第36話 とまらぬ拳
「水技――水鉄砲!」
ホップ。
「水鉄砲!」
ステップ。
「水鉄砲!」
ジャンプ。
「ちいぃっ! ちょこまかしやがって!!」
避ける、躱す――動き回る視界、世界が反転する。
当たれば致命傷だろう。しかし、当たらない――当たる気がしない。夜凪の間隙を縫っては、
「雷鳴――電撃!」
夜凪が片膝を突く。
所々に目立つ外傷――少しずつ、自動防御が追い付いていないと見て取れた。それにしても驚くべき耐久性能だ。何発、電撃を打ったのかは数え切れない。
夜凪はうずくまったまま、両手を地面に置き、
「……これなら、どうだ。水技――水糸」
青白い糸が地面に広がる。
これは、夕凪と僕を足止めした『言霊』だ。前回と同じく、足が微動だにしない。天音先輩は、この状況をどう打破――どんっ! と、靴を脱いで足踏みを一つ。火花が散ったかと思えば、夜凪ごと青白い糸が弾け飛んだ。
(なにか適当に喋るがよい)
(あ。は、はい)
「ら、雷鳴――地団駄!」
(……もう少し、マシなネーミングはないのか)
(す、すいません)
あれだけ、苦戦した『言霊』を一蹴――あまりの出来事に、僕自身も驚いて声を失ってしまった。しかし、それを受けつつも夜凪は立ち上がる。が、今の一撃で水の膜は完全に消え去ったようだ。
「……まだ立てるなんて、不死身に近いね」
皮肉ではなく、率直な感想を言う。
「不死身か。妹に比べりゃ、俺は大したことがねえ」
「大したことがない? とてもそうは見え――」
「てめえ、兄妹はいねえのか?」
「――? 一人だけど、それがどうしたんだ?」
(さて、そろそろフィニッシュじゃ)
僕の質問と同時、天音先輩の声が脳内に響く。
「……はっ! だと思ったぜ。てめえの怪我が治ってるってことは、妹に治してもらったんだろ。あいつの回復が上手い理由を知っているか?」
(どでかい一撃をかますぞ!)
「治してたんだよ、ずっとな。上達したのも俺のおかげだ。許せねえんだよ、殴りたくてたまんねえんだよ。きひひはははははははっ! この気持ちがわかるか? いや、てめえにはわからねえだろうなぁ」
耳障りな笑い声、気付けば僕は――、
(なっ! 馬鹿者が!! なにをし)
――夜凪を殴り飛ばしていた。
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