第26話 ここはどこ? 私は誰とまではいかない

「……っ?」


 見知らぬ天井が、目に入る。

 加えて、ふかふかとした暖かな感触。どうやら、布団の中にいるようだ。ううむ、夕凪の働いている喫茶店で優雅にデザートを食べて――おかしいな。記憶が曖昧だ。ここはどこだろう?


「ぅ、にゅっ」


 すぐ側から、か細い声。

 体を起こし、声のする方に視線を移すと――そこには夕凪がいた。すぅすぅと、口元から漏れる寝息、両腕を枕にしながらベッドにもたれかかって寝ている。えぇっ! どういう経緯でこういう展開になったの? 

 じょ、状況が飲み込めな――、


「ん、んぅ」


 ――おぉう。

 それにしても、可愛いらしい寝顔だな。

 とりあえず、起こして事情を聞くのが一番だろう。つんっ! つくつん。夕凪の頬を突付いてみる――べ、別に触ってみたかった、とかじゃないからね。


「みぅ」


 柔らかい。


「みゃぅ」


 潤い抜群の素肌。

 やばい。感触は勿論のこと――反応が素晴らしい。風宮さんの言う通り、僕は変態だったのか。つく、つくつん! く、癖になりそう――うん、もう変態でいいや。


 至福の連打を続けること数回の後、夕凪の目が開く。


 残念、もう起きてしま――そう思ったのも束の間、夕凪は寝ぼけ眼でベッドの中へとインサイトして来た。

 もぞもぞと、ぴたり密着。想定外の事態に固まっていると、


「……ふぁ。うぅ、ん」


 夕凪は欠伸を一つ。

 そして、猫のように伸び伸び――先ほどとは打って変わって、大きく開いた目。交わり合う視線。

 極めて平静を装いつつ、僕は口を開く。


「モーニン。夕凪」


「こ、言也君? え、ふぇ」


 かぁぁ、と頬を赤く染め、布団で顔を覆う夕凪。


「これはさ、違うんだよ。僕が目を覚ましたら、こういう状況で、なんていうか不可抗力というか――」


「……夕凪、寝ぼけてたんだね。ごめんなさい」


 誤解されるフラグかと思いきや、予想外な理解のよさ。

 夕凪は身体を起こし、僕の衣服に手を触れながら、


「ね。言也君、脱いで」

「えっ」

「脱いで」


 更に、予想外は続く。


「ぬ、脱ぐって、服を?」

「うん。早く」

「本当に?」

「??? うん?」


 だ、大胆だな。

 言われるがまま、僕はズボンに手を掛けて――一気にずり下ろす。年頃の男女が一つのベッドに一緒だ。よからぬ妄想に胸を膨らませながら、パンツを露わに仁王立ちで振り向く。


「どうしてそんな笑顔なの!? う、上の服だけでいいの!」


「へ? う、上? ……あ、うん」


 続けて、上着を脱ぐ。夕凪は僕の右肩にそっと手を触れ、


「……怪我、もう大丈夫だね。よかった」

「怪我?」

「きょとんとした顔して、どうしたの?」

「……いや。そうか、そうだったな」


 思い出した。

 完全に思い出した。僕は出血多量で――気を失ったんだ。

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