エロゲのモブには荷が重い ~覚醒したスキルがオレにエロゲの美少女を救わせようとするけど、原作知識と固有スキルでみんなの笑顔を守りつつ自由に生きようと思います~
一ノ瀬るちあ@『かませ犬転生』書籍化
原作前
第1話 外れスキルはチートだった
もっとも印象に残っているゲームは何ですか。
現代に生きるオレたちは、多かれ少なかれゲームに人生を左右されがちだ。ゲーム配信で収益化を目指すために学校をやめる生徒もいると聞く。
誰しも、印象に残っているゲームがあるんじゃないかな。もしかしたらそれは複数あって、どれも甲乙つけがたいものかもしれないけれど、思いつかなくて返答できない人は少数派なんじゃないかと思う。
『ぱんどら☆ばーすと』
それがオレのやりこんだゲームの名前だった。
この作品に関して、オレは語るに語りつくせぬ悲喜こもごもの思いがあるのだけれど、この余白にそれを書くにはあまりに狭すぎる。
だからあえて、一言で済まそう。
オレ、このゲームの住人なんだ。
*
三重県伊勢市生まれの
12歳の時、オレはこの世界がゲームだと気づいた。
ある日、突然、ふいに。
天恵のように一つのスキルが覚醒したのだ。
『【アドミニストレータ】を習得しました』
「アドミニストレータ……?」
アドミニストレータという単語に聞き覚えの無かったオレは、周りの大人にどんなスキルかを聞いて回ったんだ。
だけど、誰もこのスキルのことを知らなかった。
学校の図書室で調べてみても、インターネットで調べてみてもそれは同じ。分かったのはアドミニストレータが管理者を意味する言葉ってだけ。
正直言って、オレはワクワクしていた。
胸が奥の方から熱くなったのを覚えている。
誰も知らないオンリーワンのユニークスキルが発現したんだ。自分は特別なのかもって思うのも、仕方のないことだろう?
「【アドミニストレータ】、発動!」
刹那、広がる視界に変化が起きた。
世界が色を失い、すべてが灰色に染まる。
粘性を帯びたように、時の流れがドロリと淀む。
プラズマが背後からオレを追い越した。
迸る燐光が折り重なり、オレの眼前で収束する。
一枚のプレートウィンドウが目の前に現れた。
「『ぱんどら☆ばーすと』? はじめから? CGモード? MUSICモード? エンディングコレクション? え、オレのスキルってゲームをプレイするためだけの物ってこと⁉」
すうっと、胸の奥にあったドロリとした熱源が冷めていくのを感じた。
外れだ。大外れスキルだ。
こんなスキルがあって何の役に立つ。
むしろみんなにバレたら「遊び人」ってからかわれるだけのマイナススキルじゃないか。
冗談じゃない。
この世界の創造主はオレが嫌いなのか?
いや、いやいや。
まだ決めつけるには早い。
見た目はゲームでも、中身は別物かもしれない。
まだ希望を捨てるな。
結論から言おう。
ゲームだったわ。
主人公の
呪いとは生き物が生み出した、未練や妄執といった負の感情の総称だ。それは最初、形のない概念に過ぎない曖昧な存在だ。
だが一度人に取り付くと、記憶から実体を創造し、やがて人間を襲い始める。
呪いに対抗する唯一の手段、
ぶっちゃけ言おう。
「めっちゃおもしろい」
このゲームのキーアイテムとなる
強力な呪いには強力な反動があり、使うタイミングを見極めなければいけない。戦略的要素もある。
ゲームシステムもストーリーも面白いんだ。
ただ、ただね?
『ひゃ……あっ……ダメぇ……、んぁ、やぁ……』
ヒロインが徒手空拳の鍛錬を積んでいるだけの健全なシーンだ。やましいことは何もない。だが一つだけ気になることがある。
「この
順当に成長すればこうなるだろうなって未来図がそこにあった。苗字こそ違うが妙な縁みたいなものを感じる。
オレはちなつルートを進めることにした。
他にも攻略対象のヒロインが大勢いて、おそらく複数人攻略ルートとかもありそうな雰囲気だ。だけどそれは2週目以降でいいや。今回はちなつ一筋で行く。
気づけば夢中になって遊んでいた。
どうせ現実の時間は停止したままだ。
誰はばかることなく好きに遊ばせてもらおう。
「ぐあっ、ゲームオーバー!!」
意外とこのゲーム難しい。
結構まじめに取り組んだのに割とあっさり敗北してしまった。
あ、エンディング流れるんだ。
ゲームオーバーでバッドエンドが流れるタイプのゲームなのね。
「ん? なんだこれ。実績解除、エンディングを1パターン解放。タイトルに【エディットモード】が解放されました?」
エディットモード?
何かを編集する機能かな?
一度タイトルに戻る。
見れば選択肢に、エディットモードが追加されていた。オレはなんとなくエディットモードを起動する。
「……は? オレ?」
ディスプレイに映し出されたのは、オレの姿だった。年齢、住所、それから、オレすら知らないステータス。それらが画面に表示されていた。
「所持金2500円て、なんでそんなことが分かって……いや、これオレのスキルだったか。だったらそれがわかっても当然。でも、その隣の倉庫14213円ってなんだ?」
倉庫の欄はタップすると、数値を入力できるようになっていた。『いくら引き出しますか?』と聞かれたのでキリよく1万円を指定してみる。
「……え?」
貯金箱を確認すると、1万円札が追加されていた。
代わりに倉庫が4213円になっている。
「もしかして、もしかして!」
持ち物欄をタップする。
持ち物は何も表示されない。
だがその横にある倉庫欄には、オレがゲーム内で獲得したアイテムがリストになって並んでいた。
当然、その中にはあのアイテムも存在する。
喉を唾液が下る。
震える手で、オレはそれを選択した。
いや、いやいやいや。
夢だ。こんなの夢に決まっている。
だから、これを追加したところで現実に変化なんて起こるはずがない。
そんな予想は、あっけなく崩れた。
つい半秒前まで何もなかったオレの手には、光をすべて飲み込むように真っ黒な立方体が握られていた。
「
まさか、【アドミニストレータ】はゲームの世界を現実に反映するスキルなのか? いや、それとも、この世界自体がゲームそのものなのか?
「スキル一覧って、もしかして」
わくわくしながら選択する。
そこには予想通りの文字が並んでいた。
まず、左側にオレのスキル。
これは現状【アドミニストレータ】の一つだ。
そして、右側には主人公の天月悠斗が獲得したスキル一覧が並んでいる。その中の一つ、【剣術Lv2】をドラッグしてオレのスキルに移す。
「は、はは。まじか? これ、ゲーム内で取得したお金、アイテム、スキルを現実に持ってこれるのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます