第35話 始まる対校戦

 大っぴらに開いた講堂。

 まるで、ライブ会場のような盛り上がり。館内には野球観戦さながら、敵チーム側と味方チーム側の境界線。そして、その中央にはステージがあり、照明が集中されている。言うまでもなく、そこは選ばれたものだけが立てる場所だ。


 生徒会に関わる面子だけを集めて『論争』するものかと思っていた。が、僕の予想に反してすごい人数だ。それもそのはず、当たり前か――各々、負けた側に理不尽な校則が追加されるかもしれないんだ。勝敗の行く末は、誰しもが見届けたいに決まっている。この大舞台に緊張? と聞かれれば、答えはノーだ。


 現時点、感情があるとすれば、目の前の男に対する――、


「よぉ。遺言は残してきたか?」


 ――怒りだけだろう。


「残念ながら、遺言はないよ。君こそ必要じゃないの?」


 真っ直ぐ、夜凪を視界に入れる。


「……この数日でなにがあった? その顔付き、えらく変わったじゃねえか」

「色々あってね」

「はっ! 色々、か。……面白え! ブッ殺してやるよ」


 一触即発――互い、動かない視線。

 今の僕に恐怖はない。耐えに耐えた拷問に近い修行――あれより恐ろしいものは、この世に存在しないからだ。


 ……深呼吸を一つ。


 あとは開始と同時、天音先輩に――、


「僕の『言霊』は結論を導く者――『賛否両論』!」

「『言霊』! 水を制する者――『水蜘蛛』!」


 ――この身を委ねる!


『論争』開始。


 瞬間、僕の頭が右に動いた。左頬を風が撫でる――どうやら、夜凪の攻撃をかわしたようだ。いつの間に攻撃していたのか、見当もつかなかった。


「ったく、避けるんじゃねえよ」


 後ろの壁に穴が開く。

 先日の自販機の一件を思い出す。夕凪の牽制とは違い、確実にヒットコース。当たっていたら、頭の通気性が抜群になっていただろう。


夕凪の言っていた通り、夜凪は一片の躊躇いもなく――、


「僕を殺す気かな?」


 ――思わず、問う。


「殺す? 人聞きが悪いな」


 夜凪はニタリと口の端を歪めながら、


「目障りなゴミは排除する。当然だろ」


 ゴミ、ね。

 生徒会長って大変だな、と改めて実感したよ。まさか、高校生活で命のやり取りを体験できるとは。どこかの仁義なき世界、縁のない話かと思っていたよ。


 ……感想は後回しだ。


 今やることは、ただ一つ。僕はこいつを――、


「倒す」


 ――んだっ!


「雷鳴――電撃!」


 僕の指先に青紫の光が集中する。

 館内に響き渡る轟音――蛇のような軌道を描き、夜凪の方へと飛んで行く。

 何故、僕が天音先輩の『言霊』を使うことができるのか? 単純な話、現在の僕の体内には天音先輩によって大量の電気が貯蓄されている。


 つまるところ、この貯蓄した電気を消費して『言霊』にしているわけだ。僕の『言霊』とは全く関係ないが――そこは問題ない。『葉言高校』の生徒たちは、僕が天音先輩と同じ雷の『言霊』だと、入学式の時から勘違いをしているはずだ。なので、適当に叫んで乗り切っちゃおう。ちなみに、雷撃と電撃という小さな違いのネーミングだったりする。

 と、まあ、僕の放った雷は直撃したわけだが――、


「いいぜえ。楽しくなってきたじゃねえか!」


 ――煙が晴れると共に、無傷の夜凪が現れた。

 確かに、当たったはずだ。

 しかし、ダメージがないのは見るからに明らか――先日、夕凪の『言霊』をくらった際もぴんぴんしていたよな。もしかして、瞬時に回復させているのか? 夕凪も僕の怪我を治してくれたわけだし、十分にありえる。


(自動防御じゃな)


 脳内に響き渡る声――天音先輩だ。

 僕は今、天音先輩とリンクした状態になっている。その一つの機能として、声を送信しているんだ。簡単にいえば、電話のようなものかな。


(自動、防御? 回復じゃないんですか?)

(目を凝らしてみよ。夜凪の周囲に薄い水の膜が見えるはずじゃ)

(……本当ですね。あれで攻撃が通らないってわけですか。どう対処しますか?)

(ふふん。答えは簡単じゃ)


 威勢のよい鼻息が聞こえ、


(貫通するまで、ぶっこんで行くぞ!)


 余裕綽々、天音先輩の笑みが目に浮かんだ。

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