第29話 それって反則じゃ?

 反射的、目を閉じるほどの雷光。

 響き渡る轟音と共に、走る稲光。


「ぐぼふぉああああぉおおあああ」


 輝かしい光の中、僕は口から煙を吹いていた。


「む、まだ充電が足りぬのう。ワンセット追加じゃ」

「ワンセット? し、死んでしま――」

「天鳴――雷撃」

「ちゅんっ!」

「もう、ワン、セット!」

「ノリノリすぎりゅぼばああああああああああ、おぉおああああああああああああああああああああああああっ!」

「ふむ。これくらいかの」

「ごふっ。ろ、『論争』を開始する、前に、死にそう、なんですけど」


 そもそも、この拷問になんの意味が――、


「ワシがお主を操作する」


 ――操、作する?


「ワシの電気をお主の体内に流し込んだ。覚えておるか? 先日、生徒会長の引き継ぎ届けを書かせたこと、お主を二階からダイビングさせたことを」

「……ぇーと、勝手に体が動くやつですよね? というか、前者はともかく後者は死ぬかと思いましたからね! 夕凪が治してくれなかったら大変でしたよ!」

「うぬう。すまぬと謝ったではないか」


 拗ねたように唇を尖らす天音先輩。


「……それで、この電気地獄になんの意味が?」

「うむ、そのことについては簡単な話じゃ。充電をしておるのじゃよ」

「じゅ、充電?」

「充電時間が長ければ長いほど、お主を操る時間も増える。携帯機のバッテリーと同じようなものじゃ」


 理屈は理解できた。

 しかし、僕が生身の人間だということを忘れないでほしい。完全にウェルダン級な焼き加減を超えて黒こげに等しい。


「さて、行くぞ。天鳴――雷経!」


「……っ!」


 ドンともバンとも、なんとも形容し難い音が僕の体内から響き渡る。

 前回の静電気のような軽いものとは違い、自分自身に雷が落ちたのかと思った。天音先輩は悪戯をたくらむ子供のよう、ニヤリと八重歯を覗かせながら、


「ふふ。夜凪との『論争』は、ワシがお主を操作して倒す」


 な、なんと!

 まさかの反則宣言が飛び出した。


「右手を挙げよ」


 ビシッ!


「左手を挙げよ」


 ビシシッ!!

 天音先輩が指示するや否や――前回同様、体が勝手に動きだす。


「天音、大好きだよと言え」

「天音、大好きだよ」

「……っ」

「言わしておいて、なんで照れるんですか!」

「……こほん。蓮、少し相手をしてやってくれんかの」

「わかりました」


 えっ? 相手って――、


「私の『言霊』は、風を操る者――『風神』」


 ――生徒会室に、暴風が巻き起こる。


 窓が震動する。プリント用紙の類が部屋の中に舞い散る。荒れ狂う中心部にて、二つの鋭い眼光が僕を突き刺した。

 生唾を飲み込む。生命の危機を、本能が感じ取っている。


「行きますよ。言動さん」

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