第34話 なにがなんでも勝ちたいんだ

 逃げる? 逃げない?


 二つの選択肢――言うまでもなく、どちらが簡単な道筋かは一目瞭然だろう。

 僕は『葉言高校』に入学して、偶然にも生徒会長になってしまった。勿論、やりたくなかったし、やめられるならいつでもやめたかった。


 それは、生徒会長の件だけに留まらず――今までの人生の大半はそうなんだよ、と言っても過言ではない。口から出るのは、いつも情けない言葉ばかりだった。

 逃げるということには、可能性は存在しない。逃げないということには、可能性は存在する。普通の高校生活が夢の彼方ならば、現状を受け入れて新しい道を探すことにこそ意味がある。


 ……今回だけ、今回限りでいい。


 無理矢理にでも、自分を変えてみたい――変わってみたいんだ。


「やつに、夜凪に勝ちたいです」


 天音先輩、風宮さん、二人を前に――、


「勝てるなら、どんなことでもします。よろしくお願いします」


 ――はっきりと、僕は思いを口にした。


 ◆ ◆ ◆


 決戦まで、残り三日。


「ワンセット追加じゃ!」

「ふぅうう! ほぉおおおおっちゃぉ!」

「長持ちするよう充電し、いかに燃費よく消費するかじゃ」

「きゅぅんっ! しし、し、死ぬ、死ぬぬぅ! 死ぬうぅう!! か、風宮さん、助け」

「大丈夫です。死ぬと言う人間ほど、長生きします」


 反則と言われれば、反則だ。


 ◆ ◆ ◆


 決戦まで、残り二日。


「目を閉じちゃ駄目です。さあ、言動さん」

「で、でも、怖いです! 怖いですよぉおお!!」

「百回の右ストレートを追加します」

「ごぶほ! ぶっ! ぁ、天音先輩、ちゃんと動かしてください! きゅ、九十発くらい当たって、てて、まぶぅっ!!」

「……ふまにゅ。欠伸をしておった」


 でも、これが今の僕にできる精一杯なんだ。


 ◆ ◆ ◆


 最終日。


「作戦は以上じゃ。胸を張って行くがよい」

「ご武運を祈っています」


 二人からの激励を背に、僕は足を前に進める。


「天音先輩、風宮さん、ありがとうございました」


 あとは、自分を信じるだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る