切り』がなかった場合の話だ。

 『蜘蛛切り』さえあれば、土蜘蛛のほうをこちらに呼び出すことができる。


「メアリ、後ろ向いてくれる?」

「かまいませんが、何をなさるつもりで?」

「んー、ちょっと小突くだけ」


 メアリを人通りの皆無な公園まで連れ出すと、『蜘蛛切り』の柄のほうで、メアリの背中をとんと叩く。


「あぐっ、ああっ!?」


 彼女の背中からどす黒い瘴気があふれだす。

 ごきごきと、骨を鳴らすような音が響き渡り、カタカタと笑うような声がどこからともなく響く。


「ああああぁぁぁっ!!」


 メアリが前のめりに叫んだ。

 その背中から、真っ黒で、腹の大きさだけで6メートルはあろうかという、骨でできた蜘蛛の魔物が現れた。


『ジャラハハハ!! 匂う、匂うぞ!! 忌々しい刀のにおいがする!!』

「出たな土蜘蛛」

『ジャラハハハ!! 小僧! 貴様だ! 貴様の持つその刀!! それさえなければ、もはや恐れるものは何もない!!』

「そうか。これから封伐されるけどな!!」


 超常の柩パンドラを開き、バーストを呼び出す。

 初速が音速を超える脚力で土蜘蛛に肉薄。

 鯉口を切り、一閃。


『ジャラハハハ!! 遅い!』

「ちっ、ちょこまかと」


 白銀の軌跡が、土蜘蛛のいなくなった虚空を切り裂く。でかい図体してなんて素早さだ。


『ジャラハハハ、こっちだ!!』


 明らかに無理な体重移動を、【剣術】スキルと【時空魔法】で実現し、人間には不可能な斬撃で土蜘蛛に迫る。

 だが、土蜘蛛はそれを見てから回避する。


(くそがっ、反射速度と身のこなしが化け物すぎる)


 ……だったら。


(アドミニストレ……)

『ムッ? させん!!』

「くっ」


 無詠唱で【アドミニストレータ】を発動しようとして、土蜘蛛から妨害が入り思考を中断させられる。

 【ラプラス】で攻撃を予測して、回避に全力を注いだのに、皮膚が少し引き裂かれた。

 くそ、落ち着いて考える暇すらくれない。


『貴様が何をしようとしたかは知らん。だが、そうやすやすとわしを欺けると思うなよ?』

「……蜘蛛だから、か」

『ジャラハハハ! そして、貴様はすでにわしの術中だ!!』

「これは、蜘蛛の巣?」


 見れば、足元に黒い糸が張り巡らされていた。


「逃げ続けるように見せて、罠を張っていたのか!」

『ジャラハハハ!! ご名答!』


 蜘蛛は狡猾だ。

 蜘蛛の巣という罠を張り、獲物がかかるのをじっと待つ。小さいとき、蜘蛛の巣に葉っぱを乗せたら必死に糸でぐるぐる巻きにしていたのを見たことがある。

 捕まれば、逃げ場はない。


『さあ、じっくりとなぶり殺してくれようぞ』


 ひたひたと、迫りくる土蜘蛛。

 両の足は粘性の強い糸にからめとられ、一歩も動けない。


『まずは、その刀から取り上げさせてもらうかの』

「くっ……」

『ジャラハハハ!! よいぞ! もっと悲痛に顔をゆがませるがよい! わしをもっと愉しませろ!!』


 蜘蛛が糸を吐き、『蜘蛛切り』を奪われる。


 脅威のなくなった土蜘蛛は、カタカタと高笑いしてオレに歩み寄る。


「そろそろかな」

『ジャラハハハ!! 降参か? それもよかろう!! わしの呪縛を受け、傀儡に身を落とすというのなら命だけは見逃してやる』

「ずいぶんとお優しい提案だが、お断りだ」

『ジャラハハハ……は?』


 虚空から取り出した『蜘蛛切り』で、一閃。

 土蜘蛛の八本の足のうち、4本の足が切断される。


『な、なんだとぉ!? なぜ、なぜわしの足が……! どうして貴様がいまだに『蜘蛛切り』を持っている!! 先ほど確かにわしが――』

「ああ、それ、ただの模造刀だよ」

『な……に……? いや、これは間違いなく本物……どういうことだ、なぜこの世に『蜘蛛切り』が二本も存在している!?』

「さてな。暗闇の底で考えてみるがいいさ」


 バーストの力で、土蜘蛛の巣を地形ごと粉砕する。

 半分の足を失い、バランスを保てなくなった土蜘蛛を何度も何度も切り裂く。


『貴様! 貴様ぁ!! 絶対に呪い殺してやる!!』

「できるもんなら、やってみろってんだ」


 超常の柩パンドラ、変形。

 黒色の柩が、そのあぎとを開く。

 巨体の土蜘蛛を一飲みにしてしまう。


「……封伐、完了」


 『蜘蛛切り』を鞘に納める。

 鍔鳴りはしない。

 しっかりと手入れされている証拠だ。


「楪灰さん……あなた、本当に、何者なの?」


 最近、よく聞かれる気がするなぁ。


「正史の舞台には上がらない、デビルカッケェ地雷勢モブキャラだよ」

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