第2話 神藤 ちなつ
「んー、おかげ横丁に来るのも久々だな」
オレはスキルの効果を検証するべく、【アドミニストレータ】を一度止めて、町へ出た。
向かった先はおかげ横丁。
江戸時代から明治期の風情を残した57店舗からなる、飲食店が連なる通り道だ。
とりあえず検証するのは二つだ。
引き出した紙幣がきちんと使えるのかと、本当に【剣術Lv2】を使えるのか。
お金の検証先は決めている。
この先にある
振り方次第で内部に仕込んだ刃を出せるデビルかっけぇ竹刀で、ずっと欲しかったんだけど7980円はオレの小遣いだと厳しくて手を出せずにいたんだよね。
「おじさん!
「お金はあるかい?」
「うん!」
ゲーム内通貨だけど。
さて、使えるかな。
(このおじさんは【鑑定】スキル持ちって噂だから、これでこの1万円が本物かどうかわかる)
まあ違ったら違ったで自分も被害者だって泣き喚けば許されるでしょ。子供のアドバンテージを全力でいかしていこうぜ。
「ふむ、はいよ。重いから気を付けてね」
「え……とと、わぁ」
驚いた。
機巧竹刀の重さもだが、お金が使えてしまった。
あの紙幣、本物なんだ。
ということは、剣術スキルも本物?
検証したいけど、検証するあてがなぁ……。
ん?
店の外が騒がしいな。
なんだろう。
「どけぇ! 邪魔だぁ!!」
「きゃああ! ひったくりよ!! 誰か捕まえてー!」
扉を開けると、こちらに向かってくる窃盗犯と目が合った。
えぇ……。
おかげ横丁と言えば伊勢神宮の近くだ。
天照大神のお膝元とも言える。
そんな場所で窃盗する輩がいるの……?
「クソガキ!! 死にたくなきゃ道を開けろ!!」
ん?
これって剣術スキルを検証するチャンスでは?
腰だめに竹刀を構える。
握ったばかりで刃渡りも把握していない竹刀なのに間合いがわかる。剣を構えた経験なんて皆無なのに、どう構えればいいかが直感でわかる。
剣閃の予測線と言えばいいだろうか。
振り抜けばどんな軌跡を描くかが網膜に映る。
「どけっつってんだろうがぁ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
右足を大きく踏み込む。
左ひざは地面すれすれという超低姿勢。
そこから放たれる、亜音速に迫る一閃。
「ぐはぁっ⁉」
竹の刃が窃盗犯の横腹を薙ぎ払う。
男は鈍い悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
お、おう。
さすがに自分でもびっくりだ。
「おおおお! 坊主やるじゃねえか!」
「剣術スキル持ちか何かか⁉」
「その年でスキル持ちたぁやるな!」
「うわ、え、ちょ」
なんか周りから集まってきた大人にもみくちゃにされてるんだけど。ちょ、ええい!
息苦しいっつうの!
ふぅ、なんとか抜け出したか。
お、窃盗犯も大の大人数人に抑え込まれてる。
ひったくったハンドバッグは持ち主の元に返ったようだ。うんうん、めでたしめでたし。
「ちょっとこっちに来てー!」
「うおっ?」
と、事の成り行きを眺めていると腕を引かれた。
突然の引力に逆らえず、なされるがままに路地に引きずり込まれてしまう。
「……笹島ちなつ?」
「はえ? どうしてフルネーム呼びなの?」
どうしてって……、童貞だからじゃね?
童貞は女性をフルネームで呼びがち。
やめた方がいいのは分かるんだけどさ。
突拍子もなく出てこられるとこっちも心構え出来てないから呼び方がそうなってしまうのも許してほしい。
「えっと、オレに何か用?」
「もっちろんだよー!」
「ですよねー」
ちなつは目をキラキラさせてオレを見ていた。
両手に握りこぶしを作ってあごの高さに構えていて、全身をうずうずさせている。
なにこれ。今から私刑されるの?
「ねえねえ! さっきのどうやったの?」
ちなつが身を乗り出した。
すわジャブを打たれるかと警戒をしつつバックステップを踏むと、間合いを詰められた。くっ、やるな。
いや待て。
相手は対話をしようとしてくれているんだ。
何かしら誤解が生まれているかもしれない。
ひとまず言葉を紡ごう。
「なんか、剣術、生えた」
「生えた⁉ なんでカタコト? インディアン⁉」
「いや日本人だけど」
「知ってるよー!」
「見てこの黒髪」
「知ってるってばー!!」
両手を強く握って地団太を踏むちなつ。
小動物みたいでかわいい。
あれ? もしかして殴りこみに来たわけじゃない?
ごめんと口にして、彼女の怒りが引くのを待つ。
「むぅ、調子狂っちゃうよー。えっと確認なんだけど、想矢は剣術スキルを持ってる、よね?」
女の子に名前で呼ばれた。
わーい。
「だいたいあってる」
「だいたいって何⁉」
「ふとももの音読み?」
「それは初めて知った!」
大腿骨とかいうじゃん。
あれだよあれ。
にしても剣術スキルか。
持っていると言えば持っている。
ただ、剣を学んだ結果手に入れたスキルじゃなくて、ゲームで遊んで身につけたスキルなんだよな。
うーん、これを剣術スキル持ってますと声を大にして言っていいものか。
「あのね?」
悩んでいると、ちなつが顔をずいと寄せた。
驚いて一歩退くと、彼女は距離を詰めるように一歩にじり寄る。
数歩も下がれば、建物の壁が背後に迫った。
「わたしにも、剣を教えてほしいの!」
……は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます